IT・科学
「止まらなければけっこう進む」今もいきる「はやぶさ」のことば
コロナで始まった大学生活も前向きに
大学1年生の篠﨑日和さん(20)は探査機「はやぶさ」に夢中になった一人だ。コロナ禍の中で登校できない日々にも勇気づけられるのは、「はやぶさ」研究者のことばだという。「ゆっくりでも止まらなければけっこう進む」。受験でたいへんだった時も、せっかく合格した大学に行けない今も、前向きな気持ちにしてくれる。そんなことばに出会ったのは、中学生の時だった。
小学生の時、当時話題になっていた探査機「はやぶさ」の映画を見て、こんなに面白い世界があるのかと夢中になった。中学生になり、はやぶさのエンジン開発に携わった国中均教授の講演会を両親がみつけてくれた時は大喜びで、父と聴きに行った。
もともと父の影響で科学好き。「はやぶさ」については、他の映画や小説も読んでいたけれど、第一線の研究者による講演は、中学生にとっては難しいことばも多かった。
半分も理解できなかった話の最後、スクリーンに大きく映し出されたのは「ゆっくりでも止まらなければけっこう進む」ということばだった。小さなことの積み重ねで高みを目指せるのは「はやぶさだけじゃありません」。講演者のことばが心に残った。
高校受験の時や大学受験の時、つらいことがあって何かをあきらめそうになった時、このことばを思い出した。「はやぶさもあんなに頑張ったんだから」。そう思うと、前向きになれた。
2019年2月、探査機「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへの着陸は実況ツイートで見守った。着陸が成功し喜んでいると、ニュース映像などで、歓声が沸き上がるJAXAの管制室で、スタッフの一人が「初号機とは違うのだよ、初号機とは!」と書かれた紙をカメラに向ける姿が目に入った。
トラブルや故障がありながら、やっと地球に帰還した初代「はやぶさ」に対して、その失敗を糧に改良し、計画通りにミッションを成功させた「はやぶさ2」。「止まらなければけっこう進む」。もともと、あきらめないという意味で勇気づけられていたことばに、失敗の経験もそこで終わらせず前へ進めば、次にいかせるという意味まで加わった。
実は、はやぶさのようにやるべきことにまっすぐ突き進むタイプではない。天文、科学、文学、美術…興味のあることがありすぎて、高校では部活を5つも掛け持ちした。ひとつを極められない自分に、少しずつ積み重ねる大切さを説くことばは時に戒めのようにも響く。
でも、反省はしても後悔はない。どの経験も今につながっている。今年、まだ3日しか登校していないけれど、コロナ禍の中で大学生になった。「ゆっくりでも止まらなければけっこう進む」。きっとこれからもこの言葉に支えられる。
2018年、篠﨑日和さんは「ゆっくりでも止まらなければけっこう進む」ということばとそのエピソードを作文にし「私の折々のことばコンテスト」で朝日新聞社賞を受賞しました。2020年も、中高生を対象に同コンテストを開催します。心に響いたことばとそれにまつわるエピソードを教えてください。詳細は応募ページ(https://www.asahi.com/event/kotoba/)をご覧ください。
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