地元
お雑煮の餅は「丸か角か」3500人調査で見えた「中西みそベルト」地帯
お雑煮の餅は、東日本と西日本で形が違います。その境界線はどこにあるのでしょう。3500人に聞いた大調査で見えたのは「みそベルト地帯」の存在でした。三重や岐阜のお雑煮が伝える東西の文化の交差点。そして、取材の過程でわかった、他県から「まったく理解されない」という奈良のお雑煮にまつわる発見。果たして「東西お雑煮問題」は決着するのか!?
日本鏡餅組合によると、お雑煮の餅には角餅と丸餅の2種類あり、大まかに東日本は角餅、西日本は丸餅の文化です。
組合が作った餅の分布図を見ると、その境界は岐阜と三重あたりにあることがわかります。
2011年度、三重県でお雑煮の大規模調査がありました。県立博物館(当時)が、県内の小学校3、4年生に自宅のお雑煮を調べてもらったのです。約3500人から回答があり、地域の特色が顕著に出ました。
大きくわけると角餅と丸餅、すまし汁とみそ汁など、地域によって味付けと餅の形が全く違いました。四日市市などの三重県北部は、角餅ですまし汁が多くを占め、名古屋と同じようなお雑煮です。
県中部になると、みそ仕立ての割合が高くなります。特に中西部でみそのお雑煮を食べる人が多くいました。
「中西みそベルトです」と、調査に関わった県総合博物館の学芸員宇河雅之さん。みそベルトの東端の方には伊勢神宮があり、「人の行き来がみその広がりと関係があるかもしれません」とも話します。
みそベルトの西端、伊賀市と名張市で、最も多くの人が選んだのは丸餅。伊賀と名張は、京都と奈良に接しています。
名張市で丸餅は8割を超えたのに対し、西へ移った旧津市では角餅が8割を超えました。どうやらこの辺りが境界線と言えそうです。
岐阜ではどこに境界線があるのでしょうか。滋賀県との県境にある関ケ原でもお雑煮調査がありました。関ケ原町歴史民俗資料館と、滋賀県米原市の県境にある伊吹山文化資料館、柏原宿歴史館の3館が2015年に行ったアンケート調査です。
関ケ原から県境を越えてすぐ、米原市の長久寺地区では、角餅が8割ですまし汁が約9割。
ところが長久寺から車で15分ほど離れた藤川地区では丸餅が9割近くに上り、白みそ仕立てに変わりました。伊吹山文化資料館の担当者によると、長久寺地区は中山道沿いにあり、喫茶店も多いなど岐阜の文化が根付いているそう。
どうやらこちらは、滋賀側に境界線がありそうです。
岐阜県側の関ケ原町の県境に近い2地区では、どちらも角餅が8割を超え、丸餅は2割弱。県境から離れた中心部の関ケ原地区は調査の対象ではありませんでしたが、関ケ原町歴史民俗資料館の飯沼暢康館長は、「関ケ原地区では角餅の比率はもっと高くなるのでは」と話します。
東西の分岐点として取り上げられることの多い関ケ原付近は、お雑煮の餅の形でも境界地となっていました。
奈良市出身の私のお雑煮は、みそ仕立てで丸餅。「中西みそベルト」の特徴と一致します。そしてお雑煮に入っていた餅を一度取り出し、きな粉につけて食べます。この食べ方を県外の人に説明すると、「おいしくなさそう」と、まったく理解されません。
キワモノ扱いされる奈良のお雑煮ですが、三重の調査では県西部にも同じ食べ方をする地域のあることがわかり、うれしい発見です。そういえば母は奈良の山間部出身で、名張に近いことを思い出しました。お雑煮をたどると、気づかなかった自分のルーツを知ることができるかもしれません。
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