連載
#19 特別じゃない日
スマホを取り上げられた女子高校生 彼氏と連絡をとるための方法は…
「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。ツイッターで発表して注目を集めた漫画「ラブレター」に込めた思いを聞きました。
授業中、LINEで彼氏とデート場所を相談していた女子高校生。
教師に見つかって「放課後取りに来るように」とスマホをとりあげられてしまいます。
放課後、職員室に向かいますが教師と行き違いになってしまい、スマホは戻ってきませんでした。
彼氏からの「駅前で待ってる」というLINEのメッセージを思い出して、急いで駅前に向かいますが、どこにいるのかわかりません。
スマホがあれば、今どこにいるか連絡がとれるのに。
女子高校生は友達のバイト先におしかけて「スマホ貸して」と訴えますが、「さすがにスマホは貸せない」と断られ、家に帰ることにしました。
「嫌われちゃったらどうしよう」と落ち込んでいると、祖父がお茶とお菓子を用意して庭に出ようとしています。
「おじいちゃん、なにしてんの?」
「こんだけ咲けばやるだろォ 花見」
見ると、庭の桜が満開になっていました。
写真を撮ろうとポケットを探り、スマホがないことを思い出してイライラ。
「おじいちゃんてさぁ、おばあちゃんと恋愛結婚だったんだよね」
「おう」
「スマホないのにどうやって付き合ってたの?」
「お前なあ……」
祖父はあきれた顔で、亡くなった祖母とやりとりした手紙の束をとりだします。
「すごーい……手紙って返事返ってくるまで時間かかるじゃん」
「せいぜい2、3日だったぞ」
「遅いよぉ~」
祖父母の手紙を読んだ女子高校生は、告白した日の彼氏の言葉を思い出します。
「俺まだ野元さんのこと あんまり知らないけどさ ゆっくり知り合いになろうな!」
翌朝、彼氏が登校すると下駄箱に手紙が入っていました。
「昨日はごめんね 今日は時間あるかな? 休み時間に会いに行くね!」
彼女からの手紙には、桜の花びらが添えられていました。
それを見た彼氏は「野元さん……こんなに字 上手かったんだ」と、満面の笑みでつぶやきます。
祖父と祖母のように、焦らずゆっくりと好きになっていけばいい。
そんな気持ちを大事にしようと、女子高校生は思ったのでした。
私が小学生・中学生の頃はさかんに友人間で手紙交換をしていました。
書き終わった手紙を折る、それひとつとっても様々な折り方があって、スタンダードな四角、かわいいハートの形など、不器用ながらもがんばって折っていたことを覚えています。
反対に、携帯電話やパソコンを手に入れてからは、その圧倒的なデータ保管量・検索能力に何度も助けられました。
読み直したいメッセージをすぐに確認できるのは最大の利点だと思っています。
手紙の良さも、データの良さも両方を経験できた幸運な世代として、もしどちらか一方しか経験したことがない、という方に出会った際には、ぜひ経験のない方の良さをプレゼンできればと思っております。
◇
〈稲空穂=いな・そらほ〉 静岡県出身・在住の漫画家。会社員を経て2017年に「おとぎ話バトルロワイヤル」(KADOKAWA)でデビューし、「特別じゃない日」で日常をテーマにした作品に挑戦中。老夫婦や女子高校生、主婦、バイトの青年……それぞれの小さな幸せがつながっていく物語を描いていて、実業之日本社から第1集が書籍化され、7月に第2集「特別じゃない日 猫とご近所さん」が発売された。Twitterアカウントは@ina_nanana
withnewsでは原則隔週水曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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