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新築の家に「バンクシー?」 壁や床に壮大な〝アート〟母親の心境は
「初めてひざから崩れ落ちました……」
ボールペンで、油性ペンで、クレヨンで、いつの間にか壁や床に壮大な〝アート〟が……。小さなお子さんを育てる親御さんのなかには、そんな光景に心当たりがある人もいるのではないでしょうか。
筆者もその一人です。新しい壁やドアに描かれたぐちゃぐちゃの線を見たとき、思わず叫びそうになりました。
そういえば以前、子どもの落書きをユーモラスに受け止めていたツイートが話題になっていた記憶が。投稿した母親は、落書きに気付いたときどんな思いでいたのか。叱ることはなかったのか。当時の様子を聞きました。
ツイートしたのは、4歳と2歳の兄弟を育てる奈良県在住の刺繡作家・田口ナツミさん(@NatsuTagu)です。子どもたちとの生活をたびたび発信しています。
「2歳児が新居に作品描いたので発表します」
2022年8月、田口さんはそんな1文をツイッターに投稿しました。「アーティスト」である次男(2)のプロフィール画像と、真っ白な壁紙や打ちっ放しの壁、木目がきれいなフローリング、階段に油性ペンで描かれた「作品」の写真も添えられています。
嘆くことも責めることもない遊び心満載の投稿に、「新居のアートに昇華させるセンスさすがです」「泣けて笑える」「バンクシー?」といったコメントが寄せられ、いいねは8万を超えました。
ツイートには「うちもやられました」と共感する声と共に、小さな画伯たちの作品も集まっています。
田口さんが落書きを見つけたのは、ツイートをした当日です。昼間に子どもたちを寝かしつけて一緒に寝ていましたが、目が覚めると驚きの光景が飛び込んできました。
「油性ペンを持った次男が『あんぱんまーん』と言いながら壁にお絵描きをしていました」
「家を建ててすぐやのに……!」と思い、人生で初めて「ひざから崩れ落ちた」という田口さん。「ほんまに落書きだけはやめてくれ〜」と強めにお願いしたそうです。
「落書きをしているときは『見てみて、じょうずにできたよ!』とキラキラした顔でこちらを見てきた」という次男。しかし、田口さんがひざから崩れ落ちた様子を見て、「『これはあかんことやったか』とペンを持ったまま逃げていったので、すぐに捕まえた」そうです。
人によってはその場で叱ってしまいそうですが、田口さんは「新品の壁にお絵描きしたくなる気持ちも分かりますし、色んな素材に試し書きをしていて、楽しい時間を過ごしたんやろうなぁと思いました」。
「大きなキャンバスにお絵描きする経験はなかなかできませんし、子どもが興味を持つことは良いこと」とポジティブに捉え、ユーモアあふれるツイートをしたといいます。
「その時ちょうどバンクシーも流行っていたので、巨匠の作品風に発表してみようと思いました」
その後、お客さんが来るスペースの落書きは消し、子どもたちが遊ぶスペースはそのまま残しているそうです。
田口さんは子どもたちと遊ぶとき、子どもの立場になって考えることを大切にしているといいます。
「なぜ子どもがその遊びをしているのか、子どもの視点から一緒に考えるようにしています。今回も描いているところを想像して、ワクワクした気持ちに共感しました」
普段から息子たちが「お絵かきをしたい」と言うと、ペンやアクリル絵の具、スタンプ、シールなどを出して、田口さんのアトリエでお絵描きをさせているそうです。
洋服は汚れないように作業用の「スモック」などを着せているようですが、「アトリエ内の多少の汚れは味になるかなと思ってそのままにしています」と話します。
筆者の家の小さな画伯は、新居のドアや壁紙にボールペンでグルグルと円を描き、何本も線を引き、「やまのてせーん(山手線)!」と得意げにしていました。子どもの視点に立つと、大きなスペースにのびのび絵を描くことは楽しい以外の何ものでもない……達成感や充実感にあふれていたのかもしれません。
田口さんのツイートには、「20年、30年して自分が歳をとって子供が自立、結婚した時、それは何にも勝る思い出と宝物になります」という先輩の声も寄せられていました。
味を占めてまた同じことをされるのは困ってしまいますが、筆者も「作品」の一部は残しておこうかなぁ……と思っています。
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