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「ハリポタ」プロデューサーが映画「バービー」について語ったこと

有名映画のプロデューサーとして知られるデイビッド・ヘイマンさん
有名映画のプロデューサーとして知られるデイビッド・ヘイマンさん 出典: ©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

目次

6日、全世界興行収入が10億ドルを突破したと発表された映画『バービー』。日本での公開は11日からですが、配給会社の米ワーナー・ブラザースによれば、すでに北米市場で4億ドル、海外で5億ドルを売り上げ、それにかかった期間は、ハリー・ポッターシリーズを含むワーナー・ブラザースの他の映画より短かったということです。

一方、同作を巡っては騒動も。映画の米公式SNSアカウントが原爆投下を想起させるファンアートに好意的と受け取れる反応をしたことで、批判が噴出。ワーナー日本法人が謝罪し、映画の米公式SNSアカウントの対応を非難、ワーナー米本社もメディア向けに声明を発表して謝罪しました。

主演のマーゴット・ロビーさんが製作にも携わり、社会風刺をふんだんに盛り込んだ同作は、どんな映画なのでしょうか。同作の、そして過去には前述のハリー・ポッターシリーズなど有名映画のプロデューサーとして知られるデイビッド・ヘイマンさんを取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
 
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【プロフィール】デイビッド・ヘイマン(プロデューサー)
アルフォンソ・キュアロン監督作『ゼロ・グラビティ』(13/出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー)、クエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19/出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、アル・パチーノ)、ノア・バームバック監督作『マリッジ・ストーリー』(19/出演:アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーン)で、米アカデミー賞と英アカデミー(BAFTA)賞にノミネート経験をもつプロデューサー。大成功を収めたJ・K・ローリングの小説「ハリー・ポッター」シリーズを映画化した8作(01,02,04,05,07,09,10,11)と「ファンタスティック・ビースト」シリーズ(16,18,22)の製作を担当している。

製作者としてのマーゴットの顔

――人形として親しまれている「バービー」を映画化するというのは驚きのアイデアとも感じられます。最初に聞いたときに、どのように感じられましたか。

ハリウッドにおいては、どんなIP(知的財産)を映画化することも驚きではありません(笑)。強いて言うなら、「さまざまな種類のバービーを映画化する」というのは驚きでした。

ただし、今回のプロジェクトを最初に主導したのは、プロデューサーとしての顔も持つマーゴット(・ロビー)です。彼女が(人形を販売している)マテル社に話をつけ、監督にグレタ(・ガーウィグ)を起用するアイデアを持っていた。

私が初めてこの企画を聞いたときには、すでに脚本はできていました。マーゴットとは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、グレタとは『ホワイト・ノイズ』で、それぞれ一緒に仕事をしていました。

だから、彼女たちがいかにすばらしい才能を持っているかについてはよく知っています。

しかし、「バービー」です。私は遊んだことがありません。マーゴットも言うように、観客のみなさんも、バービーという存在に対して、良くも悪くもさまざまな想いや先入観を持っているでしょう。

それでも、最初のバージョンの脚本から、読んでいてわくわくしました。この作品はまったく新しく、オリジナルで、予期できない作品だと。

――製作者としてのマーゴット・ロビーさんは、ヘイマンさんから見てどんな人でしたか。俳優としての彼女と違うところはありますか。

彼女はとても優秀な俳優であり、プロデューサーで、私は彼女と働くことが大好きです。

俳優としては、どんな映画であれ、彼女が演じる役は輝いて見え、その役のリアリティを引き出すことができます。プロデューサーとしては、自分の立場ではなく、監督のやりたいことを実現するために力を尽くし、豊富なアイデアを持ち、謙虚で勤勉、とても知性的です。

どちらの立場でも、好奇心や熱意、可能性に溢れる精神を持ち、自分の信じるもののために戦うことのできる、すばらしい人です。

今回の映画について言えば、バービーとして旅に出て、キャラクターの心情や人間性を理解できる俳優が不可欠でした。同時に、悪びれることなく、真面目に、鋭いユーモアを演じられることも必要で、その意味ではまさにマーゴットはバービーでした。

現代社会への風刺も

――バービーを映画化する上で、どんな苦労があったのでしょうか。

「バービー」だからと言って、これは子どものためだけの映画ではありません。大人も楽しめる作品で、それがグレタのすばらしいところです。バービーのファンなら楽しめる、でも、バービーのファンじゃなくても楽しめる。そうした意識で「バービー」というテーマにアプローチしています。

長年、存在しているバービーですが、それ自体も変化しているし、人々のバービーに対する態度も変化しています。この映画の中では、バービーの持つ多くの側面をできるだけ提示することを心がけました。

一方で、観客のみなさんがこの作品にどう反応するか、というのは公開まで確信がありませんでした。すでに北米では公開されていますが、バービーのはらむ、さまざまな論点に、非常に好意的な感想を持っていただいているようです。

――ユーモラスでポップな映像でありながら、現代社会への皮肉と自己批判も詰め込まれた、“考えさせられる”映画でした。このバランスを取るにあたり、苦労はありましたか。

バランスを取ったのは監督のグレタで、びっくりするような能力を発揮しました。

彼女は自分の中に作品のビジョンが明確にある人です。一方で、柔軟でオープンでもあり、何度も何度もさまざまな立場の人に作品に対しての意見を聞きながら、彼女の持つ純粋な感覚に基づいて取捨選択をして、バージョンを重ねました。

――ひとりのバービーは大きく変わり、バービーたちが暮らすバービーランドにも変化がありました。同時に、変化しなかったところもあります。。この作品は、今の社会に何かを訴えたり、望んだりするものなのでしょうか。

私は、映画はまず何よりエンターテイメントだと思っています。面白く、心に何かを訴えるものでないといけない。同時に、映画には現実を映し出すところがある。この映画にも、現代社会の男性中心的なところなど、さまざまな問題が影響しています。

グレタがすばらしいのは、この映画をとても多面的、多層的に作ったこと。私は何度も観ていますが、その度に新しい要素を見つけ、それについて考えさせられます。

私は、人はありのままの自分を受け入れてほしいし、他の人にもそうであってほしいという希望を持っています。完ぺきじゃなくても、ありのままの自分を否定しない。社会的な期待値があったとしても、そこに「追いつこう」と苦しい思いをしなくてもいい。

私も、グレタも、フェミニストです。最終的にはすべての人が平等になるような、そんな世界が訪れればいいと思っています。こうした一連の気持ちが、作品にも表現されていると言えるかもしれません。

映画『バービー』と現代社会

――SNSで広がった「バーベンハイマー(※)」のコラージュ画像に対して、映画の米公式SNSアカウントが配慮に欠けた反応をしたことが世界的に注目されました。ヘイマンさんとしては今回の問題をどのように受け止めていますか。

※アメリカでは『バービー』と、原爆開発者を描いた『OPPENHEIMER(原題)』(配給:Universal Pictures)が同時公開。ファンの間で、両作品の観賞を促すため、それぞれの出演者のコラージュ画像を投稿する動きがあった。その中で、爆発を背景に笑顔を見せたり、髪形をキノコ雲のように加工したりしたバービーの画像の投稿に対し、映画の米公式アカウントが「記憶に残る夏になる」などと反応し、批判が噴出した。

まず、ワーナー(本社)が会社として謝罪をしたことはよかったと思っています。私にとっても、グレタにとっても、それは重要なことでした。

映画の製作者としては、今回、起こってしまったことについて、できることが多くありませんでした。「バーベンハイマー」は、ファンの自発的なムーブメントであり、二つの映画にはまったく関係がなく、私たちが意図したものではありません。

ただし、映画の宣伝をする過程で、映画の米公式アカウントがした行動は、配慮に欠けていました。それは許容できるものではありませんが、ワーナー(本社)が謝罪をしたということに、私たちは一旦、安心しました。

――今年12月15日(金)には『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の公開も控えていますが、今後、どのような映画を手がけていきたいですか。

これからも観客の心を動かすような作品を世に出したいです。私のこれまでのキャリアはとても幸運で、プロデューサーとして、私自身が憧れる監督と一緒に仕事をしてきました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を製作したときのクエンティン・タランティーノ監督や、『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督らです。

逆に、私に挑戦してくれるような若い才能とも働きたいと思っています。『バービー』のグレタやマーゴットはまさにそうでした。私は今でも野心的で、いわゆる大作も、ニッチな意欲作も、まだまだ手がけていきたい。

『バービー』ではグレタやマーゴットからさまざまなことを学びました。今後も映画製作を通じて、学び続けたいと思っています。

※8月11日17:45 記事内容を修正しました。

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