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Z世代と上司の向き合い方 「一体感を持とう」「精神論」ではなく…

ついつい「今どきの若者は…」と言うことがあるかもしれませんが、それって本当に若者の傾向なのでしょうか?データを分析してみると「親子関係が変化している」ことが分かってきたそうです
ついつい「今どきの若者は…」と言うことがあるかもしれませんが、それって本当に若者の傾向なのでしょうか?データを分析してみると「親子関係が変化している」ことが分かってきたそうです 出典: paru/stock.adbe.com

親と深いつながりがあり、幼い頃からの友達の存在感が強い……。データからそんな傾向がみえてきたZ世代ですが、会社での上司や先輩にあたる上の世代はどのように向き合ったらいいのでしょうか。「若者調査」などの研究成果を基に『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)を出版した博報堂生活総合研究所の主席研究員・酒井崇匡さんに聞きました。(朝日新聞withnews編集部・水野梓)

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若者調査:2024年と1994年に19~22歳の未婚男女を対象として生活総研が実施し、30年での若者の意識変化を分析した調査。さらに2024年の調査では、30年前に若者だった世代にあたる現49~52歳の人にも同じ調査を実施している

幼い頃からの友達 増す存在感

――今回の若者調査では、幼い頃からの友達の存在感も増しているんですね。

一番仲の良い同性の友達について、出会ったのがいつかを尋ねると、「小学校」「小学校以前」が増えており、「高校時代より前」を合計すると9割にのぼりました。

つまり、「大学時代や社会人以降の友達」を一番親しいと答える人がきわめて少ないんです。

43歳の私からすると、価値観が同じような大学時代の友達が一番親しい感じがするので、衝撃的でした。

――家族や、小さな頃からつきあっている友達が重要視されている、ということですね。

学歴や職歴に左右されずに何でも話せる友達の存在が、すごく大事になっているんですね。

これはふたたび、家族みたいな血縁や「地縁」が再評価されている可能性があります。

仕事のように目的でつながっている関係性ではないので、退職しても関係性が切れることはありません。

――親とのつながりが深く、何でも相談する親の「メンターペアレンツ化」もそうですが、友達にも「否定しない関係性」というのを求めているのかなと思いました。

【インタビュー前編】「Z世代といえば…」それって思い込み?大きく変化したのは親子関係
https://withnews.jp/article/f0251104001qq000000000000000W02c10101qq000028357A

そうですね。「否定しない・されないこと」がとても大事で、親しい友達にはそういったつながりを求めています。

一方で、大学や会社のつながりなどは、「いつ切れるか分からないが、機能的にスキルアップする関係も大事」とビジネスライクにとらえている人もいます。

20代同士のメンターを

――そんなZ世代に、管理職や上の世代はどのように向き合ったらいいのでしょうか。

このテーマについては、『静かに退職する若者たち: 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』の著者である金沢大学の金間大介先生と新著の中で対談しました。

金間先生は、若者と心を通じ合わせようとか、一体感を持とうとするマネージャーは多いが、若者は引いてしまうと指摘されています。

その上で、「上司は自分を機械的な機能だと考えて接する方がいい」「精神論ではなく、何が加点、減点の対象なのか、具体的にこまめにフィードバックするのが大事」とアドバイスをくれました。言い方を変えればシステムに徹する、ということです。

Z世代の消費の話題でもふれていますが、この世代は「同世代に比べて自分が成長しているのか、まだまだなのか」という「横」については気にする世代です。

つまり年代の離れた上司や先輩が「俺の背中を見て、ついてこい」というのはあまり響かず、同年代のロールモデルが求められている、ということですね。
出典: metamorworks/stock.adbe.com
――上の世代がZ世代の本音を引き出すのは難しいので、20代同士のメンターをつけるとよいといったノウハウはとても参考になると思いました。とはいえ、ボリュームゾーンとして少ない世代なので、実際にできるかどうか難しさもあるかもしれませんが……。

職場の中に、若者の数が少ないという業界や企業も増えていますよね。

そういう場合は、「業界の同期をつくる」といった業界内の横のつながりを組織していくことも大事だと思います。

――自分たちがそう育てられていないのに、Z世代を違うやり方で育てなければいけない管理職の世代も大変ですね。

企業側も過渡期にいますよね。一方で「ボスはシステム」いう考え方は、企業以外の世界でも広がってきています。

たとえば、スポーツマネジメントの専門家によると、スポーツのコーチングや体制づくりでは、監督はシステム化しているんだそうです。

過去には、野球の監督って選手からすると「師匠」みたいなものでしたよね。今の監督は選手を公平に評価して明確に戦略を示す「ゲームマスター」のような存在であることが大事だそうです。
 

若い世代は「内向き」懸念もあるけれど

――血縁や地縁が再び強まっていると考えられる一方、上の世代からは「最近の若者は親離れしない」「若い世代が内向きになっている」と懸念する声も寄せられるそうですね。

このテーマは、スタンフォードオンラインハイスクール校長・星友啓先生へのインタビューを通じて掘り下げました。

星先生は、特に日本のZ世代が新しく人と会うときの態度に差が出やすいと指摘していました。

「はじめから相手を信じて友達になろうとする海外の子どもと、まずは距離を取って様子を見る日本の子どもという構図をよく見る」のだそうです。

これは社会心理学者の山岸敏男氏が提唱した、信じて協働してみることや個人を重視する「信頼社会」と、仲間外れにされないこととムラ的な絆を重視する「安心社会」の違いだとも指摘されていました。

――私は、街中で人が倒れた時は積極的にAED(自動体外式除細動器)を使って救助にあたってほしいと呼びかける記事を書いていますが、それに寄せられる反応の中には「訴えられたらどうするんだ」というものがありました。

いろいろな調査を見ても日本人は、倒れた人がいたときに行動したり、困っている人に声をかけたりするのが苦手という傾向はあるようです。

これは裏を返せば、「自分自身が助けられることも苦手」ということでもあるのかもしれません。
【連載】「AED持ってきて」~20年のいま~
――さらにZ世代は、「不安や不満を抱えていても、行動につなげる割合が低い」とも指摘されていましたね。これも、上の世代がそう振る舞ってきた影響なのかなと感じました。リスクをとって声を上げても組織で村八分にされたり……。それなら黙っていようと思ってしまいますよね。

親としても、この対談のなかで本当に考えさせられました。

よく知らない他者を信頼できるようになるために大事なこととして、星先生との対談で印象に残っているのが、「困っている人を助ける体験」です。

困っている人を助けるというのは、人とのつながり、有能感、自立性という三つの要求を充足させられます。自分の近しい人や身内を助けるのは当然だけれど、見ず知らずの人を助ける、助けることができたという経験が大事です。

都市部ではインバウンドの旅行者も増えていますし、「見ず知らずの困っている人を助ける」ことはさまざまなシーンで経験できると思います。

そのような体験を子どもにさせることも大事ですが、まず親をはじめとした上の世代が、自分自身の行動で姿勢を見せていくことがとても大事だと思います。

「上の世代のふるまいを見ながら育つ」

――最後に、『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』をどんな人に読んでもらいたいですか?

企業がZ世代と接する時や、マーケティングでのZ世代へのアプローチを考える時にも、上の世代が読むと気づけることが多いと思います。

親子関係をはじめ、上下の世代で仲がいいというのは、ポジティブな面が当然あります。地縁・血縁というものが再構築されるということは、ある種、幸福が安定化されるということでもあります。

また、若者というのは資金力が少ないものですが、親子で消費するからできる体験があるということも見えてきました。

「推し活」でいえば、子どもから親への伝播もしやすくなっています。スケートボードやマンガをはじめ、いろいろな現場で「年代差」がなくなってきています。これからは上の世代も「若い世代とともに楽しんでいこうよ」という感覚が求められるのではないでしょうか。

そして「上の世代のふるまい方を見ながら、Z世代は育つ」ということも忘れないでおきたいですね。
 
Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係(光文社新書)
【インタビュー前編はこちら】「Z世代といえば…」それって思い込み?大きく変化したのは親子関係

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