ネットの話題
電気機関車になったスズキ・アルト プロ仕込み魔改造でATS音完コピ
すべては「アルトに乗ってATSの音を聞きたい」から始まった
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すべては「アルトに乗ってATSの音を聞きたい」から始まった
軽乗用車のスズキ・アルトを電気機関車みたいにしてしまった猛者がいます。発車の“儀式”を体験できるように、本物のATS鳴動部品とプロ仕様の回路図でカスタム。その鉄道愛に迫りました。(北林慎也)
5月7日、アルタラボさん(@ALTALaboratory)がツイッターに投稿した動画が話題になっています。
スズキ・アルトの運転席に座り、エンジンを始動して発進させるだけの映像。
なのに、その一連の動作と音が、なぜか電車です。
もっと電車ごっこできる車になりました。 pic.twitter.com/HeRQ8eTnbW
— アルタラボ (@ALTALaboratory) May 7, 2020
シートベルトを締めると、まずは警笛。
さらに、指さし確認しながらスイッチ動作を繰り返し、装置の作動音やチャイムが鳴り響きます。
そして最後に、ATシフトレバーをDレンジに入れてブレーキペダルから足を離すと、「プシュー」という空気ブレーキ排気音とともに、クルマが動き出します。
目を閉じて音だけ聞いていると、本当に電車です。
途中で流れる「ETCカードが挿入されていません」というご愛敬の自動音声だけが、この乗り物がクルマだったと思い起こさせます。
この動画投稿には、1.3万以上の「いいね」が寄せられています。
アルタラボさんに、コンセプトと制作にまつわるエピソードを聞きました。
現在22歳のアルタラボさんは、3歳の頃からの鉄道ファン。
工業高校の電気科を卒業後、鉄道会社の電気部門(信号機や踏切、列車に対する安全装置の保守業務)に就職しました。
「鉄道以外の現場でも経験を積みたい」と、今は電気通信工事関係の会社に勤めています。
そんなアルタラボさんの愛車は、2016年から乗るスズキ・アルト。
近所の中古車店にあった、下から2番目に低いグレードの新古車でした。
アシグルマとして割り切って買ったそうです。
このベーシックでプレーンな軽乗用車に乗りながら、ある考えが頭をよぎります。
「アルトに乗りながら、ATS(自動列車停止装置)の音を聞きたい」
群馬県安中市にある鉄道テーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」で、EF63型電気機関車の運転体験に夢中というアルタラボさん。
特に、ATSの独特の動作音に強く惹かれたといいます。
アルタラボさんは、「運転体験を数十回と重ねるごとに、『この音をもっと身近に、実働的に聞きたい』と思うようになります」。
「そして、ただ机の上で鳴らすだけではつまらないと感じ、『そうだ、アルトに積んでしまおう』と思いつきました」
2018年6月ごろに構想が固まり、制作に着手。最初の装置「ALTA-1」を作りました。
「ALTA」とは、アルタラボさんが手がける、表示灯をつけたりベルを鳴らしたりする一連の装置の呼び名。
「アルト用アラーム」の略だそうです。
より本物に近づけるべく改良を重ね、現在は3代目となる「ALTA-3」。
カーオーディオの2DINスペースにユニット本体となる筐体を埋め込み、これを介して車体側の信号と照明や鳴動部品を連動させることで、シフト位置やフットブレーキに合わせて電車風のギミックが作動する仕組みになっています。
これまでの制作にかかった費用は20万円ほど。
ネットオークションで実車廃品を探しては落札して、アルトに組み込んでいきました。
たとえば、「ジリリリリ……」と鳴るベルは1万円、「キンコンキンコン」と鳴るチャイムは2万円、「チーン」と鳴る現示ベルは1万円だそうです。
このほか、ブレーキ同期エアギミックは電気機関車の甲高い音を再現するべく、100円ショップで購入したリコーダーを組み込むなど、DIYで工夫します。
えぇぇぇえwww
— アルタラボ (@ALTALaboratory) May 9, 2020
聞いて下さいよこれ
なんか割とできちゃった感あるんですけど
「ブレーキ同期エアギミック」の「エア再現装置試作器1号」完成しちゃったかも
製作時間15分
製作費500円 pic.twitter.com/ZRgmvgJjW1
買い集めた部品を、ただ据え付けるだけでは“電車化”は完成しません。
あたかも電車かのように、車体の挙動に合わせた絶妙のタイミングで音を鳴らすには、車体の信号と鳴動部品を介する精緻な電子回路が必要です。
そこで、鉄道会社で信号機などの回路図を学んだアルタラボさんが、自ら図面を引いています。
難渋しながらも、実際に鉄道の信号関連で使われているものと同じ書き方にこだわります。
鉄道信号の回路に対する自らの理解度を試すためだといいます。
「ALTA-3」を組み込んだ、世界に1台の“電車”アルト。
自身のお気に入りポイントは「やはり、装置を起動した瞬間のわちゃわちゃ感」。
信号待ちで、自分の思い描いた通りのタイミングで装置が作動して音が鳴るのも、大きな楽しみだそうです。
走行中、ALTAの各表示灯にご注目
— アルタラボ (@ALTALaboratory) March 4, 2020
停止すると[信号]表示灯が青から赤へ、動き出すと青へ。
ノッチ表示灯もブレーキを離し前進すると一定時間点灯します
これらの制御は故障・事故誘発の危険を考慮して、磁気スイッチなどによりアナログな検知を行っており車既設のシステムには一切干渉していません pic.twitter.com/RpT5Jxe6J0
ただ、ギミック満載の内装とは対照的に、外観はあえてノーマル然としたままです。
もともとクルマ自体には興味がありませんでしたが、アルトの可愛らしいスタイリングに、次第に愛着が湧くようになったそうです。
そのため、元のフォルムの良さを壊さないよう、外装のカスタムはホイール交換など、落ち着いたものにとどめています。
この先、「ALTA-3」はどう進化するのか?
最後に、アルタラボさんの構想を聞きました。
「今は、鉄道車両の動きを再現したギミックの域を出ないものになっていますが、今後は本当の意味での安全装置、たとえば、赤信号の検知や速度照査をして警告を発する機能などを付加して動かしたいなぁと漠然と考えています」
ALTA-3は安全保安器としても作用します。
— アルタラボ (@ALTALaboratory) March 21, 2020
例えばサイドブレーキがかかった状態でDレンジに入れたり
サイドブレーキのかかってない状態でNレンジに入れフットブレーキを離すと動力異常の表示、警報が鳴ります
たまにニュートラルにしたのを忘れてそのまま発車しようとした時とか役に立ちます pic.twitter.com/4py4poeRAH
「あとは、アルト自体を電気自動車化して、本当の『電車』になるのもアリかなぁ?と思ったりしています(笑)」
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