連載
#11 #となりの外国人
中国人女子留学生がみた日本の今 「正直、中国の方が便利じゃね?」
【#となりの外国人】
コンビニやレストランなど、最近は街中で中国人を良くみかけます。私は7年前に、中国で語学留学をしていました。本場の餃子、旧正月、偽ブランドの見分け方……。驚き、戸惑うことばかり。では、中国人留学生の目に、いまの日本はどう映っているの? 日本の大学に通う女子大学院生ら3人にぶつけてみたところ、急激に進化する中国の今が見えてきました。(朝日新聞東京編集センター・堀江麻友)
戴(ダイ)さん
日本の大学院でビジネスを学ぶ女子。好きなものは、着物と猫。卓球が得意で、5歳ごろから始めている。
李さん<仮名>
日本の大学で教育を勉強中。辛いもの好き。日本では辛い料理を諦めていたところ、壱角堂のラーメンに感動した。ディズニー好きで、東京ディズニーランドに興奮。
下村さん(29歳)
中国で生まれ、7歳から日本で暮らす。寝ることが大好き。スポーツは全般的にやる。特にバレーが得意。
―そもそも日本に留学したのはなぜですか?
―でも、なんで日本だったんですか?
―少女漫画とかではないんですね。
―卒業後はどうしますか?
―どんな企業で働きたいですか?
―大事ですよね。残業の有無。
【日本に留学する人と就職する人】
日本学生支援機構によると、大学や大学院など高等教育機関で学ぶ中国人留学生は2011年に8万7500人。17年には、7万9500人と約1万人減りました。一方で法務省によると、就職を目的に在留資格を取ったのは、11年の5300人から1万300人(17年)と5000人も増えています。
人口の多い中国でも就職活動が厳しくなっていると言われています。日本で就活する方が、中国よりも有利なのかもしれません。日本で就職する中国人が増える中、中国語が話せる日本人学生は、語学力以外の能力を今以上に求められる時代になっていくのかもしれません。
―日本にきた当初はどう感じました?
―確かに。中国の地方に行くと、外でトイレを利用するのは、かなり大変でした。壁がなく隣の人が見える「ニーハオトイレ」とか、土に穴を掘っただけのトイレとか……。
―日本で不便に感じたことは?
―タクシー運転手とまでチャットできちゃうの?
【7年前の中国の記憶】
WeChat(中国名・微信)は、日本の無料通話アプリ「LINE」同様、友人や家族と文字やボイスメッセージでやりとりしたり、動画、写真の共有ができます。TwitterやInstagramのように写真を投稿したり、つぶやいたりすることもできます。
さらに便利なのが、決済機能。QRコードをかざすと、コンビニや自動販売機、飲食店などで決済できます。
送金もできるのです。友人とチャットする画面に、「写真」と同じように「送金」というボタンがあり、ボタンを押して値段を入力すると、入力した金額を友達に送金できます。
「割り勘」という機能を使えば、チャット経由で友人に支払う金額を要請して、振り込んでもらえます。いちいち「今日は一人2033円で…」「あ、細かいお金がない」という面倒くさいやりとりをしなくても済むのです。
すさまじいスピードで、中国は便利になっています。私が留学していた7年前は通りかかったタクシーを呼び止めて乗車していたし、支払いは現金。携帯は、インターネット機能のない現地のガラケーでした。今の中国では、スマホを使いこなせないと暮らしていけなさそう。すでに便利度では、中国に抜かれているかも?
―日本で疑問に感じたことはありましたか。
―天津飯は?
―日本の餃子も中国と違いますよね。
―餃子に生にんにく。仕事前には絶対やめといた方がいい組み合わせですね。
【本場の『中華料理』の記憶】
私の留学先の大学の食堂には、餃子以外にも炒め物や鍋など100種類以上メニューがありました。チャーハンだけでも30種類以上。ごはんの量は大盛り3杯分くらい。食べ終わった皿の底にスプーンで1、2杯すくえるぐらい油が残ります。200円あれば満腹です。
日本の学食は、期間限定メニューや見た目にこだわったメニュー、栄養バランスを考えた定食などがありますが、中国ではとにかく量重視な印象。調子に乗って食べ過ぎた結果、10キロ近く太りました。
―家で餃子を作りますか。
―授業より旧正月優先。それは一大イベントですね。現代っ子でも、伝統的な文化や家族との時間は、大事にしているんですね。私も留学中に、旧正月の餃子作りをやりました。一番驚いたのが、餃子に1元(約16円)を入れていたこと!
―やっぱり入れていました! 大体どの家庭でも恒例なんですね。
―日本の方が、物価が安い? 7年前は全くそんな感覚はありませんでした。ちょうど円高が進んでいて、1元=約12円でした。今は、1元=約16円ですね。
―え? SKⅡってまだ日本ではもう少し大人向けの化粧品ってイメージがありますが。
―いや、日本でも結構なお値段しますよ。まさか中国の学生に浸透しているとは…。化粧品にいくら使ってますか。
―結構、かかっていますね…………。
【中国女子大生と化粧の記憶】
日本では、中国人が家電製品や化粧品などを買い込む「爆買い」が、2015年の流行語大賞にも選ばれました。観光庁によると、訪日した中国人の1人あたりの買い物代は15年には161000円に増えましたが、その後、落ち着いて、昨年は11万9000円だったそうです。
一方で、日本の化粧品類は根強い人気です。観光庁の昨年のデータによると、日本に初めてきた中国人観光客が化粧・香水に使う金額は約4万6000円。10回以上来日している中国人だと約6万9000円使っていました。
問題のSKⅡですが、本当に日本の方が安いのでしょうか。中国のショッピングセンターに問い合わせると、SKⅡの化粧水(230ミリ)の販売価格は1450元(約2万3200円)。日本の定価(税抜き)は230ミリで2万2000円で、店頭セールだとさらに安くなります。
中国版Instagramと呼ばれるEC(電子商取引)サイト「小紅書」でも、SKⅡが多く紹介されています。
7年前、化粧をしている中国の学生は、留学先の大学でも少なかったように思います。友人の1人は「お金がかかるし」と話していたのが印象に残っています。今の中国人学生は、ドラッグストアで1000円もしない化粧水を買っている私よりも、はるかに美意識が高そうです。
―日本人と接して感じたことはありますか?
―もはや彼氏のカバンですね。
―人によっても異なるかもしれませんが、中国の女性の留学生をくどこうと思っている日本の男性は頑張らなければいけないですね。
―中国人男性と付き合う日本人女性の人はメンタルが強くないといけないのかもしれませんね。
【7年前の記憶と7年後の未来】
7年前は、中国は食べ物や商品など物価が安い国で、日本の生活の方が便利だと感じていました。当時から「中国は急速に発展している」と言われていましたが、日本に追いつくのはまだまだ先。そんな気がしていました。まさか、今の中国人留学生から「日本は不便」という言葉が出てくるとは思ってもいませんでした。
普段は、大体電子マネーかクレジットで支払いしています。ただ、現金を持っていないと不安です。3人の話を聞き、「むしろ私の方が置いていかれている」と焦りました。7年後は、「もう日本は時代遅れ」と言われてしまう日がくるかもしれません。
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