ネットの話題
「おじさんが、守ります」子どものプラモへの〝悪口〟に愛ある声明文
「大人が作ったんだろう」に怒った理由
小学校6年生までを対象にしたプラモデルのコンテストで、主催者が出したある声明文が話題になっています。子どもたちの作品に「親が作ったんだろ」という言葉が投げかけられたことへの対応でした。「プラモデルを作っているお子さまたちへ」というメッセージを投稿した男性に話を聞くと、男性の幼少期の体験や、子育てでの苦い経験から得た願いを込めていました。
声明文によると、子どもたちの「参加作品」をSNSで紹介していく中で、こんな言葉が投げかけられたのが発端でした。
「親が作って、こどもの名を借りて投稿している」
「(制作に使用されているツールは)小学生が使うのは間違っている」
この言葉について、主催者は「根拠なき発言が外部の第三者から、お子さまの作品に向かって突きつけられる現状は、主催者としてもイチ模型人としても、また小学生の子を持つ者としても、ただひたすら悲しいことであります。今後、このようなことがないよう、また発生してもお子さまや保護者さまが悲しい思いをしないよう、ここに主催者として声明を出させていただきます」と前置きし、子ども向けに次のようなメッセージを載せました。
この声明文について、ツイッター上では「こういう善良な大人がいるから、世界は秩序で保たれている。ありがとうございます」「大切な人の大切な場所を守れるようになりたい」「目頭が熱くなった」「自分もこんなおじさんになれるように人間力を磨いていこうと思う」などのコメントが寄せられ、注目を集めました。
声明文が拡散され、コンテスト公式サイトへの閲覧者が急増したため、サーバーに負荷がかかり、サイトが一時的に見られないほどの事態になりました。
「こどもプラモコンテスト21」を主催する、「ホビーカフェ ガイア」に電話をすると、声明文を投稿した齋藤さん(51歳)が「びっくりしました、こんなことになるなんて思わなくて」と驚きつつ、応えてくれました。
もともとウェブ関係の仕事をしていた齋藤さんが、妻とともに始めた店で、今年で5年目。
看板メニューのカレーは500円と、小中学生や親子連れが気軽に立ち寄れる価格帯にしました。子どもから大人まで、食事やプラモデル作りを気軽に楽しめる場所を作りたいとの思いを込めて作った店でした。
コンテストは今年、初めて開催を試みました。
きっかけは、コロナ禍で自宅にいる時間が増える中、プラモデル作りをするようになった人が増えていること。
一方で、齋藤さんは「今は、子どもたちが自分の作品を発表する場所が少なくなっている」と感じていたため、「未就学児から小学生まで」が参加できる大会を開こうと考えました。
齋藤さんの子ども時代を振り返ると、プラモデルは子どもたちにとって身近なものでした。当時は町の駄菓子屋や文房具屋に、50円や100円で買えるプラモデルがありました。
齋藤さんも小学校入学前から宇宙戦艦ヤマトの艦艇づくりに夢中になり、「ガンプラ」ブームにも乗りました。
難易度が上がったとき、作り方を教えてくれたのは、町にある個人経営の模型店の店主でした。
小学校4年生のある日、齋藤さんが自信作を持って店に行き、「こんなんできた! 見て~!」と言うと、店主は「いいな! 置くか?」と店のショーケースに飾ってくれました。
その時の信じられないような気持ちや、「認められた」と思ってうれしかった気持ちは、今も忘れません。
時代とともに、プラモデルファンの年齢は上がり、クオリティーや難易度が上がりました。それとともに価格帯も上がって、いつしか子ども向けというより、大人の趣味に変わっていきました。
プラモデルを扱うのは家電量販店が主流になり、ショーケースに子どもの作品を飾ってくれた町の小さな模型店は少なくなっていきました。
「もっと純粋に子どもたちが楽しめる場所を作りたい」。そんな気持ちで企画したのが「こどもプラモコンテスト」でした。
「こどもプラモコンテスト」は、一般の「大人向け」コンテストとは違う仕掛けがありました。
一般で競われるのは工作や塗装の技術、アイデア力などですが、「こどもプラモコンテスト」の採点基準は「どれだけ楽しく作れたか」。
コンテストに参加するには、作品の写真とともに、作品と一緒に写る子どもの写真、計4枚を投稿します。そして、頑張ったことや工夫したことをアピールしてもらいます。
インターネットへの投稿を手伝う親からも「応援メッセージ」を寄せてもらいました。プラモデル作りが、大人と子どもの接点になればとの思いもありました。
審査は一般からの投票も合わせて進めます。
ここでも、一般・大人は1票1点ですが、参加した子どもたちには「1票10点」と、特別審査員である模型のプロたちと同じ持ち点が与えられました。
【拡散希望】#こどもプラモコンテスト 参加方法
— こどもプラモコンテスト (@KidsPlamo21) January 14, 2021
好きなプラモデルを楽しんで作る!
※過去作でもOK
↓
写真を撮る!
↓
保護者様は特設サイトで参加者登録を!
↓
特設サイトにログインして作品を投稿!
[詳しくはこちら]
→https://t.co/A3TBph9tdQ pic.twitter.com/y3u8O30otz
今年1月1日から作品の受け付けが始まり、14日までに集まったのは19作品。
原作とはまったく違う色に染める子、「かわいいから」とストーンやビーズでデコレーションする子、雪景色の中で作品を撮影した子。
「パパに教えてもらいながらあきらめずにがんばりました」「家族とリビングを囲み、作りました」「一つの工程が終わるたびに歓声を上げていました」と、親たちの視点からも子どもの成長がつづられていました。やりたいことを助ける親の手伝いも禁止されているわけではありません。
思い思いの作品が投稿される中、冒頭の声明文に至る、「心無い」言葉が投げかけられました。
「大人が作ったのを子どもの名前で出したんだろう」
この言葉に齋藤さんが即座に反応したのは、「同じ言葉を、私の息子も言われたことがあったからです」。
齋藤さんの長男が小学校4年生だった時、模型屋で開かれたコンテストに参加しました。その結果発表の会場で、長男は、自分の作品に「親が作ったものを出した」と文句を言った大人がいたことを知りました。
落ち込む長男に、模型店の店主は「それを言った人には、ちゃんと僕が言っておいたからね」と、反論したことを伝えてくれました。
齋藤さんは、悲しい気持ちになっていました。「大人向け」になってしまったプラモデルへのやるせなさも相まっていました。
「『子どもにできるわけない』という言葉で締め出して、子どもが入る場所がどんどんなくなったんちゃう。誰がこんな環境を作ったんだ」
あの日に息子を落ち込ませたものと同じ言葉を見つけたとき、齋藤さんが最初に考えたのは、コンテストに参加した子どもたちの気持ちでした。
「せっかく楽しんでいたのに、大人に言われた言葉に悲しんで、もし、もう楽しむことができなくなってしまったら、こんなにつらいことはない」
子どもたちに向けてのメッセージを出し、心無い投稿には、こうリプライしました。「あなたのその言葉が、子どもをどれだけ傷つけるのか、大人なら想像を働かせてください」
高価なツールを子どもが使うのは間違いという投稿には、「親から借りたのかもしれないし、今の世代的なこともある。間違っているというご指摘が間違っている可能性がある」と伝えたところ、相手はコメントを削除し、修正した投稿をしてくれました。
声明文には子ども向けのメッセージだけではなく、「一般の第三者の方へ」というメッセージも書きました。
「コンテストというイベントでございます以上、説明や反論につきましては、どうか当コンテスト専用Twitterアカウントにお任せいただきたく存じます」
SNSの世界でひんぱんに起こる、誰かのコメントをさらして当事者ではない人たちがたたき合う「正義感の暴走」が起こり得ると考えて、書いていたものでした。
今回はプラモデルが舞台になっただけで、齋藤さんは、どんな場面でも、心に深い傷を残す言葉に出会うことが、SNS上にはあると危惧しています。そして、誰でも「発信側」になってしまう可能性もあります。
「相手がどう思うかを考えずにポンと出してしまう。簡単に、削除できるから、自浄作用が効かなくなってしまっている。そんな世の中を作ったのは大人です。だから、ごめん、と言いたい」
でも、そんな世の中で、子どもたちに「だから、我慢してほしい」とは言いませんでした。
ネットの中でも、「悪口を言うおとなはほんのちょっと」。
「だから、少しずつでも変えられるかもしれない」。きちんと説明して、分かってもらうことから始めたいと言います。
「この子もこの子も、ええ顔してんなぁ、って思うんですよ」
19作品の投稿には、その作品を誇らしげに見せる子どもたちの笑顔が並んでいます。
主催者が「子どもが自分で作った」ことを確認するために、作品とともに投稿してもらっている写真です。公には発表しないものですが、「見せられないのが惜しいくらいの顔なんです。大人が作ったものを子どもの名前で出した? そういう作品ではないことは、この写真を見たら分かります」と齋藤さんは言います。
どの子の笑顔も、達成感にあふれて、「自分の作品や、これは」と、みんなに見てほしくてしょうがない――。
「みんなの、プラモデルを作ったり好きな色にするのが楽しいその気持ちと、作ったプラモデルをみんなにじまんする場所は、おじさんが必ず守るからな」
コンテストの応募は1月31日まで。多くの作品が寄せられることを願っていると言います。
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