地元
ホタルイカ・綿アメ… 「変わり種」サンドイッチに挑むコンビニ店主
立山連峰のふもと富山県立山町に「変わり種」サンドイッチで有名なコンビニがあります。名物ホタルイカをためらいなくはさみ、お菓子まで具材にして、レパートリーは一時100種類を数えました。たまに「救いようのない味」になることもありますが、「ギアを上げて変わり種を増やしていきたい」とひるみません。その挑戦心はどこから来るのか。20年以上、独自の戦いを続ける店主を訪ねました。
富山市中心部から、立山黒部アルペンルートの入り口・立山駅へ約40分ほど車を走らせると、道沿いに赤・黄・水色のカラフルな看板が見えてきます。
「立山サンダーバード」。1996年7月に、山並みに囲まれたこの場所に店を構えて以来、店主の伊藤敬一さん(77)、妻の三知子さん(70)、長男の敬吾さんの3人が年中無休で営業しています。現在の営業は、午前5時~夜8時。主におにぎり作りを担当する敬一さんは、朝が早いこともあって店の奥で寝泊まりしています。
ロードバイク置き場や手製の融雪装置を備えた駐車場に入って、まず目に入ったのは「みみずあります」の貼り紙。釣り人のために、畑で育てたミミズを売っているとのこと。
「買う人いるんですか?」
「結構いますよ。けどたまに、釣りするように見えないのに大量に買って行く人がいて。あれは何やろね」と敬一さんと敬吾さん。
店に入ってまず向かったのはサンドイッチ売り場。450円と290円(いずれも税込み)の2エリアに、各種カツや、手作りしいたけ&ハンバーグ、いのししチーズ……。定番+αの商品が並びます。その中で、「変わり種サンド」が異彩を放ちます。
この春の目玉は、富山名物ホタルイカを、菜の花と合わせて和風だしとチーズでまろやかに仕立てた「ほったっるっいっかっ♪ 菜の花チーズ」。
昨年は、バジルソースで洋風に味付けましたが、漁期を過ぎてからの販売だったこともあり、お客さんの反応は少なめ。そこで今年は、3月1日の漁解禁に合わせて準備。断面にはっきり見えるホタルイカの姿はインパクト大です。敬吾さんは「攻めたつもりはなく、ホタルイカ挟んだけどなにか?ぐらいの感じです」とサラリ。食べてみると、ほど良いしょっぱさのある、まろやかな味わい。結構「アリ」です。
その後、ブロッコリーとチーズを合わせてオリーブガーリックソースで味付けた「ホッタッルッイッカッ♪ ブロッコリーチーズ」も登場。飽くなきアレンジは止まりません。
「変わり種」は、これだけではありません。
ラーメン風の某スナック菓子を、メンマやチャーシューと合わせた「ブラックラーメンサンド」、きのこと竹の子型の某チョコレート菓子を挟んだ「きのこたけのこチョコ」、桜もちと生クリームを挟んだ「桜さくら」(販売終了)……。突っ込みどころ満載の商品が並びます。
昨冬には、がんもとごぼう天、ゆで卵を挟んだ「おでんサンド」、肉まんをそのまま挟んだ「肉まんサンド」も登場。お客さんを驚かせ、雑誌では「どうかしてるぜ」と紹介されたことも。
最新作は、あん肝。菜の花とチーズと合わせています。ぜひ一度、ご賞味あれ。
元々の主力は手作り弁当でしたが、毎日メニューを考える大変さに加え、配達の手間も相当だったとのこと。敬一さんは「運ぶだけで1日80~90キロ。冬は雪で、そりゃあもう大変。それで何か良いことあったかって、車が壊れただけだよ」。
そこで、お客さんの要望もあって5年ほど前からサンドイッチ作りを始めました。最初は卵やハム、ツナ、カツなどの定番商品が中心。そこから、これまたお客さんの声をきっかけに、独自の道を歩み始めます。
「辛いのがほしい」「甘いのがほしい」「○○を入れてほしい」
地域に根付いたお店だからこそ、気軽に出てくる要望の数々。「みんな色んなこと言って、ニーズが多様すぎる」(敬一さん)とこぼしつつも、「おいしかったらすぐ出す」をモットーに、弁当作りで使った食材や調味料を組み合わせて新商品開発にいそしみました。
「チーズを入れれば大丈夫」「ベーコンはみんな好き」。経験則にも基づきながら、レパートリーは雪だるま式に増え、一時は100種類超に。現在は手早く作れるものや、人気商品を中心に50種類ほどを販売しています。
「個人の店だから色々と試しやすい」。その言葉通り、自由に柔軟に新商品開発を続ける敬一さんたち。その中には、「没」になった商品もあります。
例えば、口の中でパチパチとはじけるような食感を楽しめる綿菓子型のお菓子を、ぶどうの缶詰と合わせた「わたパチグレープサンド」。パンに挟んだ後に一晩寝かせたところ、「パチパチ」が失われ、缶詰そのもののクオリティーも相まって「救いようのない味」(敬吾さん)に。
ほかにも、とんがり帽子型のスナック菓子や、エビのパッケージでおなじみのスナック菓子を使った際も商品化には至らず、敬吾さんは「(某ラーメン風のお菓子以降)スナック菓子は成功していない」と苦笑します。
立山黒部アルペンルートに続き、約350メートルの「日本一の落差」を誇る称名滝につながる遊歩道も開通し、立山はこれから、多くの観光客でにぎわいます。
来店者が増えるなか、これだけの種類を作るのは楽ではありませんが、敬吾さんは「楽しんで作ってますし、ギアを上げて変わり種を増やしていきたいです」と意気込みます。
楽しさの源は、店頭でお客さんの反応が見えること。そして、ネットでの反応の速さと広がりも励みになっているそうです。
サンドイッチを作り始めたころ、お客さんにすすめられてフェイスブック(FB)をスタートすると、新商品の投稿を見た人が県外から来たり、ネット上での反応に食いついたメディアが取材に来たり。思わぬ連鎖に驚いたといいます。
「お店に来た人から、FB見たよ、と声をかけてもらうとやっぱりうれしいですよね」と敬吾さん。一つの投稿がお店でのコミュニケーションにつながる、個人店ならではの面白さを日々実感しています。
発信の幅を広げようと、今年からインスタグラムも始めました。サンドイッチとおにぎりの投稿が偏らないようにしたり、写真を工夫したりしつつ、あくまでマイペースに、新たなつながりを楽しみながら続けていくつもりです。
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