連載
#38 夜廻り猫
37年勤めて送別会すら開かれなかった……夜廻り猫が描く嫌われ者
「定年のあの人、送別会やらなくて本当にいいかな?」「いいよ 嫌なやつだから」。給湯室でのそんな会話を聞いてしまった男性は――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「嫌われ者」を描きました。
会社の給湯室でお茶の準備をしている事務員たち。ひとりが「定年の山田さん、歓送会やらなくて本当にいいかなぁ?」と尋ねます。
「いいよ、あの人は直接の部下いないし、みんな逃げちゃうから」「あれだけ嫌なやつも珍しいよね」
本人が、その会話を耳にしてしまいます。きょうも夜周り中の猫の遠藤平蔵は、その涙の匂いに気づき、「おまいさん泣いておるな? 心で いかがなさった」と尋ねます。
「37年貢献しても、仕事なんて何も残らん」「妻とは会話もない、息子は十年も帰ってこない 友達づきあいもない」
遠藤は男性をなぐさめようと、「大丈夫」と声をかけながら近寄ろうとしましたが、「あ!野良猫、上がるな!ノミが落ちる!」と怒鳴られます。
それを見た男性の飼い猫が代わりに謝ります。「悪いね、うちの飼い主こういうやつで」
遠藤が「おまいさんは嫌っていない?」と語りかけると、猫は「これでもいいとこあるんだぜ 焼き鳥1串くれるんだ」とほほえむのでした。
作者の深谷さんは「時々、自分を『嫌なやつだな』『駄目なやつだな』と思います」と話します。
「そんな時でも猫は膝に乗りにきてくれたりして、たとえ私が全人類に嫌われるような人間でも、猫は嫌わないでくれるんだな……食べ物をやりさえすれば……(笑)としみじみ有り難いんです」と笑います。
焼き鳥の1本を分け与える。そんな「優しさ」があれば、人間にとって「嫌われ者」でも、「動物はなついてくれます。それは、私には支えで救いなのです」。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が11月22日に発売予定。
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