連載
#29 #withyouインタビュー
凛として時雨・ピエール中野さん、27万フォロワーと続ける人生相談
ピエール中野さんのメッセージ
・つらい思いは、他の人にはき出した方が楽になれる
・家族や友人に気持ちが伝えられないなら、遠くの誰かを頼ってもいい・「今いる環境が全て」と思わないで
<ライブではスピード感あふれる演奏で、観客を魅了している中野さん。音楽活動の傍ら、インスタを活用し、日々寄せられる質問に回答しています>
――人生相談は、どういう経緯で始められたんでしょうか
8カ月ほど前から、テキストを打ち込むなどした画像を投稿出来る、「ストーリーズ」機能を使っています。インスタは別のSNSと比べ、他人からの批判が寄せられにくい。色々な人の投稿を見るうち、「Q&Aがやれそうだぞ」と思い立ちました。
――回答するとき、心がけていることはありますか
打ち込める字数に制限があるため、短い言葉で本質を突くようにしています。以前5文字で返したところ評判だったので、0文字回答にも挑戦しました。
DMで直接悩みを送ってくださる方もいて、解決につながりそうな答えを、3行程度で返しています。仮に解決しなくても、「気持ちがずっと楽になった」などと教えてくれる場合もある。求められている言葉って、実はそこまで多くないんだな、と気づいた経験ですね。
<数々の悩みに寄り添う背景には、何があるのか。中野さんに尋ねてみると、苦しい胸の内をさらしたとき、ファンから猛烈な抗議を受けるという、苦い過去について打ち明けてくれました>
――質問の中には「死にたい」など、センシティブな内容もありますね。どう対応されているんでしょうか
僕自身、そう思った経験があるんです。相談した人からは「1回寝ろ」と言われました。確かに、疑似的に死んでいるのと一緒だなと。起きた後は、寝る前に考えていたことが薄れている。すると悩みを人に話したり、紙に書き出したりして「生き返ろう」と思えるんですよ。
だから「死にたい」という質問には、「一度寝てみよう」と答えていますね。寝られない人に対しては、科学的な根拠のある睡眠法を伝えたり、医療機関の受診をすすめたりしています。
――中野さん自身が、死を望んだときの状況について、もう少し教えて下さい
何年か前のことですが、数千人、数万人もの前で演奏している時間と、日常とのギャップが、ものすごく大きく感じられた時期があって。街中でファンから声をかけられる機会も増え、自分のキャパシティでは、受け止めきれない状況になっていたんです。
そしてストレスからお酒に走った末、ツイッターで「死にたい」とつぶやきました。「そんなこと、影響力ある人が言うな」「バンドメンバーに迷惑を掛けるんじゃない」。投稿を見た人たちから批判が殺到して、より追い込まれてしまいました。
――つらい体験です。そこから、どう立ち直っていったんでしょうか
周囲からの信頼度が高まるような、SNSの使い方を心がけました。丸一日掛けて、「誕生日おめでとう」というファンのメッセージ全てに返信したり、ツイッターのアカウントを相互フォローしたり。バンドマンにとってタブーとされている、DMでの交流も続けました。
「SNSを使うバンドマン」ではなく、「バンドを組んでいるネットリテラシーの高い人」と評価してもらえた段階で、改めて自分の主張も発信していきました。「死にたいと言う人がいたら、批判するんじゃなく、守る方に回って欲しい」とツイートしたこともあります。
死にたいってツイート見かけたら優しくしてあげてね。発信する事で気持ちがラクになるから。知り合いだったらリプじゃなくて直接連絡してあげたり、リプなら「気持ちわかる、とりあえず寝よう」くらいで大丈夫。「そんな事言うな!」とかは発信者を孤独にするから逆効果なので覚えておいてー!
— ピエール中野 凛として時雨 from 埼玉 (@Pinakano) April 9, 2019
――インスタでの質問に、他のファンが解決法を寄せる、といった光景がみられます。ご自身の経験を踏まえた、中野さんのスタンスが、いい影響を与えているようです
そうだといいんですが。でも、身近な人に言えない悩みでも、距離のある誰かに対してなら伝えられる……という面はあるのかもしれませんね。
<インスタに寄せられる質問は、10代とみられる人達からのものも多いそう。中には、「やりたいことがない」との悩みも少なくないといいます。そこで、中野さんがミュージシャンになるまでの歩みについて、聞いてみました>
ーー中高生からの相談には、学校や友人関係の悩みに加え、進路に関する質問も寄せられていると聞きました。中野さんは、なぜドラマーを志したのでしょう
好きなことに挑む性格で、小学生の頃は野球などのスポーツに取り組んでいました。中学生で入ったバスケットボール部でも、最初は部内でトップ5に入るほどの成果を残していたんです。
ところが練習中にひざを壊し、1週間ほど休むと、周りにどんどん追い抜かれてしまいました。その後も部活は続けたのですが、試合で活躍することは諦めて、トリッキーで目立つプレイばかり練習していました(笑)。
スポーツって、評価軸が明確じゃないですか。上には上がいるし、とても続けられないなと。そこで、音楽を始めてみようかなと考えたんです。LUNA SEAやX JAPANなどのバンドにはまっていたし、聴く人によって「よさ」の基準が変わるのも魅力的でした。
――当初からドラムを担当されていたのでしょうか
実は、ギターです(笑)。でも、一緒に練習していた友人の方が、上達が早くて。ドラム人口が少ないということで、パートを変えたんです。やってみると、すぐに基礎的な技術が身につき、バンドメンバーからも「ドラム似合うね」と言われ、頑張ってみたいと思えました。
「高校を卒業するまでに、市内で有名になろう」。そう決めた後は、ドラムセットを買ったり、色々なバンドのサポートメンバーとしてライブに出たりして、自分を追い込みましたね。最終的に目標を達成できたため、専門学校に進学し、更に腕を磨きました。
――好きなことを極めた、というのは素晴らしいですね。一方で、「そもそもやりたいことがない」と悩む人もいます
以前、友人からの紹介で、ある高校にゲスト講師として招かれたことがあります。そこで「高校生の頃に自分が知りたかったこと」をテーマに講義したんです。会場に集まった生徒からも、同じ質問を受けました。
そのとき問いかけたのは「会いたい人っていないの?」ということ。僕の場合、X JAPANのドラマー・YOSHIKIさんに憧れていました。会うためにどうすればいいか、と逆算して考え続けた結果、ライブで共演することができたんです。
仮にミュージシャンになれなかったとしても、ドラムの音づくりを考える仕事に就くなど、方法は色々ある。憧れに対する立ち位置を考え、実力をつけていくことが大事だと思います。自分にあった道を選び、追求すれば、やりたいことは見つかるんじゃないでしょうか。
<思春期に夢を見定め、追い続けてきた中野さん。しかし今、学校や部活になじめず、日々を乗り切ることで手いっぱい、という子どもたちもいます。そこで、彼ら・彼女らに向けたメッセージを語ってもらいました>
――学校に自分の居場所がない。そう感じている子たちに、どんな言葉をかけられそうですか
人間だから、誰しも気持ちに波がありますよね。所属しているコミュニティから、距離を取りたいと思うときがあるのも当然です。僕も学生時代、付き合いのある友達グループの雰囲気が悪い日は、一人で本を読んだり、別のグループに顔を出したりしていました。
クラスや学校に、自分を合わせないといけない。そう考えると、しんどいだけです。うまく距離を取りながら付き合っていけばいいと思います。
――確かに、「この場所しかない」と思い込んでしまうと、苦しくなってしまいますね
そうですね。同じような悩みを抱えている人って、結構多いはず。SNSで思いを発信したり、有名人にQ&Aを送ってみたりするのも、いいんじゃないでしょうか。弱みは、素直に見せていくべきだと思います。
――SNSだと、普段なかなか言えないことも、打ち明けやすい気がします
とはいえ、ネガティブな意見につけ込まれ、犯罪に巻き込まれてしまう危険もあります。素性が分からないアカウントから、「会って話を聞くよ」というメッセージが送られてきても、絶対応じてはいけません。「知らない人に会っちゃダメ」というのが鉄則です。
今は、相談に乗ってくれる第三者機関が増えています。質問を受け付けている有名人も少なくない。そういう人達を頼る方が安心だと思います。もちろん、僕へのDMも大歓迎ですよ。発してくれた声は、必ず届いていますから。
<ぴえーる・なかの>
ロックバンド「凛として時雨」のドラマー。手数、足数を駆使した高度なテクニックと表現力で、豪快かつ繊細な圧倒的プレイスタイルを確立。著名ミュージシャンのレコーディングへの参加や音楽監修のほか、各種媒体でコラム連載を手がけるなど、幅広く活動している。
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