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ついつい食べ過ぎちゃうから危険…「いなりあげもち」の誕生秘話
「いなりあげもち」をご存じでしょうか。甘辛く煮たおいなりさんの皮の中にお餅を入れ、電子レンジで温めて食べる商品です。ありそうでなかったようなこの組み合わせを、どのようなきっかけで思いついたのか。販売元の米菓メーカーに聞きました。
「寒くなってくると食べたくなる」
「ついつい食べ過ぎちゃうから危険」
11月下旬、こんなツイートの投稿を目にし、筆者はいなりあげもちの存在を知りました。この組み合わせはどこから来たのでしょうか。
調べると、製造販売しているのは福岡県直方市に本社のある米菓製造販売業の「もち吉」。1929年創業で、せんべいやあられが主力商品です。全国に228ある直営店とオンラインショップで販売しています。
もち吉商品部の中島則裕さんによると、「いなりあげもち」の販売が始まったのは2017年4月です。
きっかけはその1〜2年前。本社の敷地内に、餅工場の建設が決まったことでした。当時、包装された切り餅を他社から仕入れて販売してはいたものの、量は多くありませんでした。自社で製造する正月用の丸餅や鏡餅に至ってはごくわずかで、高性能な包装設備がなかったため、賞味期限の長い商品は作れませんでした。
一方で、同社と「餅」は切っても切れない関係にあります。せんべいはうるち米、あられはもち米を蒸してつくなどし、餅状にしてから成形、乾燥させて焼きます。同社は本社のある場所に直売所や花畑をつくり、「もちだんご村」として整備。敷地内に地域の繁栄や従業員の安全を祈願する「餅乃神社」まで建てています。
今年7月に亡くなった先代社長の故森田長吉氏のモットーも「餅を愛し、餅に生きる」。その先代社長が「『おいしい餅を作らないといけない』と、包装用クリーンルームを備えた餅工場の建設を決めたのです」(中島さん)。
工場では賞味期限の長い餅が製造できるようになり、製造量も格段に増えます。それまで1年間に他社から仕入れて販売してきた量の餅を、1カ月で製造できるほどでした。
餅工場をつくると聞いて「え、と驚いた」と中島さんは振り返ります。「切り餅はすでに餅を得意とする他社が製造販売していて、弊社ではそれほど売れるわけではない。どうしようと思いました」
工場を稼働させるためにどのような餅商品を作るか。中島さんはじめ社員は頭を悩ませ、各地の餅の食べ方や餅商品の情報を集めました。そんな中、取引先の包装資材業者が「こんな餅がある」と持ってきてくれました。それが、味のついたおいなりさんの皮の中に、餅を入れて電子レンジで温めて食べる商品だったのです。
作っていたのは、いなりずし用の味付けいなりあげメーカー「みすずコーポレーション」(長野市)。「いなりもち」という商品名でした。食べてみると、あまじょっぱいいなりあげがレンジで温めたもちとよく合いました。試食した社長も気に入り、自社で作ろう、ということになりました。
もち吉がみすずコーポレーションに声をかけ、みすずコーポレーションに味付けいなりあげを納めてもらうことに。こうして、もち吉の餅とあわせて「いなりあげもち」が販売されることになったのです。
販売当初に力を入れたのが、直営店での試食です。「食べてもらえば必ずおいしいとわかってもらえる」とお客さんにすすめて販売を促進。現在では年間約190万袋、およそ6億円を売り上げるまでになりました。
ちなみに、みすずコーポレーションの担当者によると、同社の「いなりもち」はもともと、おでんの餅入り巾着などに発想を得て誕生しました。もち米かうるち米かの違いはあれ、いなりずしもいなりあげと米でできていることや、甘辛味と餅の味の相性のよさもきっかけになったと言います。
2016年ごろから数年、スーパーに卸したそうですが、現在は販売していないそうです。担当者は「もともとのアイデアは弊社が出したかもしれませんが、『味付けいなりあげと餅』という商品をここまで育ててくれたのはもち吉さん。『餅は餅屋』で、中の餅はなめらかでおいしい。店舗での試食という販売手法も効果的だったのでしょう」と話しています。
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