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「まるでティンカーベル」繊細で美しい「妖精のドレス」ができるまで
パンジーやアサガオ、ネモフィラ、カーネーション、八重桜……。庭に咲いている花や葉っぱを使い、「妖精のドレス」を作っているFairy's Dress〜妖精のドレス〜さん(@Fairys_Dress)。その美しさや繊細さが国内外で注目され、たびたびツイッターで話題になっています。ステキな世界観を発信する作者を取材しました。
「妖精のドレス」制作者は、鹿児島県に住む桃月さん(20代)です。2021年からSNSで作品を発信しています。
ドレスに使うのは、実家の庭で育てている50種類ほどの植物。
「子どもの頃から14年くらいガーデニングをしていますが、時間をかけて徐々に植物を増やしていきました」
幼い頃からファンタジーの世界に憧れがあり、妖精の存在そのものに「なぜか理由もなくときめく」そうです。
「妖精が月夜のお茶会で使ったティーカップがすずらんのお花だった、というお話を読んでとてもワクワクした記憶があります」
子どもの頃にも一度カンナの花で小さなドレスを作ろうとしましたが、うまくいきませんでした。
その失敗も忘れかけていたところ、2021年の春に契機が訪れます。
「うつ状態で何をすることもなくぼんやりと庭を散歩しているときに、ふと今なら作れるのではないかという思いが湧いてきました」
「うつ状態」の理由はいくつかありますが、小学6年生で診断された「起立性調節障害」の影響が大きいと桃月さんは話します。
起立性調節障害とは、立ちくらみや朝起きるのが難しくなるなどの症状が出る病気です。
やや体力が低く疲れやすいことはありましたが、ガーデニングが好きで、鍬で土を耕したり、木に登ったり、花冠を作ったり、自然の中で遊ぶ元気な子どもでした。
しかし、「病気になって寝込むようになり、特に中学生になってからは授業に1回も出られず、どんどん教科書の内容を追えなくなって歯がゆく、つらかったです」。
体調が悪いときは、よく行く花屋で一目惚れして買った妖精の絵をぼんやりと眺めては癒され、起き上がれる日にはガーデニングを楽しんだり、庭の草花を眺めて力をもらったりしていました。
作品を発信し始めた当時は大学進学を目指して勉強していましたが、今後については迷っています。
「起立性調節障害だったために勉強の遅れがあることや、原因不明の頭や感覚がふわふわする違和感、私よりもスムーズに勉強してきた同い年や年下の人たちを毎日のように見ざるを得ないつらさなどがある」といい、大学進学を目指すかはわかりません。
今は妖精のドレスを作るアーティストや服飾の道も選択肢にあると話します。
4月下旬には、ネモフィラなどで作った「空色の妖精のドレス」が注目を集めました。
空色の妖精のドレス
— Fairy's Dress (妖精のドレス) (@Fairys_Dress) April 25, 2022
A sky blue fairy's dress#FairysDress #fairydress pic.twitter.com/36WxHIXtiu
「まるでティンカーベルの世界」「なにこの天才的アイディアは!?」といったコメントが集まったほか、海外からも反応がありました。「いいね」は16万を超えています。
桃月さんは「『たとえほんの少しであったとしても、どこかの誰かの癒しになること』を目標としているので、癒されましたとたくさんの方におっしゃっていただけたことがうれしかったです」。
海外からの反応には、「とてもありがたく思うと同時に、世界中本当につながっているんだと生々しくリアルに感じ、どこか不思議な気持ちになりましたし、どうか世界が平和であってほしいと切なくもなりました」。
桃月さんの作品をもとにイラストを描く「ファンアート」も国内外から届きます。
「とても素敵な作品ばかりで、絵を描くことができる方たちを心から尊敬します」と話す一方、「こんな素晴らしい魔法のようなことが起こっても良いんだろうか」とうれしい戸惑いもあるそうです。
「空色の妖精のドレス」の制作時間は30分ほど。ネモフィラやゼラニウム、キュウリグサ、オオイヌノフグリを使い、ドールの胴体部分や花びら同士に両面テープを貼り付け作りました。
制作について、次のように振り返ります。
「花びらはとても繊細で傷つきやすいので、破かないよう、傷つけないよう、花びらをつまむのにも神経を使いました。また、しおれないうちに完成させ撮影までするのに集中力が必要でした」
「お花も生き物なので個性や移り変わりがあります。同じ株のネモフィラでも色が濃いめに出ているお花があったり、そうでなくても同じ一輪のお花が咲き初めから終わりに近づくにつれだんだん色が薄くなっていったりと、微妙な濃淡の違いがあります」
「とても微妙で繊細な濃淡を見逃さずに選んで、色味をそろえるということにこだわりました」
桃月さんがドレスを作る際は、「お花の個性や形をいかすこと、植物たちと自然の循環を大切にすること」に気を配っています。草花は無農薬で育てているそうです。
「しおれかけて傷んでいる花びらの一部を切り取ってきれいに見せることもありますし、風雨で落ちてしまったお花を拾って作ることもあります」
「ドレスのためにお花を手折ることも時にはありますが、撮影が終わったら使用したお花をできる限り生けています」
しおれてしまったときは、土にかえすことも忘れません。
「枯れた花びらや植物はみみずやダンゴムシや微生物などのたくさんの生き物に分解され、ふかふかの良い土になり、その土はまた植物たちを育んでくれます」
いずれは写真集やポストカード、カレンダーを出したり、人間サイズのドレスや舞台などの衣装、ドール用のドレスに展開することも考えている桃月さん。
最後にこう付け加えました。
「庭の植物だけでなく、植物を育んでくれるたくさんの生き物たちや自然環境にも感謝しているので、妖精のドレスを色々なものに展開していき、売り上げの一部を自然保護の団体に寄付するのも目標の一つです」
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