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#22 #となりの外国人

外国人が驚く「日本の暑さ」のしのぎ方 熱中症対策「三つの情報」

連日続く、真夏の猛暑。熱中症対策が広く呼びかけられています。日本を訪れる外国人にとっても、決して他人事ではありません。もし、目の前で発症してしまったら? 適切に対処する方法について考えます。(画像はイメージ)
連日続く、真夏の猛暑。熱中症対策が広く呼びかけられています。日本を訪れる外国人にとっても、決して他人事ではありません。もし、目の前で発症してしまったら? 適切に対処する方法について考えます。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

目次

日本を訪れる外国人が驚くことの一つが「真夏の暑さ」です。40度近くまで上がったと思えば、クーラーが効いた電車内は、冷蔵庫のような冷たさ。この過酷な環境を、あの手この手でしのいでいます。それでも心配なのが熱中症です。もし身近な場所で、外国人が発症してしまったら? 言葉の壁を超え、慌てず対応するために必要な、「三つの情報」についてお伝えします。(withnews編集部・神戸郁人、章蓉)

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「クーラーなしの生活は考えにくい」

夏場は日差しだけでなく、強い湿気も、体調を崩す原因となる。日本に住む外国人の中には、こうした環境に慣れず、過ごしにくさを感じている人も少なくない。(画像はイメージ)
夏場は日差しだけでなく、強い湿気も、体調を崩す原因となる。日本に住む外国人の中には、こうした環境に慣れず、過ごしにくさを感じている人も少なくない。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

季節は、まさに夏真っ盛り。各地で連日、最高気温を更新しそうなほどの猛暑が続いています。外国人たちは、どう捉えているのでしょうか?

「クーラーなしの生活は考えにくいですね」。そう語るのは、中国出身の張華峰さん(47)です。初来日から通算13年を数え、現在は会社員として働いています。

母国の気候は、比較的からっとしているため、木陰に入ると涼しく感じられるそう。一方、日本は蒸し暑いため汗が乾きにくく、肌がべたついてしまうといいます。

最も悩ましいのは、室内外の気温差です。「通勤に使う満員電車では、冷風が体に当たり続け、首や肩が痛くなりますね」。周りに人が多く動けないことから、張さんは風を防ぐため、薄めのショールを持ち歩いています。

エアコンの効いた満員電車では、風が冷たいと感じたとしても、身動きが取りづらい。対策として、張さんは薄手のショールを持参している。(画像はイメージ)
エアコンの効いた満員電車では、風が冷たいと感じたとしても、身動きが取りづらい。対策として、張さんは薄手のショールを持参している。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

ウクライナ出身で、来日3年目の大学院生カテリナ・カシヤネンコさん(26)も、夏場の過ごしづらさを感じている一人です。

古里の同国南部では、気温が40度前後になる日はあるものの、「昼間は窓のブラインドを閉めるなどすれば、十分涼しい。実家にエアコンはありません」。

熱中症対策としては、ルイボスティーや麦茶を飲んでいるそうです。先に登場した張さんも、こまめに果物を食べたり、漢方薬を服用したりして、予防に努めているとのこと。それぞれのやり方で、酷暑を乗り切ろうとしています。

熱中症の基礎知識をおさらい

熱中症になってしまった場合は、水分補給などの応急処置が重要となる。主な症状と対応について、以下にまとめてみた。(画像はイメージ)
熱中症になってしまった場合は、水分補給などの応急処置が重要となる。主な症状と対応について、以下にまとめてみた。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

そこまで対策を尽くしても、突然発症してしまうのが、熱中症の恐ろしさです。一方で、その特徴を詳しく知らない、という人もいるかもしれません。

日本気象協会(東京都豊島区)が運営する「熱中症ゼロへ」プロジェクトのウェブサイトでは、次のように定義されています。

高温多湿な環境に、私たちの身体が適応できないことで生じるさまざまな症状の総称です。
日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトのウェブサイト

代表的な症状としては、7項目が挙げられます。

(1)めまいや顔のほてり:立ちくらみや、一時的な失神が起こる

(2)筋肉痛や筋肉のけいれん:手足の筋肉がつる「こむら返り」などがみられる

(3)身体のだるさや吐き気:ぐったりしたり、吐き気をもよおしたりする

(4)汗のかき方がおかしい:止めどなく汗が出る、逆に汗を全くかかないなど

(5)体温が高い、皮膚の異常:皮膚が熱かったり、表面が赤く乾いたりする

(6)呼びかけに反応しない:声かけに答えない、まっすぐ歩けないなど

(7)水分補給ができない:自分で上手に水が飲めない
日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトのウェブサイト

このうち(1)は、早い段階で表れます。原因は、体内の熱を逃がすため、皮膚の血管が広がり、脳へ向かう血流が減ること。炎天下や暑い室内で、長時間働いたり、スポーツをしたりすると起こりやすくなるため、熱中症かどうかの判断に役立ちます。

顔のほてり、めまいなど、熱中症の初期症状を解説したイラスト。
顔のほてり、めまいなど、熱中症の初期症状を解説したイラスト。 出典: 日本気象協会提供
熱中症の主な症状の一つ、「熱けいれん」の解説イラスト。手足の筋肉がこわばり、動かしづらくなる。
熱中症の主な症状の一つ、「熱けいれん」の解説イラスト。手足の筋肉がこわばり、動かしづらくなる。 出典: 日本気象協会提供

発症してしまった場合、どう応急処置すればいいのでしょう? 同協会は、次のような方法をすすめています。

・涼しい場所へ移動する:クーラーの効いた室内や、風通しのよい日陰に移る

・体を冷やす:衣服をゆるめたり、保冷剤などで首筋やわきの下、足の付け根を冷やしたりする

・水分を補給する:水や、スポーツドリンクといった塩分、糖分を含む飲料を飲む
日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトのウェブサイト

水分がとれない・意識がないなど重症の場合、協会は「すぐに医療機関を受診しましょう」と呼びかけています。

救急搬送されるケースも

熱中症による搬送人数は、増加傾向にあります。たとえば、東京消防庁のまとめによると、2013年時点では5087人が、医療機関に運ばれました。18年になると、約1.6倍の8295人にまで増えています。

同じ期間でみると、発症後、医療機関に運ばれた外国人旅行者・滞在者などの人数も、5人から10人に増加。日本人と比べれば、数こそ少ないですが、外国人への対応の必要性は高まっている、と言えそうです。

東京都内における、暦年の熱中症による搬送者数を示したグラフ。外国人が運ばれるケースを含め、全体的に増加傾向だ。
東京都内における、暦年の熱中症による搬送者数を示したグラフ。外国人が運ばれるケースを含め、全体的に増加傾向だ。 出典: 東京消防庁提供

実際、熱中症になったという外国人は、少なくありません。日本気象協会が16年、6~9月に国内で暮らしたことがある、海外出身者200人に対し行った調査には、約76%が「経験あり」と答えています。

表れた症状について尋ねる項目では、「体のだるさや吐き気」「めまいや顔のほてり」「体温が高い、皮膚の異常」などが上位を占めました。訪日観光客や技能実習生の受け入れが進んでいる昨今。夏場の暑さ対策は、外国人にとっても不可欠となっているのです。

外国人を対象に、「熱中症で経験したことのある症状」を聞いたアンケートの結果。「体のだるさや吐き気」「めまいや顔のほてり」「体温が高い、皮膚の異常」などが上位を占めた。
外国人を対象に、「熱中症で経験したことのある症状」を聞いたアンケートの結果。「体のだるさや吐き気」「めまいや顔のほてり」「体温が高い、皮膚の異常」などが上位を占めた。 出典: 日本気象協会提供

日本人と外国人、関わり方は同じ

もはや、日本人だけの問題ではない熱中症。目の前で、外国人が発症することもあり得ます。そんなとき、落ち着いて対応する方法について、日本気象協会の「熱中症ゼロへ」プロジェクトリーダー・曽根美幸さんに聞きました。

 

曽根さん

熱中症は、英語で”heat stroke” “heat illness”などと表現します。 声をかける際に使うのがよいでしょう。

 

曽根さん

そして、「熱中症」という概念がない国から来ている外国人も少なくありません。コミュニケーションを取る上で、次の三つの情報を心得ておくと、言葉が伝わらなくても手助けしやすいと思います。
(1)熱中症の主な症状:顔のほてり、皮膚の温度といった、一目見て分かるもの

(2)なりやすい環境:気温や湿度が高く、風が弱い場所(=体内の熱を逃しにくい)

(3)応急処置の方法:首筋などの太い血管を冷やす、涼しい場所へ移動させる、など

 

曽根さん

発症者を見つけたら、まず意識の有無や、水が飲めるかについて確認してください。ショッピングモールなど、人通りが多い場所にいる場合、スタッフや周りの利用客と一緒に行うと安心です。もし症状が重ければ、すぐ医療機関に連絡しましょう。

 

曽根さん

長距離バスなどでの移動中に、症状が出てくるケースもあるかもしれません。うちわであおいだり、冷たいペットボトルを肌に当てたりすると、体を冷やせます。このとき、水分が排出されにくい、ノンカフェインの飲料を飲んでもらってください。
熱中症の予防法一覧。適度に休んだり、水分をとったりすることが、暑さから体を守る方法だ。
熱中症の予防法一覧。適度に休んだり、水分をとったりすることが、暑さから体を守る方法だ。 出典: 日本気象協会提供

 

曽根さん

言葉や文化の違いはあっても、「外国人だから」と身構える必要はありません。日本人に接するときと、方法は同じです。ぜひ、積極的に助け合って頂けたらと思います。

「まさかの事態」に備えるためのお役立ちサイト

熱中症について、より深く知るためのウェブサイトには、以下のようなものがあります。外国人が使えるものも含まれています。

埼玉県のホームページには、日本語に慣れていない人でも分かりやすい「やさしい日本語」で書かれた、熱中症の概要解説があります。身近に、来日して間もない海外出身者がいたら、紹介してみてください。英語・中国語など、計6カ国語で読めます。
日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトのホームページでも、熱中症の予防法などについて、英語・日本語で解説されています。日本語版では、子ども・高齢者など、対象別・シーン別の対策がまとまっています。
また、多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」は、外国人とのコミュニケーションに役立ちます。中国語の簡体字・繁体字など、世界31言語を細かく識別、翻訳が可能です(音声入力可能なのは18言語)。
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  ◇ ◇

もうすぐ防災の日(9月1日)。withnewsでは日本で暮らす身近な「となりの外国人」に対して、いざというときに伝わりやすい「やさしい日本語」を考えるトークイベントを行います。Twitter Japan社と共催し、伝わる日本語を拡散させていきます。ぜひお立ち寄りください。後日、詳細な告知文を公開します。

・8月30日(金)昼12~13時
・場所:東京都中央区京橋3丁目1-1 東京スクエアガーデン前
・登壇者:スウェーデン出身で日本在住の漫画家 オーサ・イェークストロムさん、一橋大学・庵功雄教授

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