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桃鉄ワールド〝よみこみちゅう〟に現れた「平和で自由」なメッセージ
制作者に意図を聞きました
昨年35周年を迎えたゲームソフト「桃太郎電鉄」(桃鉄)。11月に発売された最新作「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」(桃鉄ワールド)をプレイして、ローディング画面に出たあるメッセージが気になりました。前作は真っ白な画面の下に「よみこみちゅう…」とあっただけなのに、一体なぜ? 制作者に聞きました。
「桃太郎電鉄」は、プレイヤーが電鉄会社の社長となって各地を巡り、物件を買い集めて総資産ナンバーワンを目指す、すごろく形式のゲームです。
2023年11月に発売されたNintendo Switch用ソフト「桃鉄ワールド」は、13年ぶりに日本だけでなく地球上の都市が舞台となっています。
筆者がゲームを始めたところ、ローディング中に現れたメッセージが目に留まりました。
「本作は地球上のすべての都市が線路や空路でつながっている平和で自由な世界が舞台です。プレイヤーはその路線をつかってよりよい未来を創ろうとしている電鉄会社の社長さんたちです。」
日本が舞台の前作「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(2020年発売)のローディング画面には、このようなメッセージは出てきません。
「桃鉄」を初めてプレイする人にとっては、説明があると分かりやすいかも……。
とはいえ、「平和で自由な世界」とあえてうたっているのは、ロシアによるウクライナ侵攻や、度重なる北朝鮮の弾道ミサイル発射、最近ではイスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突など、不安定な世界情勢が続いていることも関係している……?
深読みしすぎかもしれないと思いつつ、販売元であるコナミデジタルエンタテインメント(東京)に取材しました。
「実は今回の作品に限らず、桃鉄では昔から『毎日が桃太郎電鉄のような平和な日々でありますように』という、シリーズの原作者であるさくまあきらさんのメッセージが表示されているんです」
「桃鉄ワールド」のシニアプロデューサーで、コナミデジタルエンタテインメントの岡村憲明さんは、そう話します。
以前から、作品によっても異なりますが、プレイ期間を最長の99年・100年に設定するなど一定の条件で遊んだ場合、スタッフロールなどにそのメッセージが出ていたそうです。
これまでも見ることができたなんて。そもそも筆者は最長モードでクリアした経験が数えるほどしかありません。勝敗の結果ばかりが気になって、メッセージの存在にまったく気づいていませんでした。
そんな反省が頭をよぎりつつ、今回ローディング画面に新たなメッセージを表示したのには何か意図があるのかと尋ねると、岡村さんは、「我々は(世界のさまざまな問題について)考えずにゲームを作っているのではなく、きちんと考えていると伝えたかった」と答えてくれました。
前作の発売と同じころから進んでいた「桃鉄ワールド」の計画。制作が決まった際、岡村さんをはじめ制作側は「そもそも世界に対してよく分かっていなかった部分があった」と話します。
世界には、さまざまな問題が起きている地域があり、不幸な状況の人々もたくさんいます。
ゲーム制作に際しては、文化・宗教的な背景などから多様な考えや意見があることから、有識者や海外のグループ会社のスタッフと協議を重ねたそうです。
「我々は政治的な意向を持っているわけでも、特定のポジションを取るわけでもありません。このゲームを通じて『毎日が桃鉄のような平和な日々でありますように』という願いを、いかに伝えるかを考えました」と岡村さん。
「外務省のホームページに書いてある通りに作ればいいというものでもない。日本の常識が世界中で通用するわけではないのだろうと考え、きちんと調べました」
「桃鉄ワールド」を起動したときには、「このゲームは、宗教や信条・民俗などの文化的背景を尊重して制作された架空の世界を舞台にしています」「登場する国や地域は各国際機関の加盟国を参考に選定されています」という注意書きも出てきます。
2023年3月時点の情報を元に作られ、各地の物件については旅行ガイドブック「地球の歩き方」の編集部が監修し、旗については「日本旗章学協会」の苅安望さんが監修協力しているそうです。
「桃鉄」シリーズでは、プレイヤーにとりつく「貧乏神」や、手持ち金を盗む「スリの銀次」といったキャラクターによる妨害など、プレイヤーを困らせる様々なハプニングが起きます。
そんな不幸な出来事に遭遇すると、「桃鉄のような平和な日々」とは……と疑問に思ってしまいそうです。
岡村さんはそのような意見があることは承知の上で、「貧乏神やスリも含めて、僕は平和なゲーム(体験)だと確信している」と語ります。
「毎日が桃太郎電鉄のような平和な日々でありますように」という原作者のメッセージには、「桃太郎電鉄を楽しくプレイして、笑い合えるような日々であってほしい」という想いを感じているそうです。
SNSで配信される「桃鉄」のプレイ動画を見て、岡村さんは「みんなとても盛り上がっていて、すごく笑顔が多かった」と感じました。
「『平和な日々』とは、貧乏神をつけられて『くそー』と悔しがることも含めて、プレイする方々の笑顔があるということなんじゃないかなと、僕自身は思っています」
発売から1カ月以上が過ぎ、累計出荷本数が100万本を突破した「桃鉄ワールド」。
岡村さんは、「日本のみなさんにはなじみがない地名がたくさん出てくると思いますが、『こんな観光名所があるんだ』『この都市はここにあったんだ』など、新しい発見をぜひしてほしい」と話します。
岡村さんによると、ゲーム監督を務めた桝田省治さんは、「オリンピックの開会式で入場する国や地域に『桃鉄で行ったことがある』と親近感を持ってほしい」と話していたそうです。
ゲームをプレイしながら、気づいたら世界の国・地域に興味がわき、もっと世界を知りたいという気持ちにもなるかもしれません。
世界はゲームのように単純ではなく、ひとことでは表せないーー。
しかし、岡村さんは「プレイヤーが自分なりに考えを巡らせ、世界を学ぶ一つのきっかけになってくれるとうれしいです」と話しています。
※15日にはシニアプロデューサー・岡村憲明さんのインタビューを配信します。
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