ネットの話題
〝砂漠の天使〟スナネコ「ペットにしたい」人へ 動物園が込めた本音
エサは生肉、気性は荒い、人になつかない…
「中毒性がある」とSNSで話題になった那須どうぶつ王国のミュージックビデオ「マヌルネコのうた」。その〝シリーズ続編〟となるMV「スナネコのうた」が発表され、早速話題を呼んでいます。しかし反響の一方で、制作したクリエイターには「ある葛藤」があったといいます。その裏側を取材しました。
「なつかない」「気性は荒い」「可愛いからってなめないで」――。
異国情緒あふれるアラビアンな曲調に、エサにかみついたり飛びかかったり……といったスナネコの獰猛な動きも紹介される「スナネコのうた」。7日に那須どうぶつ王国のYouTubeアカウントで発表されました。
MVをつくったクリエイターの富永省吾さんは「実は1曲目の『マヌルネコのうた』の企画書を作った時から、一発で終わらせるつもりはなかったんです」と明かします。
「『動物のうた』シリーズを想定していて、企画書に『スナネコのうた』も制作したいと盛り込んでいました」
SNSで拡散され、話題になった1曲目「マヌルネコのうた」は、昨年4月にアップされました。
「最古なネコ」「短いあんよを見せてやんよ」。リズミカルな歌にあわせ、マヌルネコならではの独特の動きや、那須どうぶつ王国で飼育されている2匹の特徴がコミカルに紹介されます。
YouTubeだけでも250万回を超えて再生されています。
すでに話題を呼ぶ2曲ですが、富永さんは「マヌルネコとスナネコでは、全く違う目的で『うた』を作りました」と振り返ります。
「制作当時、マヌルネコはあまりメジャーな存在ではありませんでした。『まず認知してもらおう』『生息環境の悪化や絶滅の恐れがあることを間接的に伝え、保全につなげよう』と考えたんです」
一方のスナネコは、大きな耳と瞳が特徴的で、「砂漠の天使」という別名もあるほど。メディアなどでも「かわいい」とたびたび取り上げられ、人気の高い動物です。
一見「かわいい」スナネコだからこそ、危惧されているのが「ペット化」なのです。
富永さんは「どことなく家猫とも似ていますし、知名度があるだけに『ペットにしたい』という需要が高まってしまう恐れがあり、喫緊の課題となっています」と指摘します。
那須どうぶつ王国・総支配人の鈴木和也さんは、「コツメカワウソもペットとしての需要が高まったことから、個体数が減って絶滅の恐れが高まり、ワシントン条約で『商業目的の国際取引が禁止される種』に引き上げられました。スナネコを同じような境遇にしてはなりません」と訴えます。
「保全評価で高リスク種ではありませんが、スナネコが希少動物であることに変わりはありません」
ことし2月、那須どうぶつ王国でスナネコのお母さん・ジャミールから子猫3匹が生まれたタイミングで、「スナネコのうた」の制作が決定。
富永さんは「野生に生息するスナネコ」を感じてもらえるよう苦心しました。
6月の撮影時には、バックヤードの出入り口やガラス、フレームといった人工物ができるだけ映り込まないようなアングルを試行錯誤。さらに20時間分の膨大な映像素材から、「スナネコならではの動き」をピックアップしました。
「ペットに向かない」ことを伝えるため、野生のワイルドさやかっこよさを想起してもらえるように心がけたといいます。
クリエイターとしては、「かわいさ」にフォーカスして、ポップなミュージックビデオをつくることもできました。
しかし、富永さんは「スナネコの魅力は伝えつつも、『飼いたいな』とは思わないようにしたい。そのバランスに一番気をつけました」と言います。
那須どうぶつ王国でもスナネコは、トングを使っておやつを与える、人が展示室に立ち入らないといった「間接飼育」をしています。
鈴木さんは「子猫でも人になつかず、ペット向きでないのは明らか。現場の飼育スタッフは『飼いたい』なんて思わないでしょうね」と苦笑します。
富永さんは「僕も猫を飼っているので、『かわいいな』と思う気持ちも、『なんだか家猫に似ているなぁ』という瞬間があるのも分かります。でもやっぱり『眺めて愛でましょう』なんですよね」と話します。
「とはいえ、説教くさくもしたくないし、『マヌルネコのうた』のように『コミカルに作ってバーンと広げたい』というクリエイターとしての葛藤はありました。でも今回はシンプルな編集に徹し、『この野生の姿を守ろう』と思ってもらえるようなコンテンツを目指しました」
那須どうぶつ王国の鈴木さんも「『かわいいスナネコ』から興味を持った人が、MVを通じて『砂漠にいる野生の姿』を想像してくれるだけでもうれしいです」と話します。
「そしてペット化の危険性を知ってもらい、『野生動物を見守っていこう』という流れが作っていけたらと考えています」と願っています。
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