「力士は1日2食が伝統」「ボディビルダーは食事をこまめに5~6回に分けてとる」といった話を聞くことがあり、食事回数が少ないほど太り、多いほどやせるようにも思ってしまいそう。しかし、このような“常識”は近年、見直す流れもあります。医学研究から紐解きます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
令和元年の国民健康・栄養調査によると、男性は約3割、女性は約2割が肥満(BMIが25以上の人)です。さまざまな病気の原因になるため、該当する人は、健康診断の問診などで、いわゆるダイエットを勧められることになります。
ここで、体重コントロールについては「力士は体重を増やすためにあえて1日2食が伝統」「ボディビルダーは余計な体重を増やさないように少量の食事をこまめに5~6回に分けてとる」といった、食事回数にまつわる話を聞くことがあります。
これらの説を並べると、食事回数が少ないほど太り、多いほどやせるようにも思ってしまいそうです。
実は、こうした説の根拠の一つになっているのは、50年以上前に医学誌のLancetで発表された研究(※1)です。チェコスロバキアの研究者らにより1964年に発表されたもので、プラハの60〜64歳までの男性379人を対象に、食事の回数と体重、代謝の関連を調べました。
この研究では、少量の食事を1日数回に分けてとる方が、減量になり、代謝も向上するという結論でした。
※1. THE FREQUENCY OF MEALS. ITS RELATION TO OVERWEIGHT, HYPERCHOLESTEROLAEMIA, AND DECREASED GLUCOSE-TOLERANCE - 1964 Sep 19;2(7360):614-5.
理由の一つとして、力士のようにいわゆる「ドカ食い」をすると、急激に上がった血糖値を下げ、糖を脂肪に変える作用のあるホルモンが大量に出てしまい、体脂肪がつきやすくなることが挙げられます。
逆に、こまめに食べればそのホルモンの分泌を抑え、常に一定の食欲が満たされた状態になるため、理にかなっているようにもみえて、長らく支持されてきたと言えます。
しかし、こうした結論は、近年、再検討されています。主な反論は「少量の食事を1日数回に分けてとる」と、今度は満腹を感じるためのホルモンが十分に分泌されず、次第に、常に空腹を感じる状態になる、というもの。
特にアスリートなどではない一般の人では、この空腹感に耐えられず、結局、より多くの食事をとってしまい、体重増加の引き金になるという複数の反論が近年、なされているのです。
例えば、約2万人のアメリカ人を対象とした2015年の大規模な研究(※2)では、1日5食以上の場合、過体重または肥満になる可能性が約1.5倍になることが報告されています。
※2. Eating Frequency Is Positively Associated with Overweight and Central Obesity in U.S. Adults - J Nutr. 2015 Dec;145(12):2715-24.
食事をこまめにとるのは、急激な血糖値の上昇を押さえて、糖を脂肪に変えるホルモンの分泌を緩やかにするためでした。しかし、これは常に食料を得られる現代ならではの方法で、動物としての人間の体のメカニズムとの相性はよくないのかもしれません。
むしろ、少ない回数の食事である程度の量をとって、満腹を感じる消化管ホルモンをしっかり出してあげないと、ボディビルダーくらいストイックでない限り、空腹感に負けて、かえって多く食べてしまうとも言えるでしょう。
「食事をこまめにしているけれど、やせない」と思っている人は、「実は合計すると1日3食より多く食べている」という意外な、でも当然の落とし穴があるかもしれません。
できる人にはできるし、できている人はいます。でも、万人におすすめできる方法ではないと言えそうです。
なお、前述の満腹を感じるホルモンの一つの分泌量は、たんぱく質の摂取量と関係するため、たんぱく質を多めに摂ることで、満腹感を得やすくなります。チャレンジしたい人は、こうした点を意識してみるのも良さそう。
食事回数に関連した話題として、ファスティング(一時的な絶食)も勧められません。基本的には、絶食すると筋肉量が落ちるので、基礎代謝やボディラインの面で、長期的には不利に働くと考えられるためです。
結局のところ、いつもと違うことをしようとしても、人間の体は元に戻ろうとする力が働くため、「普通が一番」であるとも言えます。減量が必要な人は、少しずつ食事の量を落とし、運動の量を増やしていくべきで、それをどう習慣化するかにこそ、工夫を働かせる必要があることがわかります。
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