連載
#8 眠れぬ夜のレシピ
深夜のファミレス「乗り合わせた仲間」と孤独の味 眠れぬ夜のレシピ
「何気ない日常」の価値とは何だったのか
疲れた仕事帰り、ふらりと深夜のファミレスに寄る。そんな日常だった夜が「かけがえのない」ものだったと気づかされています。一人の夜を少しでもあたたかい気持ちで過ごせるように。あなたに贈る、真夜中のレシピです。手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
不安に襲われる夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
飲食店のホールのアルバイトをしていた時期の帰りは、よく吸い寄せられるようにファミレスに寄っていました。 空腹と疲労が大きな要因ではありましたが、それよりも、さっきまで店員だった自分が一瞬で客になってしまう“立場の逆転”が面白かったのです。
よせばいいのに、私は一生懸命働いて得た稼ぎの中の一定の割合を、毎月夜の飲食店に溶かしていました。アルバイトで得た金額の一部を、アルバイトのストレスを発散するために使ってしまうので、なんだか釈然としないと当時は思っていました。
しかし、あれで良かったのだと今では思います。私は、ストレス発散のために仕方なくお金を使っていたのではなく、自分の立場の変化の体験や、自宅で簡単には作れない料理、そして、深夜のファミレスにしかない特有のムードに対して、お金を払っていたのです。
実際に手で触れることができなくても、目に見える形に残らなくても、価値あるものはこの世にたくさんあります。そういったものにお金を使うことを、私はもう無駄だと思いたくありません。
目に見えない大切なものは、ある日突然思いもよらない方向から、損なわれてしまうことがあります。実際に夜中のファミレスで過ごす時間は、新型コロナウイルスの影響で失われてしまうことも経験しました。私の中であの日々は、何気ない日常の思い出から突然、かけがえのないものに変わってしまいました。
気づけていないだけで、そういった大切なものは今も身近にたくさんあるのではないかと思っています。私は、自分にとって失いたくないものを敏感に気づけるようになって、大切に守っていきたいと最近は強く思うのです。例えそれが、一般的には無駄なものであっても。
それでは、今夜も素敵な夢を見られますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。今年1月に初の書籍「眠れぬ夜はケーキを焼いて」(KADOKAWA)を出版。Twitterアカウントは@_zengo。
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