連載
#33 #父親のモヤモヤ
「パパはッ、圧倒的に役に立たない」赤ちゃん視点で描くイクメン漫画
「現時点においてパパはッ、圧倒的に役に立たない」。まだ赤ちゃんの我が子から、父親が叱咤激励される漫画「イクメンとは。」
連載
#33 #父親のモヤモヤ
「現時点においてパパはッ、圧倒的に役に立たない」。まだ赤ちゃんの我が子から、父親が叱咤激励される漫画「イクメンとは。」
夜、すやすやと眠る赤ちゃんを前に、正座をしている夫婦。緊張のまなざしで、わが子を見つめています。
すると突然、部屋の中に赤ちゃんの幻影が現れ一言、「明日のオーダーを発表する」。翌日の育児や家事の分担が、赤ちゃんからの「指令」として言い渡されます。
母親が授乳やオムツ替え、お風呂、寝かしつけを任された一方、父親は「朝のゴミ出し、以上!」。
「おれ、もっとできますッ…!」と抗議する父親を制止し、赤ちゃんは「現時点においてパパはッ、圧倒的に役に立たない」と言い切ります。
無力感に打ちひしがれる父親……振り返れば、仕事の忙しさで育児も妻に任せっきりでした。そんな父親に、赤ちゃんは野球に例えて語り掛けます。
「しかし悲観することはない ただ忘れないで欲しい ファンやオーナーではなく、同じグラウンドに立っているチームメイトだということをッ!」
マウンドに立つのは、追い詰められた表情の母親。「一人じゃないぞおーッ! 気負うなーっ」。飛び込んできたのは、外野で声を張る父親の姿。肩の力が抜けた母親は「そっち飛んでったら頼んだぞっ!」と言って投球するのでした。
漫画では「育児するメンバー」を略して、「イクメン」であると締めくくられています。
「妻のように家事や育児ができないという、無力感はすごく持っていました」
作者のいぬパパさんは、中学生の娘と小学生の息子の父親です。漫画には、自身の経験も盛り込まれていました。
娘が生まれた頃、いぬパパさんは20代半ば。仕事の要領がつかめないなか、業務も忙しく、「切り上げて帰るタイミングもわからなかった」と振り返ります。家事や育児を担っていたのは、妻でした。
「仕事から帰ってきた時、娘は朝と同じ姿勢で寝ているんですよね。平日に起きている姿を見られるのは、夜泣きのときくらい。それで妻があやしている時も、自分は何をしたらいいのかわからなくて、むしろ妻をイライラさせてしまうこともありました」
平日はほとんど家事はできませんでしたが、休日には食事を作って皿洗いするなど、できることを続けてきたといういぬパパさん。
しかし、当時専業主婦だった妻と比べると、家事や育児に使える時間は多くありません。どうしても妻から指示を受ける構図になり、応えようとするも、妻のようにはうまくできない、という繰り返しになっていました。
妻との育児へのスタンスの違いに戸惑うことも。求められるように完璧にこなせないことで、さらに無力感もつのります。
そんな生活を過ごして、わかってきたことがあります。「偉そうなことは言えないのですが」と前置きをしつつも、「できないなりに、妻のモチベーションを下げないということが大切かなとは思っていて……」。
「すべて出来るのであれば完璧ですが、物理的・時間的にはできないことはどうしてもあります。だから妻がやることには、気持ちよくやってもらえるようにしたいんです」
妻に対して文句は言わない、怒られたことはしないのはもちろんのこと、できることはなくても、一緒にいるということを意識したといいます。少しずつ、妻がイライラするポイントを減らしていきました。あえて「自分はサポートなのだ」と認識し、無力感に折り合いをつけることで、前向きに考えられたといいます。
そんな経験が、漫画にも表れています。自分は「役に立たない」と言い切り、「それでもアナタがいる意味があるハズ」とつなげます。
「誰かに対して『役に立たない』と言いたい訳じゃなくて、自分にとって言い切れるのは『役に立たない』ということくらいです。そこから、ポジティブに考えていけたらいいなと思って描きました」
「妻に比べたら、自分が出来ているのは『手伝い』でしかない」といういぬパパさん。「子育てする女性には『イクメン』のような呼び方はしないですし、ことさらにアピールすることでもないと思うんです。子育てには、母も父も同じ立場でないといけないというのが、目指す未来の姿なのだと思いました」
そんな思いから、「イクメン」を「育児するメンバー」と言い換える作品を描きました。一方で、漫画に盛り切れない思いもあったといいます。作品では夫婦のケースでしたが、いぬパパさんは「いろんなチームの形がある」と話します。
「ひとり親だったり、祖父や祖母がチームメイトだったりする場合もあります。主力選手がひっぱるスタイルもあれば、きっと弱い選手が連携するチームもありますよね。これがベストというものはなくて、それぞれがメンバーであると思えることが重要なのだと思っています」
記事に関する感想をお寄せください。母親を子育ての主体とみなす「母性神話」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。こうした「母性神話」は根強く残っていますが、「出産と母乳での授乳以外は父親もできる」といった考え方も、少しずつ広まってきました。みなさんはどう思いますか?
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
1/63枚