ネットの話題
「大阪コロナホテルです!」底抜けに明るいツイート、中の人の思いは
ツイッターを見ていると、すごい字面が飛び込んできました。「大阪コロナホテルです!!!」。よく読めば50年続いている大阪市の老舗ビジネスホテルらしい。コロナ禍で経営は大変。でもツイートを見ていると、底抜けの明るさにこちらまで笑顔になってくる。苦しいはずなのに、なんでこんなに楽しそうなの? 「中の人」に会いに、ホテルを訪ねました。(朝日新聞大阪社会部記者・狩野浩平)
ホームページに「新大阪駅徒歩2分」とありましたが、本当に近い。年季の入った建物なものの、ロビーはこぎれい。経営者が世界各地から集めてきたという豚のアートが異国情緒を醸し出しています。
背の高い、がっしりした男性が小走りでやってきました。広報担当でツイッターの「中の人」の藤井康平さん(28)。先ほどまで、ホテルで作った弁当をグループ会社の敷地で売っていたそうです。
藤井さんがツイッター担当になったのは昨年1月のこと。ホテル自慢の朝食や露天風呂付き大浴場をもっとPRできるはずという思いで、「フォロワー1千人を目指します」と手を挙げました。
まずは豚のマスコットキャラクターを活用し、ホテル内の豚の置物を紹介する「#ブタちゃん紹介コーナー」を始めました。真珠のネックレスを巻いた置物には「ブタに真珠ブタちゃん」、透明な置物には「スケルとん」と名前をつけて発信。地道に50人ほどフォロワーを増やしました。
しかし15日、新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されます。SNSにはホテルについて「名前が怖い」「縁起でもない」という投稿が目立つように。ホテルにも「改名しないの?」といった電話や無言電話がかかるようになりました。そんな中、藤井さんの「コロナウイルスが憎い…」と書いたツイートが大反響を呼びます。
フォロワー数は一気に3千人ほど増え、メディアの取材も相次ぎました。「『頑張ってください』というあたたかい、うちの言い方では『ぶたたかい』声ばかりでした。ホームページの問い合わせフォームやお手紙でも激励をもらいました」
2月には10万を超えるフォロワーを持つインフルエンサーが宿泊し、「縁起悪くも怖くもなかったです。がんばれコロナホテル」とツイート。藤井さんは「中の人は涙が止まりません」と返信しました。
藤井さんによると、開業時からオーナーが変わっているためホテル名の由来はわからないそうです。ただ、オープンは1970年の大阪万博のさなかでした。「コロナは太陽と関係のある言葉。太陽の塔が注目されていたので、明るくてポジティブなイメージを込めたのでしょうか」
SNSには、「昔からあるよね」「新幹線が見えますよね」という声も。藤井さんは「コロナホテルという名前にプライドを持って仕事をしてきた」として、改名しないことをツイッターで宣言。「何とんぞ、宜しくお願い申し上げます」とつぶやきました。
3月ごろには本格的に宿泊客が減り始めます。まだマスク着用が今ほど広まっていなかった時期です。人混みの中で新幹線を待ちたくないという人のため、会議室を1時間1千円で貸し出す企画もしました。
緊急事態宣言が出されていた4、5月は、一時休業を真剣に考えるような状況だったそうです。
でもこのとき、出張で来日したものの帰国できなくなったベトナム人男性客が3月8日から長期宿泊していました。従業員は「『閉めるからどっか行け』はないな」と団結。二つの班に分かれて感染拡大のリスクを抑えながら営業を続け、7月7日にチェックアウトして帰国する男性客を見送りました。
線路沿いの立地を生かす方法も考えました。
『撮れインビュー』と題し、
— 大阪コロナホテル🐷【公式】 (@CORONAHOTELJP) May 19, 2020
新幹線がベストポジションで見れるお部屋を割り当てるプランを作ってみたのですが、需要ありますかね…??https://t.co/xvMoNKQw8s pic.twitter.com/dCDn5qpcYW
かつては「列車の音がうるさい」という苦情もありましたが、逆手にとったこのプランは大好評。いまやホテルの定番プランとなりました。
50周年記念日の6月23日は、企画していた様々なイベントは断念し、「社員決起大会」が開かれました。リアルでは小さな集まりでしたがツイッターでは大きな反響があり、「おめでとんございます」というお祝いが次々と寄せられました。
ホテルの知名度アップに貢献したとして、藤井さんには会社から表彰状も贈られました。七夕の短冊には「フォロワー100万人増えますように」と書きました。
7月は政府の観光支援策「Go To トラベル」の開始を控え、「#GoToキャンペーンを中止してください」という声が高まります。藤井さんは珍しく長文のツイートで葛藤する思いを発信しました。
#GoToキャンペーンを中止してください がずっとトレンド入りしておりますね…。
— 大阪コロナホテル🐷【公式】 (@CORONAHOTELJP) July 14, 2020
これ、凄く難しくて、正直ホテルサイドからすると、弊社含め、「今」困っている施設がたくさんあります。
運営サイドからすれば、「今」1円でも多く売り上げが上がる見通しが立つ。というのが非常に有難いです。
藤井さんは、ホテル運営で最も困るのは「見通しがたたないこと」だといいます。予約が入らなければ、従業員のシフトや食材の仕入れも決められない。「Go To」への期待は大きい一方、感染不安もある。「何が正しいのかわからなくなり、感情が爆発しました」と話します。
感染の第2波が落ち着き、9月ごろからは宿泊者数も増えました。しかし宿泊料金の相場は下がったまま。たとえばコロナ禍前には1万円近くまで上がったシングルルームの値段は、3千~4千円ほどまで落ちていました。客が増えても、経営的に厳しい状況は変わらなかったそうです。
「ビジネスホテルもカプセルホテルも漫画喫茶も同じような値段でした。一度下がってしまうと、他社との競争もあってどうしても上げられません」
ホテル以外の収益を少しでも増やそうと、トートバッグやTシャツなどのグッズも作りました。2月の宿泊から交流を続けてきたインフルエンサーとのコラボで作ったTシャツには、「STAY KIND」とデザインしました。
くつざわさんのご協力の元、ただいま販売しているロングTシャツですが、
— 大阪コロナホテル🐷【公式】 (@CORONAHOTELJP) October 15, 2020
こんなご時世だけど、優しくいようぜ!という意味も込めて「STAY KIND」の文字が綴られております。
この「STAY KIND」が凄いんです。 pic.twitter.com/epeZ5gu7OG
「社員にもTシャツのモデルになってもらい、写真をツイートしました。コロナ禍で『何かしないといけない』と一体感が増して、いろいろな取り組みができました。本当にめまぐるしい1年でした」
年末にはいつもの「おふざけ」を封印し、応援への感謝をつぶやきました。
この一年、しょうもない私の投稿に付き合い続けてくださりました親愛なるフォロワーの皆様へ。 pic.twitter.com/AXxaUrqVhB
— 大阪コロナホテル🐷【公式】 (@CORONAHOTELJP) December 29, 2020
しかし冬に襲来した第3波の影響はやはり深刻です。「Go To トラベル」の停止や緊急事態宣言を受け、宿泊や会議室の予約キャンセルが相次ぎました。今年1月にまとめた2月の稼働率見込みは、前代未聞の5%でした。
2月末までは、3泊以上なら1人1泊2500円になるプランを行っています。ツイートでは「もう住んでもらってもいいですよ」と発信。同時期に帝国ホテル(東京)が「住める」をコンセプトにしたプランを始めたことも相まって、注目を集めました。
一方で今もポジティブツイートは止まらず、笑顔の豚のイラストや従業員の仲の良さそうな写真が投稿されています。
こんなにピンチなのに恐縮なのですが、という前置きをして、藤井さんに聞いてみました。なんでこんなに明るく楽しそうなんですか?
「ずっと心がけてきたのは、とにかく明るく元気でやっているよというメッセージを出すことです。私たちは普段はホテルで接客することしかできないけど、ツイッターでは会わなくても楽しんでもらえます。おかげでツイッターをやっていないとあり得なかったつながりが生まれました」
「あと、ホテルはお堅いというイメージがあると思います。私たちは大阪のこてこてのところでやっているホテル。親しみやすい従業員が親しみやすいおもてなしをしますよ、ということを伝えたいんです」
「感染が収まるのか、オリンピックが開かれるのか、先のことは全くわかりません。とりあえず、少しでも旅行を『ポジティブタ』に考えてもらいたい。ホテルにこもっていても楽しめるよう工夫しておもてなしします。ツイートはより『ポジティブタ』にいきます!」
「中の人」は大阪のホテルマンらしく、丁寧で親しみのある人でした。最後は、取材のきっかけとなったツイートからの引用です。
#できる限り大声で伝えてください
— 大阪コロナホテル🐷【公式】 (@CORONAHOTELJP) February 1, 2021
大阪コロナホテルです!!!
新大阪の地で、50年間営業を続けております!!!!!
落ち着いたら来てくださぁぁぁぁあァァァァァァァアアアアアアアアアイ!!!!!!
1/25枚