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読書の苦手な人向け「しおり」逆転の発想で生まれた魔法のデザイン

「あえての選択」が大好評

これまで読書フェアの対象になりづらかった、本を読むのが苦手な人々。その層に、あえてスポットライトを当て、「しおり」を作った老舗出版社があります
これまで読書フェアの対象になりづらかった、本を読むのが苦手な人々。その層に、あえてスポットライトを当て、「しおり」を作った老舗出版社があります 出典: 岩波書店提供

目次

本を読むとき、なにげなくページに挟んでいる「しおり」。とある老舗出版社の、読書フェア向けに制作されたものが、SNS上で「素敵」と人気を集めています。世代や立場を超え、少しでも多くの人々に、本を読むことの楽しさを伝えたい。そんな気持ちから、あえて「読書が苦手な人」が使えるデザインを採用したという、2人の担当者に思いを聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「しおり」の画像に好反応続々

今年7月、一枚のしおりの画像がツイートされました。

細長い長方形で、文庫本にすっぽり納まるサイズ感。焦げ茶を基調としたカラーリングです。渋めながらも、落ち着いた気持ちで、本の内容と向き合わせてくれるような雰囲気をまとっています。

特筆すべきは、文章にしてちょうど一行分の幅で、黄緑色のラインが入っている点でしょう。透過されており、小説などのページにあてがうと、下敷きになった一節が浮かび上がります。周囲の文字が隠れるため、目を通したい箇所だけに意識を向けられるのです。

「同じ行を何度も読んでしまうから、助かる」「すごく素敵な企画だと思った」。よく似た道具を使っているという、発達障害当事者とみられる人々の投稿を含め、好意的な反応が相次ぎました。

この製品は、岩波書店が7月から実施している、「岩波少年文庫」の読書フェア向けに作られた「魔法のしおり」です。1950年の創刊から、今年で70年となることを記念し、フェアへの協力書店ごとに、対象書籍30冊のいずれかを購入した人全員に無料配布しています(なくなり次第終了)。

読みたい文字列の上に置くと、黄緑色のラインに浮かび上がるので、集中して目を通すことができる
読みたい文字列の上に置くと、黄緑色のラインに浮かび上がるので、集中して目を通すことができる 出典: 岩波書店提供

児童書専門店主との雑談にヒント

多くの人々に受け入れられた「魔法のしおり」は、どのように生まれたのでしょうか? フェアの企画を担当している、岩波書店児童書編集部の愛宕裕子(あたご・ひろこ)課長、同社営業部の藤森崇副課長を取材しました。

毎夏催される少年文庫の創刊フェアでは、書籍購入者向けのプレゼントを用意しています。これまでのラインナップは、オリジナルブックカバーや、文庫本が持ち運べる手提げ袋といったグッズです。いわゆる「読書好き」な人々が、主なターゲットであると言えました。

創刊70年という節目に、従来と違った方向性を打ち出せないか――。社員でつくる企画班の一員として、藤森さんは知恵を振り絞ります。そして昨秋、東京都文京区の児童書専門店「てんしん書房」を訪れたことが、転機となりました。

「営業部員として、児童書を取り扱っている関係で、以前からよく足を運んでいたんです。当日も立ち寄りがてら、店長さんと書籍の売れ行きなどについて雑談しました。そして、プレゼントのアイデアがないか、思い切って相談してみたんです」

紹介されたのが、「リーディングトラッカー」などと呼ばれる、定規型の読書補助具。識字障害や弱視の当事者向けに作られ、色つきで半透明のシート部分を、読みたい箇所に当てるだけで、視線を集中できる仕様です。

「活字を読むのが苦手な人でも使えるんじゃないか」。藤森さんはひらめきます。その足で出席した、企画班の会議で提案すると、メンバーの反応は上々でした。紙とセロハンでサンプルを自作したり、専門業者に意見を求めたりしながら、完成までこぎつけたそうです。

文字を長時間、目で追っても疲れないよう、ライン部分には黄緑色を採用した
文字を長時間、目で追っても疲れないよう、ライン部分には黄緑色を採用した 出典: 岩波書店提供

SNSの反応見て、協力する書店も

岩波少年文庫は、長い歴史ゆえ、幅広い年齢層から愛されてきました。その一方で、関連書籍の感想を示してくれるのは、どうしても往年のファンに偏りがち。若い読み手を取り込み、その声をすくい上げることが難しく、悩んでいたと愛宕さんは打ち明けます。

「学校や地域の図書館に『魔法のしおり』が置いてあれば、思わず気になってしまうかもしれません。その経験から、特に子どもたちが本の世界に親しんでくれる可能性はあります。次世代の読者を獲得する上で、今回の試みが助けとなるのでは、との期待感が強いですね」

SNS上を中心に話題を呼んだ、今回の製品。うわさを聞きつけ、「配布させてもらえないか」と、営業部に問い合わせてきた書店もあったそうです。フェアへの協力店舗は、7月19日時点で全国160カ所を超え、その後も増え続けているといいます。

読書の苦手な人に焦点を当てたしおりが、好評を博したことについて、藤森さんは次のように語りました。

「少しでも多くの方々にとって、本に親しんで頂くための入り口になって欲しい、ということに尽きます。その上で、70年以上続いてきた、岩波少年文庫の面白さに触れて下さったらうれしいです」

「そして、一般にはあまり知られていない読書補助具の情報を、広めるお手伝いができたら、とも思っています」

「魔法のしおり」は、フェアへの協力書店で、岩波少年文庫の対象書籍を購入するともらえる。「岩波少年文庫」のロゴ付きだ
「魔法のしおり」は、フェアへの協力書店で、岩波少年文庫の対象書籍を購入するともらえる。「岩波少年文庫」のロゴ付きだ 出典: 岩波書店提供

【関連リンク】岩波少年文庫創刊70年フェア特設サイト

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