連載
#49 ○○の世論
「首相が菅さんだから…」新内閣、歴代の中でも“高支持率”な理由
あの田中角栄政権に匹敵、女性にも人気
安倍首相の突然の辞任を受けて発足した菅義偉内閣。9月16、17日に朝日新聞が実施した世論調査で、65%という高支持率での船出となりました。発足直後の支持率としては、「今太閤」と呼ばれた田中角栄元首相や、第1次安倍政権に勝るとも劣らない水準です。調査から見えてくる新内閣への期待と課題を分析してみました。(朝日新聞記者・君島浩)
歴代内閣が発足してから最初の支持率を、半世紀前までさかのぼり、たどってみます。
調査方法が異なるので、単純な比較はできませんが、スタート時の支持率が6割を超える内閣は、多くありません。いわゆる55年体制下では、田中角栄内閣だけでした。
7割を超えるとなると、その55年体制を終わらせた細川護熙内閣、「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎内閣、政権交代を実現させた鳩山由紀夫内閣の3回だけです。
菅内閣は支持率が65%と高水準な上に、不支持率が13%と非常に低く、期待の大きさがうかがえます。
7年8カ月続いた第2次安倍政権の内閣支持率と比べてみます。
第2次安倍政権は、女性の支持率が低いのが特徴でした。計111回の調査の平均支持率は男性が49%に対し女性は39%。女性の支持率が男性の支持率を上回ることは1回もありませんでした。
これに対し、菅内閣の支持率は、男性の62%より、女性の68%の方が高く、特に40代、50代の女性の支持率は7割を超えました。
ただ、安倍内閣も第1次政権では、男性60%、女性65%と女性の方が高いスタートでした。菅内閣が今後、女性の高い支持をつなぎ止めることができるのか。注目点の一つです。
年代別では、安倍内閣は30代以下の若年層の支持が厚めだったのですが、菅内閣は各年代から6割を超える支持を得ているのも特徴です。
調査では、内閣を支持すると答えた人に、その理由も聞いています。
安倍内閣でも「他よりよさそう」がずっと最多でしたが、その割合は5割を超えることが多く、今年に入ってからは平均で56%でした。それに比べると、菅内閣の「他よりよさそう」41%は少なめです。
代わりに何が増えたかといえば、「首相が菅さんだから」の23%。安倍内閣で「首相が安倍さんだから」は、今年に入っての平均は10%でした。最近の安倍内閣と比べると、「首相」その人への評価が高いと言えます。
特に内閣を支持する女性の28%が「首相が菅さんだから」と答え、男性より高めでした。一方、男性の支持理由は「自民党中心の内閣だから」が女性より多い傾向が見られました。
菅首相は、新型コロナウイルス対策を政権の最優先課題に挙げています。そこで、次のような質問をしてみました。
「期待できる」が「期待できない」の3倍近くあります。男女別では、女性の方が男性より期待度が高い。「期待できる」と答えた人の内閣支持率は80%に達し、不支持率はわずか5%でした。これに対し、「期待できない」と答えた人の支持率は38%で、不支持率の37%と並びました。
新型コロナ対策をしっかりやってくれそうだ、という期待度の高さが、高支持率につながっているようです。裏返していうと、菅政権がコロナ対策で実績を上げられず、その期待が薄れると、内閣支持率は低下する可能性も示しています。
安倍前政権の「継承」を掲げる菅内閣は、アベノミクスも引き継ぐ姿勢を示しています。しかし、調査では、見直しを求める声の方が強くなっています。女性の方が「継承」に否定的で、50代の男性は50%が「続ける方がよい」と答えているのに対し、70歳以上の女性の「続ける方がよい」は24%にとどまりました。
安倍政権の「負の遺産」の解明について、特に女性の方が「進めるべきだ」と声を上げています。年代差があり、30代以下は「その必要はない」が49%で「進めるべきだ」を上回っていますが、60代では67%が、70歳以上では60%が「進めるべきだ」と答えています。
菅首相は、官房長官として安倍政権を支え続けたこともあって、これらの問題の解明に消極的ですが、国民の方はまだ忘れてはいません。
衆院の解散・総選挙について、自民党内には、「高支持率に便乗して、早く解散した方がいい」という声が上がっています。今年5~7月の安倍内閣の支持率がコロナ対応のつたなさもあって30%前後に低迷していたことを考えると勝機到来というわけです。
しかし、今回の世論調査で、年内解散を支持する声は圧倒的に少数でした。
内閣支持層も自民支持層も「今年中がよい」は15%しかいませんでした。菅首相自身が「コロナ問題を徹底して収束にもっていく」「専門家の先生の見方が『(感染が)完全に下火になってきた』とならなければ、(解散は)なかなか難しい」「収束したらすぐ(解散)するということでもない」などと話しており、首相のこうした言動も影響しているのかもしれません。
発足直後の内閣支持率は、よく「ご祝儀相場」(閣僚経験者)と言われます。「スタート時はだいたいどの政権でも高いが、すぐに急落するケースもたくさんある」(世耕弘成・自民党参院幹事長)ということです。
最も典型的なのは、2010年に発足した菅直人内閣です。直後の支持率は60%。その勢いで、1カ月後の参院選勝利をめざしましたが、消費税引き上げに言及したことが影響し、1カ月も経たずに39%に急落、民主党は参院選で敗北を喫しました。
世論は、首相の言動や政策には敏感に反応します。コロナ禍の中、「国民のために働く内閣」の一挙手一投足を国民が見つめています。いま高支持率だからと総選挙に打って出ても、その皮算用がどうなるかは、見通せません。
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