お金と仕事
ゆりやんレトリィバァの「やばい買い物」動画「いやや!」叫ぶ理由
110番や119番をはじめ、3桁の電話番号はたくさんあります。その中の一つ「188番」がもがいています。10代から20代で188を知っている人は4%台という数字も……。「なんとかこの3桁を知ってほしい!」。芸人のゆりやんレトリィバァさんを起用、明らかに「やばい買い物」を告白する動画を制作。LINEやインスタなどSNSに広告動画の配信も始めました。担当者の涙ぐましい努力を追いました。(朝日新聞記者・野村杏実)
動画には、ドピンクの衣装の芸人のゆりやんレトリィバァさんが登場。
過去のやばそうな買い物を後悔しながら「188(いやや!)」と叫んで電話すると……架空請求や悪質商法などの消費者トラブルに関する相談を受ける、消費者ホットラインにつながります。これは、昨年5月の「消費者月間」に合わせて作られた動画です。
さらに、消費者庁は先月から、YouTubeやツイッター、LINE、インスタグラム、フェイスブックへの動画や画像の広告配信を始めました。
18歳から一人で有効な契約を結べるようになる成人年齢の引き下げを見据え、もっと若い世代に188を知ってもらうのが狙いです。
動画は15秒で全部で4種類。メッセージアプリの会話風になっていて、デート商法や仮想通貨などの消費者トラブルにあったことを打ち明けた人に対して、188のイメージキャラクター「イヤヤン」が「泣き寝入りは『いやや!』」と返信し、相談を呼びかける内容です。
188は、電話して郵便番号を入力すると近くの消費生活相談窓口につながる仕組みで、相談は無料ですが通話料がかかります。
しかし、2017年度の調査によると、10代から20代で188を知っている人は4%台でした。
なぜ、こんなにも知られていないのか……。
もともと消費者ホットラインは10桁の番号でしたが、覚えやすいように3桁の「188」に変わったのは2015年夏。今では教科書にも載っていますが、学校などで習っていない人もいて、なかなか認知度は上がっていません。
何か別の手法を取り入れなければ広がらない。若者に知ってもらうにはどうしたらいいか……。
そんな中、浮上したのが動画でした。動画の狙いについて、消費者教育・地方協力課の久保美奈海さん(32)は「求心力のある芸人さんとコラボすることで、動画が拡散し、継続してPRすることができる」と話します。
SNS上では、「国がこういうことをやるんだ」と驚きつつも、好意的なコメントが寄せられたといいます。
さらに若者に知ってもらおうと、次に企画したのが今回のSNSへの動画の広告配信です。
電車内の液晶画面にCMを流す案も出ましたが、「若者はずっと手元のスマホを見ている」との理由でボツに。ラッピングバスというアイデアも出ましたが、地域が限定的になってしまうことからお蔵入りになりました。
「SNSならみんな使っていて、全国の、どの年代の人にも訴えられる」と、SNSに広告を配信することに。内容は、20代、30代の若手職員の意見を聞きながら決めていきました。メッセージが次々と表示されるため、上司からは「スピードが早いのでは……」と心配する声もありましたが、「テンポがいいほうが若者の目にとまる」と、若手のアイデアが採用されたそうです。
同課の淺田恵里さん(23)は、「トラブルにあっても、ネットで調べて自分で解決しようして悩む人も多い。まずは相談先があることを知ってほしい」と話します。
最近、若者を狙った架空請求や高額請求などのトラブルは増えています。
例えば、SNSの広告を見てダイエットサプリなどのお試し商品を購入すると、2回目以降も届くようになり、高額請求を受けるケースが報告されています。
恋愛感情につけ込んで高額なアクセサリーなどを買わせるデート商法について、国民生活センターには毎年約500件の相談が寄せられていますが、若者からの相談は増えていて、今年度は約7割が10、20代からでした。SNSやマッチングアプリをきっかけに知り合い、被害にあうケースが多いそうです。
進学や就職で引っ越す人が多い春は、入居や退居に関するトラブルも増える傾向があります。
実は消費者庁、ゆりやんレトリィバァさんのほかにもお笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さんを起用し、「炎上してもいい」という覚悟で挑んだ動画を作っています。
「消費者月間」を伝える動画なのに、「風呂に入らない月間」や「邪念ゼロ月間」などネタっぽい月間のことしか話さないという内容です。
生活情報や消費者トラブルにあわないための注意などを直接消費者に伝えていくことが消費者庁の大事な役割の一つだといいます。
担当の職員たちは、「保守的な役所っぽくない、今までやっていなかったような取り組みに挑戦して情報を発信していきたい」と話していました。
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