連載
#29 #父親のモヤモヤ
たまひよ26周年、変化する家族像 ママから主語が「ママパパ」に
妊娠出産、育児の情報誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」(ベネッセコーポレーション)は1993年に創刊され、今年26周年を迎えました。編集現場からみた父親像の変化などを、「ひよこクラブ」編集長の柏原杏子さん、前編集長でエキスパートエディターの仲村教子さんに聞きました。(朝日新聞記者・武田耕太)
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
--男性の読者はどれだけ想定されているのでしょうか?
仲村:以前から、ママもパパも一緒に読むものと考えてきましたが、積極的に育児をする男性が増えるなか、パパも一緒に読むものという意識は創刊当時より強くなってきていると思います。
--そのように変化していった背景には、どんなことがあるのでしょうか?
仲村:(1999年、当時の厚生省が発表したコピー「育児をしない男を、父とは呼ばない。」を用いた)ダンサーのSAMさんのポスターから始まり、「イクメン」が新語・流行語大賞のトップテンに入るなど、読者の意識も変わってきたと思います。
誌面に登場するための撮影協力をお願いすると、パパが一緒にいらっしゃる例も増えてきました。ひよこクラブは読者モデルが基本ですが、モデル登録についても男性からというケースもあります。
柏原:2007年の入社から最近まで、(主に妊娠出産を扱う)「たまごクラブ」の編集に携わりました。産婦人科の取材に行くことが多かったのですが、この10年ですごく変わったことに、妊婦健診に同行する男性が増えたこと、立ち会い出産が増えたことがあげられると思います。
そこにかかわる男性が増えるということは、その後の(主に育児を取り扱う)「ひよこクラブ」を読んでみようかな、という気持ちになる男性も増えるのかな、と思います。
そういった形で、パパを意識した企画とか、パパへのアプローチの仕方をより強化していった感じはありますね。出産前から、パパの気持ちをつくっていくという動きが、ここ10年ぐらいで徐々に出てきたという気がしています。
--そうした時代の変化は、雑誌の内容にどのように反映されるのでしょうか?
柏原:男性の読者モデルが女性と一緒に多く出るようになり、パパが「手伝いに来ている」というよりは、「一緒にやっていきましょう」という感じのビジュアルづくりになってきたと思います。
仲村:ビジュアルとともに、文脈も「ママがこうしよう」というものから、「ママパパが……」というふうに変えています。
柏原:「ママ」という主語ばかりになると、逆に「パパはどこにいるのか?」という指摘を読者から受けることもあります。
--主語が「パパ」「ママ」と「2人」になるなかで、読者や社会に対して発信するメッセージとして意識していることはありますか?
柏原:26周年を11月号で迎えましたが、「チーム出産育児」という言葉をキーワードのひとつとして掲げています。
パパでもママでも1人で家事や育児を抱えこんでしまい、精神的にも体力的にもギリギリになるということがないように、それぞれのパートナーだったり、親だったり、お友達であったり、サービスやグッズなどを、自分にあわせて取り込んでいって、負担を減らし、なるべく気持ちよく育児をしていきましょうね、というメッセージです。
もちろんみんなが育休を十分にとれるようになって、育児参加がたくさんできるようになって、というのが理想ですけれども、家庭によって状況も異なります。
足りないものは何か、補ってくれるものは何か、それを自分のなかで探していき、見つけていってはどうですか? そのチームのなかのひとつに「ひよこクラブ」も入れてね、ということをお伝えしたいと思っています。
--雑誌の変遷を対象とした調査研究のなかでは、「母親の育児には『こうあるべきだ!ということはない』と呼びかけているのに対し、父親の育児については『~すべきだ』といった表現が頻繁にされることも一つの特徴」という指摘がされました。
仲村:つくる側としては、とくにそういう意識はありません。
毎号、パパの特集をできるわけではありません。そのなかで、特集を組む際に、シンプルにまとめて伝えようとして、そうした表現になっている時期もあったかもしれません。
また、ママが家事育児で追い詰められているという現状はあり、その人たちをさらに追い詰める必要はない、というところで、「頑張りすぎなくていい」というメッセージがあります。
多様化が進み、ママのロールモデルも出すことも難しいなか、パパのほうの多様性を出すところにまでは至っていない、ということもあります。
--「イクメン」という言葉について、どのようにとらえていますか。
柏原:読者のマインドとしては、あまり好かれていないという認識はあります。言葉が先行し、ファッション化してしまったところに、抵抗感を抱く人はいると思います。
仲村:やっているパパは「わざわざ(イクメンと)言われなくても」と言いますよね。いまの30代の世代などは「(家事育児するのが)当たり前じゃないか」という感覚かもしれません。
--記事のなかであえて「イクメン」という言葉を使わないようにしている、というのはありますか?
柏原:あまり使わないようにしているかもしれないですね。
--男性に対しては、今後、どんなメッセージを出していきますか?
柏原:妻が求めていることと、夫がやっていることの「ズレ」が、2人の間の溝を生んでいる、ということが、読者アンケートなどからも見えてきています。
そこを知ってもらったうえで、妻にも赤ちゃんにも、いまも、そして未来も支持されるパパになりませんか? というメッセージを提案し、企画を今後、つくっていこうと思っています。
パパの頑張りに寄り添いつつ、何か改善できることはないかというのを一緒に考えていき、結果、みんなが幸せになるような記事をつくりたいと考えています。
仲村:なにをもって「育児をする」というのかは、家庭それぞれにある、と考えています。おむつを3回変えたから「イクメン」ではないし、パパが赤ちゃんのことを考えて行動したら、それは何らかの形で、そのファミリーのなかで「育児」をしていることになると思っています。「たまひよ」(「たまごクラブ」と「ひよこクラブ」)としてはそこまで広くとらえます。
「上手にお世話できる人」だから「育児をしている人」ではないと思います。育児には、お世話の仕方もあるし、ママの支え方もある。家族の形が多様化するなか、具体例から精神論まで含めて育児について発信していきたいと思います。
記事に関する感想をお寄せください。母親を子育ての主体とみなす「母性神話」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。こうした「母性神話」は根強く残っていますが、「出産と母乳での授乳以外は父親もできる」といった考え方も、少しずつ広まってきました。みなさんはどう思いますか?
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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