連載
#6 教えて!マニアさん
「嫌われ者だから」菌に魅せられた写真家「カビ映え」で始める世直し
「カビ」に心を奪われ、写真を撮り続ける男性の、心の核となる思いを聞きました。
「博物ふぇすてぃばる!」の開催は今年で6回目。7月20日(土)から2日間、科学技術館(東京都千代田区)で開催されました。
会場では、雑貨やアクセサリーなどをつくる作家・クリエイターや、普段から専門で研究している研究者たちが、それぞれのオリジナルグッズを販売しました。学問とものづくりやエンタメを組み合わせた内容であることが出展の条件となっています。
趣味でつくった「打製石器」、「前方後円墳」型のクッション、羊毛フエルトでつくった深海生物、素粒子と加速器実験をモチーフにしたスマホケース……。ここでしか出合えないような個性的でニッチな商品を扱う、約370ブースが並びました。
会場を訪れると、まずは人の多さに驚きます。混雑が落ち着く2日目の午後に取材しましたが、人気のブースには人だかりができていますし、通路も場所によってはすすみづらいほどです。
主催者によると、2日間の来場者は8,000人近く。みんな一体どれだけニッチな商品に飢えているんだ……! 冒頭のように、「マニアすぎる」とつぶやきながらも、来場者の目はキラッキラに輝いていました。
会場を歩くなかで、目に入ってきたのは、かなり特徴的な帽子をかぶった男性です。
白いシルクハットの上部から、団子のように白い球体をつなげたものを、イソギンチャクのようにいくつも生やしています。
でも、どうして「菌」だったのでしょうか。
「もともとミュージシャンやアーティストの写真、いわゆる『アー写』の撮影やデザインをしていたのですが、デザインの素材としてクラゲなどの生き物を使うことがありました。その流れでカビも使えるかもと思って始めたのですが、どんどん面白くなってしまって……」
「デザインの一部」として足を踏み入れたものの、それからどんどん菌の撮影にのめり込んでしまったといいます。作品をまとめたファイルには、カビの写真がぎっしり。「やっぱ青カビとか、身近だから愛着わきますよね」と笑顔で話しますが、すみません、私まだ同じ土俵に乗れていません……。
まずお湯を沸かし、そのにブドウ糖と寒天の素を入れる。
— Mark fujita 7/20-21博物ふぇす E-21 (@Mark45310926) June 23, 2019
それをシャーレに注ぎ、シャーレを持って近所をうろうろする。
そこから生えてきたカビをひたすら愛でる。#私がやってる創作をざっくり言う pic.twitter.com/rWKxAtwVCW
心奪われるのは「カビが生み出すグラデーション」というfujitaさん。カビを生やすために、家で寒天培地を置いていたり、菌を培養するためのシャーレを持ってお散歩したりしているそうです。あくまでも自然にいる菌を培養し、偶然の産物を撮影するのがこわだりだといいます。
「自分には撮影の技術があるので、専門の研究者の方には撮れないような『カビが映える写真』が撮れる」と、プロのカメラマンだからこその思いもあります。ナチュラルに「カビ映え」というパワーワードまで爆誕しました。
でも、どうしてそんなに「菌」や「カビ」に夢中になれるのでしょうか。
「嫌われ者だからですね。カビのおかげで地球の生態を支えたり、ペニシリンという抗生物質が生まれたくさんの命を救ったりしているのに、それが知られていないし、むしろネガティブに語られているじゃないですか」
「そもそも、偏見や固定概念というものが嫌いなんです」というfujitaさん。「カビの美しさを引き出すことで、ネガティブな思い込みをぶち壊したい。そういう世界を菌から始めたいんです」
ミクロな視点の1枚の写真から始める、マクロな世界の意識改革。さすがに小さすぎるような気がするけど、宇宙のように広がった神秘的なカビの写真を見ると、確かに美しいと思わせる力がある。奇しくも参議院選挙投票日に、大切なことを教えてもらいました。
梅雨が明け、外に出かけたくなる今日このごろ。シャーレを持ってお散歩している人を見かけたら、それはfujitaさんかもしれません。
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