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白川郷で世界中が待った「奇跡の10分」カメラマンの本能くすぐる絶景
世界遺産の合掌造り家屋が立ち並ぶ岐阜県白川村。冬には、集落が幻想的にライトアップされる日もあり、世界中から観光客が集まります。中でも一番「絵になる」のが「奇跡の10分」とも言える時間帯。写真を撮りたいという思いは、老若男女、万国共通のようで……。(朝日新聞名古屋映像報道部・吉本美奈子)
白川郷は、私も2年前に取材で初めて訪れ、高台にある荻町城跡展望台から家々を撮影しました。ただ、その時は眼下の集落の美しさよりも、必死に撮った記憶が強いのが正直なところ。
足元の悪い中、脚立に立ち、前に並ぶ各社のカメラマンの肩越しに撮影。後ろには外国人観光客たちがカメラや携帯を手にびっしり並び、一歩も動けず……という状態でした。
それが今年は、観光協会が有料整理券を配り、人数や見学時間の制限をするとのこと。どう変わったのか、興味を持って再訪しました。
展望台へは、報道陣も自由には行き来できません。車で10分ほどの駐車場から、観光協会が用意してくれた専用車に乗り合わせて移動します。
ライトアップは午後5時半からですが、4時過ぎには到着。三脚を立てて準備開始です。
服装は厚手のヒートテックインナーにパタゴニアの防寒着、耳元まで覆う帽子、ネックウォーマー、手袋、靴下に貼るカイロという装備で、雨の中ひたすら待ちます。寒いと電池も急激に消耗するので、ポケットにはカイロと共にカメラの予備バッテリーも入れていました。
展望台に用意された撮影スペースは、幅10メートルほど。三脚を据えた10人くらいのカメラマンが、今回は無事、横一列に収まりました。
ライトアップの時刻が近づくと、観光客を乗せたマイクロバスが続々とやってきます。中国語や英語が飛び交う中、係員も外国語で見物客を誘導していました。
人数制限のおかげで、展望台での押し合いへし合いはなくなり、2年前に比べてだいぶゆとりがあるように感じます。
以前の混雑が通勤ラッシュの電車内並みだとしたら、今回は隣の人と体が密着しない程度の混み合い方。それでも展望台には100人以上がいたでしょう。みんながカメラマンという、観光地ではいまや当たり前の光景がありました。
空の色が刻々と深まり、青色が真っ暗になるまでのわずかな時間。現場のカメラマンはみな、家々が一番映えるこの短い時間を狙います。
私も10分ほど薄暮を撮影し、次は集落内へ。雨はやみ、雪が舞う中、雰囲気のある写真が撮れそうです。ところが三脚を据えて撮影を始めたものの、決めた構図に次から次へと撮影中の観光客が入りこみ、思うように撮れません。
小さくなら人を入れたいという場面でも、カメラのすぐそばに立っていたり、服が派手で建物より目立ってしまったり。お互い様なので待ちながら、タイミングを計ります。
人影は積もった雪山の上にも。そんな光景に思わずシャッターをきったのが、紙面には載らなかった今回の1枚です。
スマホで自撮りする女性グループや、コンパクトカメラで撮影する若い男性、本格的な写真を撮る重装備の高齢男性……。年齢や性別、国籍はもちろん、撮影するツールも様々で、今の時代、写真を撮るという行為の幅広さってすごいなと素直に思います。
「インスタ映え」という流行語も生まれましたが、「絵になる」写真を撮りたいという情熱は撮影者なら誰もが抱くもの。フォトジェニックな瞬間を切り取った1枚の写真の裏には、多くの撮影者がいて、写っていないストーリーがある。そんな思いを記録した1枚です。
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