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「いったん、しおりを挟みます」本店建て替えの三省堂書店、看板が粋
「第二章へ」ファンへの感謝明るく表現
東京・神保町に立地する老舗書店、三省堂書店。今年5月から建て替えが始まる本店ビルに出現した看板のデザインが、SNS上で注目を集めています。知と文化の拠点として、分厚い歴史を紡いできた同社の取り組みについて、取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
人気の看板は、三省堂神保町本店ビルの、靖国通り側壁面に掲げられています。幅7メートル・高さ13メートルの大きさで、上部に開いた穴からピンク色のヒモが飛び出た、しおりを思わせる外観です。
「いったん、しおりを挟みます。」。白い背景に、赤い字でメッセージが書かれています。その下には、赤地に白抜き文字で、こんな風にもつづられているのです。
「粋すぎて胸が熱くなる」「思い出がいっぱい。リニューアル後も楽しみ」。ツイッター上には、書店の利用者と思われる人々のコメントが飛び交っています。
看板は、どのような経緯で設置に至ったのか。三省堂書店経営企画担当の関和一樹さんに話を聞きました。
創業141年を迎えた、三省堂書店。関和さんによると、現在の神保町本店ビルは1981年に完成し、近年設備の老朽化が著しくなっていました。今年5月8日で営業を終了し、ビルの解体・新築作業が始まる見通しです。
「ビジネス街に立地していることもあり、平日は周囲で働いている人がたくさん見えました。休日になると、学習参考書を買いに来るなど、書店を直接目指す方が多い。その意味で、神保町のランドマークであると自負してきました」
昨今、新型コロナウイルスによる売り上げ減などで、書店の廃業が引きも切りません。そうした今生の別れではなく、飛躍のための休止であると伝えたい――。今年の年初以降、社内で2カ月間議論した末に生まれたのが、今回の広告でした。
検討過程においては、よりメッセージ性の強いコピーを推す声もあったといいます。しかし「現状維持より挑戦を」という思いと、利用客やファンへの感謝を、前向きに表明する上で最適として、採用することになったそうです。
ちなみに同社は、一時閉店を周知すべく、看板と同じデザインをあしらった実物のしおりも製作。本店で書籍を買った人に手渡していますが、はける速度が日に日に上がっており、今週のうちに在庫が底をつく想定といいます。
4月25日に看板を公開して以来、波紋が広がるように、SNS上で話題が盛り上がりました。本店で購入した書籍の画像と共に、来店時の記憶をつぶやく人や、「三省堂さんのお陰で知った作家がいる」と、惜別の念を伝える人が相次いでいます。
看板は、5月いっぱい掲示されることになっています。デザインが好評を博したことを受けて、関和さんは次のように語りました。
「神保町に来て下さるお客様に、満足して頂きたい。そんな思いで選書するよう心がけてきました。40年かけて、今の本店ビルを中心に積み上げてきた信頼を、次世代につなげられるような新神保町本店を作りたいと思っています」
なお6月1日には、現在の本店から徒歩圏内に位置する小川町に、仮店舗が開かれます。2025年中を見込む新社屋のオープンまで営業し、読書家たちに、引き続き憩いの場を提供する予定です。
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