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現代のトイレ、ボタン多すぎ? 障害者だけじゃない…洗浄ボタン問題

「とりあえず一番目立つもの」、その結果が非常ボタン…

公共施設の個室トイレの一例。トイレットペーパー周りには複数のボタンも=設計事務所ゴンドラ提供
公共施設の個室トイレの一例。トイレットペーパー周りには複数のボタンも=設計事務所ゴンドラ提供

目次

視覚障害のある人にとって、個室トイレの数あるボタンの中から、洗浄ボタンを探すのは一苦労。「(洗浄ボタンなどの)位置が統一されることを願う」とツイッターでつぶやいた全盲の女性の投稿には、多くの反響がありました。反響の中には、トイレの壁面に何をどのように配置すべきかを定めたJIS規格があるという情報も。規格はあるけど、普及はまだまだということ?――。トイレ設計を多く手がける設計事務所に聞きました。

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男性用女性用「どちらに行くか決めるのがまず大変」

話題になったツイートは、17年前、30歳で視覚障害者となった浅井純子さんによるもの。
《トイレを流す際、センサー式ってありますよね?でも,センサーの場所が分からないのです。どこ?どこ?どこ?とトイレに座りながら左右のセンサーを探しまわる全盲の私。最近は、潮干狩りのアサリを探す気分で壁をタッチしています(笑)センサーの位置が統一されることを願い、今日もセンサーを探します!!》

【リンク】つぶやいた浅井さんへの取材はこちらの記事で読めます。

視覚障害のある方にとって、洗浄ボタン(センサー)の位置がわかりにくいという現状を、トイレを設計をする側はどう考えているのでしょうか。
トイレの設計を多く手がける設計事務所「ゴンドラ」の代表、小林純子さんに聞きました。

――視覚障害のある方にとって「洗浄ボタンの位置がバラバラでわかりにくい」という声があることはご存じでしょうか。

以前視覚障害者の方と話し合いながら、盛岡の駅ビルのトイレを作ったことがあります。そのときに感じたのは、視覚障害の方にとっては、二手に分かれた男性トイレと女性トイレのどちら側に行くのかを決めるのがまず大変ということです。
その声を受けて、そこでは触地図をつけ、男性用と女性用がそれぞれどちらにあるかわかるようにしました。


――個室に入ってからはどうでしょうか。

鍵も色々と形状がありますが、それはこれまでの感覚で位置や開閉の方向を想像することができそうだというのがわかりました。便器の位置も、白杖があればわかります。

ただ、洗浄ボタンの位置などは種類が多くわかりにくいということは、そこでも話題になりました。
ボタンではなく、センサー式の場合はさらにわかりません。
話し合いの結果、このトイレでは、シンプルな押しボタン方式を採用しました。
設計事務所ゴンドラの代表・小林純子さん=本人提供
設計事務所ゴンドラの代表・小林純子さん=本人提供

認知症の人も戸惑う「洗浄ボタン」

――ボタンでいえば、最近のトイレはボタンの数がとても多いですよね。

「ボタンの種類が多すぎる」というのはこれまでも言われてきたことではあります。
洗浄ボタンも「大」「小」あるし、ウォシュレット機能も「おしり」や「ビデ」などに分かれ、さらには非常ボタンまで…と、たくさんありますよね。

見えない方にとっては、ボタンが多すぎると「どれを押したらいいのかな?」と不安に思うようです。その気持ちは視覚障害を持っていなくてもわかります。それに、それぞれのボタンの機能を確認するのに必要な点字すらない場合も多くあります。

ちなみに、ボタンの数については、認知症の方たちも戸惑われるようです。
以前検証に立ち会うことがあったのですが、たいていの方は「用を足したら流す」ということまではわかっておられます。ですが、「ボタンやレバーを探す」という段階で混乱してしまいました。とりあえず一番目立つものを探し、押した結果、非常ボタンを押される方が多かったんです。


――確かに、浅井さんのツイートにも「私でも探してしまう」というコメントがいくつかついていました。どうして洗浄ボタンを含め、トイレの機能は統一されないのでしょうか?

改正バリアフリー法(2021年4月施行)に基づくガイドラインでは、洗浄ボタンと非常ボタン、それにトイレットペーパーホルダーの位置関係を定めたJIS規格が盛り込まれ推奨されています。
そこには、トイレットペーパーを中心に、その上に洗浄ボタン、その奥に非常ボタンを設置すること/洗浄ボタンは視覚障害者にわかりやすい押しボタン式/さらにわかりやすくするために文字・図記号が見やすいように背面との明度・彩度の差を大きくすることなどが明記されています。

この法律は拘束力を持つものと「推奨」となっているものがありますが、前述のものは後者で、昔からあるトイレは、すぐにすべてを同じ規格にすることは難しいです。

また、配置でいうと、トイレに座りながら手を伸ばせる範囲が約1メートル。その1平方メートルの中に、ボタン類、トイレットペーパーとその予備、手すり、多機能トイレの場合は座ったまま使える手洗いなど、設置しなければいけないものが山ほどあります。
狭い範囲の中で、それらをどのような配置にするのかは、使いやすさをもっと研究し、トータルで判断した方がいいと思っています。

公共施設の個室トイレの、トイレットペーパー周辺のボタン類一例=設計事務所ゴンドラ提供
公共施設の個室トイレの、トイレットペーパー周辺のボタン類一例=設計事務所ゴンドラ提供

今昔、トイレへの思いがまったく違う

――ここまでうかがうと、残念ながら、一律に統一していくことが難しい分野なのかなという感じもします…。

昔のトイレといまのトイレとでは、どのような変化があるのか、最近私たちが手がけた、新築の熊本の駅ビルのトイレと、昔から付き合いのある築45年ほどの商業施設のトイレを比較してみたんです。
いずれも建物の商業部分の床面積がほぼ同じ面積(3万平方メートルほど)で、その中のトイレの個数が12カ所で同じ。各階に多機能トイレを設置しているのも同じです。
ですが、この建物全体の中でトイレが占める面積は大きく異なりました。

築45年ほどの商業施設は500平方メートル、新築の駅ビルは1000平方メートルと、2倍になっているんですよね。
つまり、昔といまとでは、トイレに対する思いのかけ方、重要視のされ方がまったく違うことがわかります。

一方、新築の駅ビルは改正バリアフリー法にのっとってバリアフリーを十分考えることができますが、築年数の経っている建物で、法律の考えを新築と同じように十分反映できるかというと、努力してもできないところもあります。そのあたりをどのように法整備の中に組み込んでもらえるかが重要です。

公共施設の多機能トイレの一例=設計事務所ゴンドラ提供
公共施設の多機能トイレの一例=設計事務所ゴンドラ提供

昔の施設につきまとう「難しさ」…それなら

――今後、トイレのユニバーサルデザインはどのように変化していけるのでしょうか

かつてトイレは虐げられた場所でした。だから、昔の施設のトイレは階段の踊り場に多いなど、「余った場所」につくられてきました。そういう建物が残っている限り、難しさはつきまといます。
新築ばかりなら決めごともスムーズに守られるかもしれないですが、ほとんどは既存・過去を引きずっている「改修」が多いですからね。

そんな中でもできることは、1カ所でも2カ所でも、「みんなが使えるトイレ」を作ることです。
設計者としては多機能トイレなどのユニバーサルデザインを広げて行く努力はするのですが、売り場面積を狭めないといけない場合もあります。だから、施主も一緒に考えて行かないと限界があるんですよね。

また、わかりやすい機能を持たせるためには、メーカー側の協力も必要です。例えば洗浄ボタンの音声案内に関しても、メーカー側も努力はされていますが、さらに多くの人の話を聞いていただき、新たな機能を開発してほしいです。
浅井さんのような声は、各方面に変化を広げて行く可能性が増すと思います。


――個人的には、デザインが過剰にコンパクトになりそれが「おしゃれ」とされる風潮もあるように感じています。

ユニバーサルデザインと「おしゃれ」は別物ではありません。「心地よいデザイン」っていうのはおしゃれなもの。そして、求めるものはみんな一緒。
私たちも、試行錯誤しながら仕事をしています。

公共施設の個室トイレの、トイレットペーパー周辺のボタン類一例=設計事務所ゴンドラ提供
公共施設の個室トイレの、トイレットペーパー周辺のボタン類一例=設計事務所ゴンドラ提供

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