大阪府の富田林市が、厚生労働省などが推奨しない「空間除菌」をうたう約2万個の雑貨を購入し、そのうち約1万6000個を2021年3月までに市民に配布していたことがわかりました。購入に使われた税金は約4000万円に上るとみられます。
空間除菌は人への有効性や安全性が未確立で、特定の感染症と結びつけて宣伝できないにもかかわらず、「コロナ対策用品」と大々的に表記されており、市民に誤った認識が広まるおそれがあります。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
いわゆる“第3波”の中だった2021年2月、大阪府富田林市が同市民に向けて「『選べるコロナ対策用品』をお届けします」と打ち出しました。「令和3年2月18日を基準日とし、本市の住民基本台帳に記録されている」約5万世帯すべてに送られるカタログから希望の用品を選び、申し込む形でした。
用品は申込先着順で支給されるということでした。「みんなでコロナを乗り越えよう!」「富田林市民のみなさん、できることから始めましょう。」というスローガンのもと、カタログにはアルコールジェルや医療機器の体温計も記載されていました。
同市担当者によれば、これは2020年11月に企画されたプロジェクト。令和2年度の補正予算として約3億円が計上されていました。予算通過後の12月末から21年3月末までの数カ月で希望する全世帯に用品を配布するというスケジュールで、ネット上には急速な感染拡大への対応を評価する同市民の声もありました。
しかし、ここで最も多い1万9300セットが準備されていた「基本セットA」の内容は、空間除菌をうたう大幸薬品のクレベリンと、2種類の除菌スプレーでした。これらは医薬品や医療機器ではなく、法律上は「雑貨」に該当するものです。
特に空間除菌については、WHOや厚生労働省など公的機関が非推奨の立場を明確にしています。空間除菌用品は人への有効性や安全性が未確立で、医薬品や医療機器として承認されていない雑貨であるため、医薬品医療機器等法(薬機法)により、新型コロナウイルスという特定の病原体への効果をうたえない商品です。
薬機法に基づくチェックをする大阪府生活衛生薬務課によれば、雑貨の宣伝で「コロナ対策」とうたえば、薬機法に抵触するとのこと。だから販売側は宣伝時に、直接には人への効能効果に言及しません。そんな空間除菌を、行政が「コロナ対策」として打ち出してしまったことになります。
富田林市担当者によると、配布されたクレベリンは同市が購入したもの。プロジェクトの進行にあたって、業者からの提案をもとに選定したということです。購入にかかった税金は約4000万円に上るとみられます。
準備されたクレベリンを含むAセットは約8割が支給されたとのこと。21年3月末までに希望した世帯に発送されています。同市担当者はすでに解散した当時のプロジェクトチームから聞き取りをした経緯をこう説明します。
「新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、できるだけ早く、より多くの市民を支援しようという思いのもと、役に立ちそうなものを探していました。そのため、実際の効果などの検証までをする時間がなく、カタログに『(各用品の)効果を保証するものではありません』と注意書きをするに留まりました。
ドラッグストアなどで普通に販売されているものであるため、それ自体が問題あるものだとは思っていませんでした。とにかく“できることから始める”という気持ちだった、ということでした。雑貨でコロナ対策ができるという誤った認識を市民に与える危険性はあり、今後、同様の事業をする際には、より精査して選定します」