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#49 小さく生まれた赤ちゃんたち
「生まれてすぐの抱っこ」は憧れ…1500g未満の〝ウエイトベア〟
妊娠25週で772gの赤ちゃんを産んだ女性が作り続けています

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#49 小さく生まれた赤ちゃんたち
妊娠25週で772gの赤ちゃんを産んだ女性が作り続けています
772gで生まれた次女はすぐにNICU(新生児集中治療室)へ運ばれていき、抱っこすることができなかったーー。そんな経験をもとに、1500g未満で生まれた小さな赤ちゃんの出生体重・身長と同じクマのあみぐるみを作る女性がいます。SNSで口コミが広がり、全国から依頼を受けた「ウエイトベア」は3年で300体を超えました。
「私は生まれてすぐの我が子の重さを知りません。生まれてすぐそばに連れてきてもらう、抱っこするというのは、憧れだったんです」
3年前からウエイトベアを作る髙橋日奈さん(38)=北海道留萌市=は、そう話します。
2019年4月、予定日よりも105日早い妊娠25週0日(妊娠7カ月)に、緊急帝王切開で体重772g、身長31cmの次女・愛乃(あいの)さん(6)を出産しました。
髙橋さんは麻酔の影響で吐き気に襲われ、当日はふれることも難しく、会えたのは翌日。夫と一緒にNICUで保育器越しでした。
横になる愛乃さんには、治療のためたくさんの管がつながれていました。
生まれたときの体重を数字ではわかっていても、実感することはできませんでした。
初めて抱っこできたのは、生後55日目。胸の上で赤ちゃんを肌に直接抱く「カンガルーケア」をしたといいます。体重は生まれたときの倍近い1359gに成長していました。それでもまだ両手に収まるほどの小さな赤ちゃんでしたが、「ずっしりとした命の重さを感じた」といいます。
実は、2013年に生まれた長女(11)も生まれてすぐにNICUに入ったため、出産直後に抱っこすることはかないませんでした。
「予定日を過ぎて妊娠41週、体重3546gで生まれましたが、羊水を飲んで呼吸がうまくできずに入院していました。抱っこできたのは、10日以上経った頃でした」
もともと編み物が趣味だった髙橋さん。長女が幼い頃から子育ての息抜きにあみぐるみや小物を編んでいたそうです。
そんななか3年前、あるリトルベビーのサークルが、生まれたときの体重と同じ重さの人形を作っていることをSNSで知りました。
同じ年、北海道でリトルベビーサークル「ゆきんこ」を共同代表として立ち上げていた髙橋さんは、「私たちもやりたい。人形は作れないけど、あみぐるみなら作れるかも」と考えたそうです。
その後、小さな赤ちゃんを産んだ知人が、Instagramで「生まれた体重の人形がほしい」と投稿していたのを目にして「作ってみてもいい?」と連絡しました。
2022年6月、知人の赤ちゃんの出生体重・身長と同じ、370g、26cmのウエイトベア第1号が完成しました。
女性がInstagramに「ウエイトベアを作ってもらった」と子どもと並べた写真を投稿すると、その存在と評判がどんどん広がり、DMで問い合わせが増えたといいます。
「趣味で作っていたものなので私自身はインスタで発信していなかったのですが、みなさんの口コミでありがたい形に広がっていきました」
始めた当時は中に何を詰めるかなどすべてが手探りでしたが、今はビー玉や綿などを中心にフワフワ感を出しながら重さを調整しています。
ウエイトベアひとつを作るのにかかる時間は、1~3日。「子どもの長期休みなど慌ただしい時期に重なると作る時間が取れないこともあります」
形を整える関係で、受け付けているのは1500gまでのウエイトベアです。費用は材料費と送料のみで、600g台なら4600円ほど。重さに合わせて設定しているといいます。
依頼を受けるときに赤ちゃんの体重と身長を教えてもらいますが、なかには生まれた経過を伝えてくれる人もいるそうです。ウエイトベアを受けとったときにも、出産の状況を話してくれる人、SNSで写真とともに思いを発信してくれる人もいるといいます。
髙橋さんは、「『ウエイトベアを抱っこして泣きました』と連絡をくださる方もいました。みなさんの赤ちゃんのお話や写真を見せてもらうたびに、『たくさん頑張ってきたんだろうな』と感情移入したり、成長を一緒に喜んだりしています」と話します。
小さく生まれた赤ちゃんのウエイトベアが中心ですが、なかには流産や死産で亡くなった赤ちゃんの家族から依頼もあります。これまでに作った一番小さなベアは、60g、12.6cmです。
「生まれたときの我が子を抱っこしてみたい」「我が子が生まれた証しを残したい」。その気持ちがわかるからこそ、髙橋さんは依頼者の要望にはできる限り応えたいと考えています。
作り始めて3年。これまで300体以上を作り、約40都道府県にウエイトベアを届けてきました。
髙橋さんは、「全国にたくさんの仲間がいて、『ウエイトベア会をやりたいね』と言ってくださる方もいます」と話します。
「趣味がここまで広がるとは思ってもみませんでした。好きな編み物をさせてもらえて、作らせてもらったみなさんに感謝しかありません」
共同代表を務めるリトルベビーサークル「ゆきんこ」の展示会などでは、次女・愛乃さんの生まれたサイズのウエイトベアや、サークルメンバーの赤ちゃんのサイズのウエイトベアも展示します。
来場者が自由に抱っこできるようにしているため、「グラム数を言われてもイメージがつかなかったけど、こんなに小さいんだね」「小さいのにずっしりしているね」といった声をもらうこともあるそうです。
髙橋さんは、「『ペットボトル1本分』というのがピンとこなくても、実際に抱っこしてみると伝わるのかなと思いました。ウエイトベアが、リトルベビーを知ってもらうきっかけになっているのはとてもうれしいです」と話します。
今後も、「オーダーがある限りは受け付けていきたい」と話しています。
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