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地元

パソナ〝移転〟1年後の淡路島は…関東から問い合わせ「プチバブル」

「リゾート廃墟」か「共存のモデルケース」か

淡路島にかかる大鳴門橋
淡路島にかかる大鳴門橋

目次

瀬戸内海に浮かぶ数々の島の中で最大の島、兵庫県淡路島で変化が起きています。2020年に人材派遣会社「パソナグループ」が東京から淡路島に本社を移す計画を発表し、島の資源を活かした施設のプロデュースを通した地域活性化に取り組み始めたのです。島の人たちは、「パソナの活動」をどのように受け止めているのでしょうか。淡路島で生まれ高校まで生活したライターの吉野舞が、街の様子をレポートします。(ライター/吉野舞)

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淡路島に移住する場所がない

私が淡路島から大学進学で上京した8年前、「淡路島出身です」と言えば「それってどこ?」と言われることが多く、場所の説明が大変でした。しかし、ここ最近同じ発言をすると、かなりの確率で「パソナの!」と反応が返ってくるように。

パソナグループが淡路島への本社機能の一部移転を打ち出したのは、2020年秋。2021年には、新入社員を除く約120人の社員が淡路島へ移ってきました。移転計画は現在も続いており、2024年5月末までに社員1800人のうち、1200人を淡路島に移す大規模なプランとなっています。

パソナグループは、兵庫県立淡路島公園に開設したアニメパーク「ニジゲンノモリ」を始めとする、観光業を主軸とした10ヶ所の施設も運営。淡路島の地方創生事業にも積極的に取り組んでいます。

パソナによる影響は人口統計にさっそく表れました。

2020年、パソナの関連施設が多く点在している淡路島の北部、淡路市では転出者数と転入者数の差を表す「社会増減」が増加しました。

もともと淡路島の人口は離島の中でも最も多い約13万人(2021年10月時点)と、意外に地方都市並みの人口が住んでいます。コンビニや深夜0時まで空いているドラックストア、病院や24時間ジムなどもあるので、買物や生活に不自由することはありません。

コロナ禍による地方移住の流れもあり、現在、淡路島の住宅は「不動産プチバブル」だと言われています。不動産関係者によると、場所によってはもともとの坪単価から5万円も高くなるなど、不動産取引価格はパソナが来る前に比べて約1.5倍上がりました。

アパートやマンションは満室状態で、仮に部屋に空きが出たとしても、競争率が激しいため内見しないで賃貸契約を結ぶことになることも少なくないそうです。今まで淡路島の不動産で一度もなかった事態が起きています。


淡路島で不動産関係の仕事をする住民は、「コロナ禍による地方移住の流れが影響して、1年前から島全体で住まいの確保がとても難しくなり、島民でさえも新しい家を探すのも困難な状況」だと言います。

特に移住希望者に人気がある、大阪や神戸に出やすい淡路市東部エリアの賃貸物件はパソナグループが、社員の住居のためにほとんど借りてしまったこともあり、移住希望者の中には、物件を見つけるために3年以上待ち続けている人も珍しくありません。

淡路島全体で見ると今も空き家が多いですが、「知らない人には貸したくない」という持ち主の気持ちもあり、移住希望者がいても簡単に借りれないのが現実です。そこに一部に偏る形で起きた「バブル」。島の不動産は需要と供給のバランスがとれていない状態になっているようです。

パソナが「淡路島西海岸」というコピーで開発している地区のマップ
パソナが「淡路島西海岸」というコピーで開発している地区のマップ

名前が売れたのはパソナのお陰?

「ここ最近で淡路島の名前が売れたのは、間違いなくパソナの効果です。移住の話をしていても話題のとっかかりになっていますし、関東からの問い合わせもとても増えました」

移住相談員がこう言うように、それまで関西の方にはアクセスも良く、豊かな自然に恵まれた淡路島は「橋を渡れば、リゾート地」と知られていましたが、関東にはそこまで知名度はありませんでした。そこに全国的に島の知名度を上げてくれたのが「パソナグループ、淡路島へ本社移転」のニュースでした。

実はパソナの社員の数名は本社移転の話が出る7年ほど前から、島の事業のために既にやって来ており、私自身も社員の方と地元の飲み屋で話したことがありました。

「淡路島をもっと盛り上げたい」「地域に貢献したい」と熱く語ってくれ、島に対して良い印象を持ってくれているんだなと嬉しく感じたことを覚えています。「淡路島に興味があったので、パソナに就職しました」と話す人もいるくらいです。


実際にパソナに勤めていた方が会社をやめた後、淡路島に残り、新しいお店を始めた人も。パソナが島に大きな施設を建てたことで、島の電気屋や建設業など、一部の事業者は忙しくなりました。新たな島の人気スポットもでき、それに影響されもともといた住民の中からも新事業を始めた方がいます。

停滞気味だった島の経済は、一部の地区ですが目に見えて活性化し、パソナが島にやってきたことで地域住民に少なからず刺激を与えていることは間違いありません。

パソナ関連施設が多く建てられている淡路島の北部には、古い町並みや銭湯が並んでいる
パソナ関連施設が多く建てられている淡路島の北部には、古い町並みや銭湯が並んでいる

島の住民からの様々な声

一方、急激な変化には戸惑いの声が出ているのも事実です。中でも一番、大きいのが「撤退」の不安です。

地元で長年飲食店を経営する男性は「事業の状態次第で、すぐに島から出て行くんじゃないかなって不安があります。たとえ今、地方活性に取り組んでいても、10年後や20年後の街がバブルの遺産の巨大リゾート廃墟みたいにになることもありえますよね」と話します。

不安の〝実例〟として上がるのが「世界平和大観音」です。

「バブル前期に淡路島に建てられ長く放置され、ただの目印に使われているような状態でした。今年、ようやく解体工事が始まりましたが、『世界平和大観音』のような放置状態にならないでほしいと思います」

大阪湾を見下ろすようにそびえ立つ淡路島にある「世界平和大観音像」。建設から約40年、今年ついに解体工事が始まった。老朽化でお腹の一部が剥がれ落ちている
大阪湾を見下ろすようにそびえ立つ淡路島にある「世界平和大観音像」。建設から約40年、今年ついに解体工事が始まった。老朽化でお腹の一部が剥がれ落ちている

「パソナが淡路島を大々的に宣伝してくれたことで、島を知らなかった人たちが淡路島の魅力に気づき、街がもっと盛り上がればいい」

そう語る男性が心配するのは島の中で保たれていた〝バランス〟が崩れることです。

「都会でもトップクラスの会社がこんな小さな島で事業をすると、個人経営の小さな飲食店などが潰れてしまう不安はあります。島がパソナ一色にならずに、元からあったものと新しいものをうまく共存できたら、唯一無二の事例になるのではないでしょうか」

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