連載
やっぱり無謀? 車なしの地方移住をやってみた 月1回の重たい儀式
2023年夏、東京から移住したウェブメディアの編集長がつづります
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2023年夏、東京から移住したウェブメディアの編集長がつづります
2023年夏、当時1歳の息子を連れて東京から徳島に移住した、ベンチャー企業でウェブメディアの編集長を務める伊藤あかりさん。車が一家に1台は当たり前の徳島で、車を持たない生活をしています。移住して4カ月、車なしの日々で思うこととは。
列車の出発間際。ベビーカーには12キロの2歳児と、チャイルドシート。ひとりの力では、持ち上がらない。もたもたと困っていると、車内にいた学生が「手伝いましょうか?」とさくっと持ち上げてくれた。
車内で暴れる息子にお菓子を与えてごまかしながら、なんとか徳島駅に到着。また人の手を借りてホームに降り、エレベーターを渡り、改札をくぐり、駅から徒歩3分の目的地へ。
どっと疲れた。さあ、ここから「ドライブ」のスタートだ!
「地方=車は必需品」と考える方が多いと思う。徳島に移住して4カ月、私はあえて車を買わないという決断をした。
徳島県の統計データをみても、1世帯あたりの車の保持率は1.48台。一家に1台は当たり前、なんなら「1人1台持つのが普通だよ~」と徳島のお友達に言われたこともある。
私が移住した徳島市の移住者向けHPには「市の中心部ではマイカーなしでの生活も可能」と書いているが、実際のところは、イオンモール徳島は徳島駅から車で12分、子連れの聖地レジャー施設「あすたむらんど徳島」は最寄りの板野駅から車で5分……と、なかなか車なしではしんどい。
いや、イオンもあすたむらんども徳島駅からバスが出ているから、行こうと思えばいける。だけど、バス停が近くにないご当地カフェや、市外のちょっとしたお祭りやイベントに行こうと思うと極めて不便なのである。不便、というか普通に「行けない」。
息子の保育園は徒歩圏内。私は在宅勤務なので、日常生活は車がなくても電動自転車があれば十分。
だけど、せっかく自然豊かな地方にきたのに、家のまわりだけで完結しちゃうのももったいない。ということで、「ちょうどよく」車を持つ方法はないかを検討した。
<私の前提条件>
・車の利用頻度は週末のみの月4回
・全国転勤のサラリーマンゆえ、2年で転勤がある可能性大
車を持つには①新車を買う②中古車を買う③カーリース④カーシェアの四つの選択肢がある。それぞれ検討しよう。
まず、新車は原材料不足ということで、納車が半年以上かかると言われたのでナシ。
その影響で、中古車価格も急騰。なんなら今は中古車も新車と同じ値段で売られている。2~10年の長期でレンタルできるカーリースも、一番短い2年で登録しようとするとどうしても割高になってしまう。
結論:中古車もカーリースも、駐車場が3000円と爆裂安くとも、車本体代、車検代、保険料、ガソリン代……とあわせると月々5万円はかかってしまいそう。
「せっかく、地方にきて家賃を下げられたのに! ここにきて車という固定費でプラマイゼロになってまう!」と、頭を抱えた。
それに比べると、カーシェアの安さよ。私が一番利用しやすいプランでいうと、「24時間借りて6600円+走行距離課金」。200キロ走ってだいたい1万円。
車を所有するわけではないので、保険も車検も駐車場もガソリン代もなし。月4回フルで乗っても4万円は絶対にかからなさそう。
……と、料金だけみると、カーシェアが圧勝。
ただ、カーシェアのデメリットは「使いたい時に使えない」ということ。祝日・休日に利用希望者が多いため、空きがないというのはよく聞く話だ。
ところがどっこい、一家に1台強を持つ「車社会」徳島でカーシェアを使う人は少ない。使いたいときに使えなかったことが、今のところ一度もない。休日の前日に「明日借りよ」と思っても借りられる。
とはいえ、大変なこともある。それが、冒頭に書いた2歳児とチャイルドシートを持って列車で数分、徳島駅まで向かわないといけないことだ。東京ではそこかしこにあるカーシェアの利用場所が、徳島では徳島駅前のみなのである。
ということもあり、当初は「月4回は利用するぞ~」と張り切っていたカーシェアも、月に1度の「私が超元気な日の息子孝行の日」しか使わなくなっていった。
正直「地方でしかできない体験」を求めて移住してきた民からすると、大きなマイナスとも言える。なんなら月5万円払ってでも、「いつでも車に乗られる!」という環境をつくることで「徳島生活をよりエンジョイ!」できるとも言える。わかる。
だけど、逆に車がないからできる楽しみ方もあるように思う。
例えば、徳島駅前はなんやかんやで週替わりで色んなイベントをやっている。月1回開催される地元マルシェには、県内の有名店がたくさん出店してくれているので、現地に買いに行かずとも徳島のうまいものは手に入る。
ほかにも、駅からの送迎ありの自然遊びプランなんかも充実している。電動自転車の活動圏内(10キロ)にある子どもが喜ぶ施設を全て制覇しようというのも、来年の目標のひとつだ。
電動自転車は便利なもので、車社会ゆえに渋滞がおこってしまう徳島市内では車より自転車の方がはやく目的地に着いちゃうなんてこともある。
スーパーは徒歩圏内に三つもあるので日常生活は全く困らない。洋服や仕事のためのIT機器なんかは、ネットで買うので東京と同様の生活ができている。
それからもう一つ。
実は10年前に四国88カ所の霊場を巡る「お遍路」に挑戦したことがあるが、家内安全を祈ったにもかかわらず「結願」から数日後、父親が入院することになった。今思えば、それは全て車を利用したからなんじゃないかと勝手に思い込んでいる。
今回は自転車で徳島県内を制覇してみるのもありかもしれない。車で巡ったのとは違う景色も見えるはずだ。
ほかにも、車を持っていたら消えていたであろう「月5万円」を、ちょっとリッチな移動旅に使うことも考えている。
例えば、息子の最愛のアンパンマン列車で高知に行く。あるいは、高松から出ている寝台列車サンライズ瀬戸・出雲に乗るのも良いかも。人気の観光列車にも乗ってみたい。車をやめたことで、列車に乗る機会も増え、息子も子鉄くんへの道まっしぐら。うれしい趣味が見つかった。
「車を所有しない」という選択をしたことで、夜中にふらっとドライブに行く、朝思いつきで香川にうどんを食べに行く、というようなフットワークの軽さはあきらめざるをえない。
だけど、月に1度のカーシェアドライブの「特別旅行感」もそれはそれでよいかなと思い始めている。まずは、車なし生活を味わい尽くしたい。
意外となんとかなっちゃってる車なしの地方生活。
「ペーパードライバーなので、運転は無理。田舎道なんて考えられない!」という方も、「そもそも免許がないから都会でしか生活できない」という方も。車の有無で住む場所を限定されちゃうなんてもったいない! ぜひ、地方も選択肢のひとつとして考えてみてください!
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