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HKT48、卒業ラッシュでも…豊永阿紀さん「怖がるのをやめよう」
設立13年目 指原さん卒業、コロナ禍…苦難乗り越え
福岡を拠点に活動するアイドルグループHKT48は設立から13年目に入りました。すべての1期生やセンターを務めた人気メンバーが次々と卒業するなか、昨年12月に発売された最新シングル「バケツを被れ!」は、5期生の若手がWセンターを務めています。チームHキャプテンの豊永阿紀さんに転換期にあるグループへの思いを聞きました。
最新シングル発売前日、2023年12月19日、東京・池袋のサンシャインシティ噴水広場で、HKT48の選抜メンバー16人は発売記念ライブを行いました。
ファンや通りすがりの人たち約1500人が見守るなか、メンバーは頭にバケツを被るユニークな振り付けが特徴の「バケツを被れ!」など6曲を披露。歓声と拍手に包まれました。
HKT48がこうした大勢の前でリリースイベントを行うのはデビューシングル以来、約10年ぶりのことでした。
キャプテンの豊永阿紀さん(24)は感慨深かったといいます。
「私たちは当時のことは話でしか知らない。当時はまだ物心がついていないくらい若いメンバーもいるなかで、ずっとHKT48のファンで、たとえいまは年齢を重ねて当時の熱量から減っていたとしても、応援してくれている人たちがいるグループってすごいと、池袋のステージで特に思いました」
この曲の選抜メンバーは世代交代が進み、2022年5月加入の6期生から5人が選ばれています。
「HKT48だけ好きだったメンバーではなくて、アイドル全体が好きだったり、2010年代のアイドル戦国時代と呼ばれた時期に育ち、人格が形成されてきたりしたメンバーが多い。それだけに、(アイドルイベントの「聖地」とも呼ばれる)池袋でリリースイベントをすることへのあこがれがあり、その重みがきちんと分かる人が多かった。だからこそ、意味は大きかった」
そう語るのは理由があります。
豊永さんたち4期生がステージでお披露目されたのは2016年7月。HKT48の劇場支配人を兼任していた指原莉乃さん(31)が敏腕をふるい、趣向をこらした選曲や演出、笑いを誘うトークで、ライブは大盛況でした。
指原さんの背中を見て成長した1~3期生もそれぞれに個性的でした。ですが、2019年4月に指原さんが卒業し、翌年からはコロナ禍に見舞われます。
ライブはもとより劇場公演、対面でのお話会など、グループの活動の根幹ができない。当初は自宅待機でメンバー同士が会うことすらできない。
豊永さんはこう振り返ります。
「いまだに私が一番キラキラしていたなって思うのは、意外かもしれませんが指原さんが卒業した後の九州7県ツアー(2019年夏~秋開催)。みんなでバスで移動して、ライブの帰り道に高速道路のサービスエリアに寄ってアイスを食べて。どうにか指原さんが抜けた穴を埋めようと全員でやらなきゃみたいな雰囲気でした」
「私もソロ曲があり、研究生だった5期生たちもそれぞれの色を出し始め、1期生の松岡菜摘さん(27)や、3期生の田中美久さん(22)が引っ張ってくれた。こっからでもこの熱量だったら行けるよ、こっからだ、っていうタイミングでの新型コロナ(の世界的流行)は、グループとしてはすごく痛かった」
コロナ禍でも、オンライン配信で歌っている動画を発信したり、創作集団・劇団ノーミーツのサポートを受けながら、メンバーが演出、脚本、出演をすべてこなしたオンライン演劇に取り組んだり、懸命に試行錯誤を重ねました。
そして社会が日常を取り戻してきた2021年以降、少しずつ再びライブや普段通りの劇場公演ができるようになってきます。
そんななか、グループ設立から10年目を迎え、主力メンバーの卒業が相次ぎます。
現在は韓国の5人組グループ「LE SSERAFIM」で活動する宮脇咲良さん(25)、タレントとして活動する森保まどかさん(26)、村重杏奈さん(25)らが旅立ち、最後のひとりとなった本村碧唯さん(26)も昨年夏に卒業しました。
2期生も現在は俳優の田島芽瑠さん(24)らが卒業、2023年には「なこみく」の愛称で知られ、ともにシングルのセンターを務めた3期生の矢吹奈子さん(22)が4月に卒業、田中美久さんも12月に最後の劇場公演を終えました。
「先輩たちがどんどん卒業する。先輩だけじゃない。身近な、グループとしても、これからをきっと託されていた後輩がやめていく。未来をちゃんと見据えて、ちゃんと理由があってなので、私たちは本人から話を聞くからそうだよねって納得していても、ファンの方には、どこか見切りをつけたように見えるかもしれない。ここでどうしてもかなえられない夢はあって、夢の幅を広げるために巣立っていっても、なくなったものって分かりやすく見えるし嘆きやすい。それに比べて増えたものはグラデーションで増えていくから気づかない…」
10人で活動してきた同期の4期生も、昨年秋にセンター経験者の運上弘菜さん(25)が卒業するなどして現在の在籍は3人に。
もちろん、新天地で活躍するケースも多く、2020年に卒業した月足天音さん(24)はアイドルグループ「FRUITS ZIPPER」で活動し、昨年末、グループは日本レコード大賞の最優秀新人賞に輝きました。
小田彩加さん(24)は特技のイラストを生かしてアーティストとして活動しています。
昨年4月、横浜で開かれた矢吹さんの卒業ライブに先立って行われた昼ライブのタイトルは「私たちの現在地」でした。
スタッフから相談されて、発案に豊永さんも関わりました。
「私たち4期生以降っていつまで経っても次世代感はあるけど、それがもう今だということを、私たち自身が不安に思っている。不安感を持って見られているんじゃないかという不安を、多分みんな共通で持っている」
「私たちは指原さんが面白いMCをいっぱいして、メンバーが輝いていた時代を知っているから、やっぱりあこがれもあるし、目指さなきゃいけないものだとどうしても思ってしまう。でも今のHKT48だってすごいんだぞっていうのを、自分たちで言い聞かせないと、できなかった時期でした」
「現在地」という言葉は、そんな複雑な思いを込めたフレーズだったといいます。
その後、不安にかられていた豊永さんの背中を押してくれた出来事がありました。
その一つが昨年8月、東京・お台場で開かれた国内最大級のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」のステージです。
HKT48以外のグループのファンも大勢客席を埋めるなか、6期生で当時研究生の生野莉奈さん(13)が、リハーサルでは成功しなかったバク転を本番のステージで見事成功させます。
感極まる生野さんの周りに、年齢も期も関係なくメンバー全員が集まり祝福。その様子に、観客も大歓声を上げ、会場は一体感に包まれます。
「HKT48の主要メンバーが抜けたという情報しか知らない人たちに、今のHKT48を見せられる機会。生野が成功した瞬間はすごくうれしくて。また最年少の石松結菜さん(11)もリハでできなかった観客への『アオリ』が出来て、それがいとおしくて。将来、このシーンを語り継げるのは、ここにいた若い子たちだけだよな。そんな思いがよぎりました」
ライブ終盤には、HKT48の代表曲の一つ「12秒」を観客とともに歌い、盛り上がりは最高潮に。
「『12秒』を本当に後ろの方まで皆さんが歌ってくださって、歌詞が表示されていないのに、みんなで歌えるぐらいこの曲は知られていて、今でも歌えるぐらい聴いてくれている人がいる。そう思うと、いろいろな感情が一気に襲ってきた。『もう怖がるのをやめよう』っていう思いが確実にTIFで生まれました」
TIFでのパフォーマンスをはじめ、かつてアイドルファンから「ライブモンスター」と称賛されてきたHKT48。ただ過去の記憶はもしかしたら美化され、どこかで重圧になっていたのかもしれません。
ですが、自分たちもそうしたシーンを観客と共有できたことは、大きな糧となりました。約30分間のステージが豊永さんにとって昨年、一番印象に残った出来事だったそうです。
最新シングルのWセンターである竹本くるみさん(19)と石橋颯さん(18)は「全然価値観も違うし、やりたいことも理想のアイドル像も違う」と豊永さんは言います。
石橋さんは見ている人を元気にするアイドルを目指し、竹本さんはアイドルのダンス、歌はこうあるべきだといった理想を追い求めていると映るそうです。「本当にタイプが違うけど、セットで見るととてもバランスがいい。それってアイドルの多様性だと思うし、HKT48の形そのものだと私は思っています」
HKT48は結成当初からメンバー同士の仲の良さを目標に掲げ、活動してきました。
「一人一人とちゃんと話し、一人一人の違いを認め合えるから、形式的な仲の良さにならないのだと思います」
若いメンバーのチャレンジを全員が心配そうに見守り、成功を全員で喜ぶ。昨年のTIFはその意味でも象徴的なステージとなりました。
「卒業後もずっと見に来てくれたり、心配してくれたりする先輩がいて、そう思ってくれているからこそ頑張れる私たちの世代がいて、それを見てあこがれる世代がいて。循環なんだと思います。今の方が私的にはすごく面白いと思います。長年グループを見てきた方は特に、現メンバーの中にだれか(先輩メンバーの面影)を感じることがあるはず」
だからこそ、「現在地」の私たちを見て欲しい。豊永さんは強く願っています。
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