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インスタ蠅ってどんな蠅? 学校では教えてくれない「撮影術」
スマホが当たり前になった世代にとって、写真はなくてはならない存在です。インスタグラムのユーザーが日本で2000万人を超える一方、写真撮影だけを目的に食事や観光をすることを批判する「インスタ蠅」という言葉も生まれています。「なぜ、私たちはインスタを撮り続けるのか」。大学生の視点で考えてみました。(相原彩良)
今年、大学に入学した私にとって、写真は、自分の記憶の手助けのような存在です。大学生のスマホ所有率90%超となった今、写真撮影に対するハードルは、格段に下がっています。
例えば、教室が広すぎて黒板が見づらい時、講義後に板書の撮影会が行われるのは日常風景です。
他にも、何かに登録した際のユーザー名やパスワードなどを忘れないよう、スクショ(スクリーンショット)をしたり、欠席した授業のノートも、コピーではなく写真で記録したりします。
これまで筆記用具を使っていた作業が、一瞬のシャッター音とともに済んでいます。今までの写真撮影という行為とはちょっと違う、生活を便利にする道具としての使い方になっているのです。
同じ写真でも、インスタを意識して撮るフォトジェニックな写真は、記録用の写真とは役割が違ってきます。
一眼レフのカメラまで使わず、スマホで撮影するので、同じように見えます。でも、写真が身近過ぎるものになっているからこそ、様々な思いが込められているフォトジェニックな写真も大事になっています。
フォトジェニックな写真は、たいてい加工されます。光や影の調節やコントラスト、シャープネスなどを調整します。それは、愛情を注がれて育てられた「大切な一枚」ともいえる存在です。
そんな写真に対し「本当の自分ではなく理想の自分の姿を写している」という意見もあります。でも「写真の中にあるリアルもある」と思って加工をしている自分がいるのも事実です。
その一枚に期待するのは、周りへの自慢やアピールとはちょっと違います。フォトジェニックな写真を思い出として残し、自分の価値観や感覚を見返したい。そんな気持ちの現れなのです。
何をもってフォトジェニックになるのか? 大事なのは「非日常的」です。
一見、写真と見間違えるほどリアルな絵を描くスーパーリアリズムという技法があります。フォトジェニックは、スーパーリアリズムとは逆で、まるで絵画の世界のようだと思わせるのがポイントです。
ウォールアートのような、壁に描かれた色鮮やかなイラストの前で撮る写真は、インスタ向きだと言われています。自分と風景がコラボした一枚は、板書のスクショのような生活の道具としての一枚とは違う役割があります。
下北沢にあるコーヒースタンドの「ON THE WAY」は、フォトジェニックな場所として有名です。
撮影をする際には、アイスキャンディーのように刺さったカップケーキをコーヒー豆の入ったマグカップに入れます。
カップに刺さったケーキという、まるでおとぎ話に出てくるような「非日常感」の世界が生まれます。
「断面」も大事です。フルーツとクリームの「断面」が有名なのは代官山の「珈琲日記」です。同じく代官山の「King George」は、野菜とハムなどがパンで挟まれ、まるでハンバーガーかと思わせるくらい厚みのあるサンドイッチが登場します。
このような一品を前に、私たちは、料理の魅力が最も引き出せるように真上や真横、斜めといった角度を探ってカメラを手にとります。
SNSで話題になっているお店では、同じように撮影をしに来ているお客さんがいます。店員さんが撮影のアドバイスをしてくれることもあります。
今の大学生は、物を買わない世代だと言われます。カフェなどに求めているのは、おいしさだけでなく、見て思い出におさめることが、楽しみとなっているのです。
写真が身近になる中で「インスタ蠅」というような言葉が生まれました。原因は「いいね」です。
たくさんのフォロワーから「いいね」をもらうため、目を引くような写真を撮る。そんな行為が「インスタ蝿」と呼ばれます。「いいね」を増やすために、ウケを狙ったり、人気のハッシュタグを使ったりもします。
「インスタ蠅」という言葉自体は、批判的な意味で使われます。
でも、昆虫のハエが持っている複眼と呼ばれる目は、人間よりも優れた機能があります。1秒間に150回もの明滅まで見分けられます。同じ時間でも、多くの画像を切り取って見ることができ、広い視野も持っています。
そう考えると「インスタ蝿」って、褒め言葉のような気もしてきます。
もちろん、大学生の中にもマナーはあります。大きなシャッター音を出したり、他人を写し込んだり、混雑時でも構わず立ち止まったり……その場では注意をされなくても、その人の評価は落ちます。
最近では、お店側が撮影を禁止している場合もあります。せっかくの食事ですから、写真を撮っている間に冷めてしまったり、混雑の原因となったりしてはいけません。
「#フードファイター」や「#instafood」といったハッシュタグを使っているのに、食べるよりも撮影メインだったとしたら「いいね」をもらえる写真とは言えないので。
私たち大学生は、実際、どのようにインスタを撮影しているか。ご紹介します。
【1】側面を撮る
影ができにくいというメリットがあります。背景には工夫が必要です。ポートレートモードなどでぼかすとさらに被写体の写りが良くなります。
【2】真上から撮る
撮影している自分の影を写り込ませないように工夫すれば、シェフの目線で撮れます。ど真ん中か、あえて端っこか、どこに被写体を置くかが見栄えを左右します。
【3】座席に座る目線から撮る
最近では、一緒に行った人の体の一部や頼んだメニューを映す構図も流行っているようです。明るさが足りなかった時用に小さなライトを、少し引き気味の写真を撮りたい時用に広角レンズを持ち歩く人もいます。
インスタにアップする時、やらない方がいいこともあります。
【1】コメントがない
写真だけでも十分楽しめる投稿もたくさんありますが、いきなり「細ったお腹」などがアップで映る写真は、いいねが押しにくくなります。詳細が気になるけれど聞きにくく心配にもなります。コメントで補足するなど、見る人の気持ちも考えて投稿するのがおすすめです。
【2】同じような写真連発
同じようなレイアウトや被写体の写真は、コラージュ、複数投稿機能を利用して、まとめるなどの方法を取る方がいいです。短時間の間に似ている投稿を連発するのは、見る人にとってストレスになります。その枚数が本当に必要かどうか、考えてから投稿するべきです。
【3】体調不良報告
ちょっとした体調不良時に、体温計や大量の薬が映された投稿は、本人がその気が無くてもアピールととられがちです。本当に辛い時はSNSに写真を投稿する余裕はないはずなのに、見た人は心配してしまいます。もし投稿してしまったら、完治した報告も欲しいところです。
そして「インスタ蠅」呼ばわりされないよう、守るマナーもあります。
【1】食事中の自撮り
食事中、口の周りが汚れていたり、口の中に物が入っていたりするタイミングでは、撮影を控えるべきです。私は、食べる前か後に一緒に写真を撮りますが、食べはじめたら食事が終わるまで一切スマホをいじらないようにしています。
【2】禁止ではないけど「ダメ」なところ
公園や駅ホームのベンチに立ったり、座面に足を乗っけたり、また、路上のポールやガードレールによじ登ったりした投稿はやめましょう。エスカレートしていくと「バカッター」のようなトラブルにもつながりかねません。
【3】撮影スポットを独り占め
パワースポットや観光地など人気の高い場所には、多くの人々が訪れ、カメラの数も増えます。記念写真は、撮ってもらう代わりに撮ってあげるという助け合いの精神が大事です。長時間、居座るのではなく、相手を思いやった撮影時間で楽しむべきです。
【1】NYで話題「ICE TOKYO」
冷たい鉄板の上で調理をされたロールアイスが味わえるお店で、撮影用の気遣いとしてオブジェなどが用意されています。また、普段食べるアイスクリームとは違った食感のため、冬場でも鼻に「キーン」とくる冷たさを気にせず食べられます。
【2】ちょっと豪華にアフタヌーンティー
ホテルのロビー、ラウンジでは、三段のケーキスタンドやおしゃれな食器に並んだスイーツがいただけます。ハロウィンやクリスマスには、季節限定のデコレーションや旬の食材が登場し、さらに写真映えします。
【3】焼肉「KINTAN」のアレでお祝い
肉ケーキという、その名の通りきれいに盛り付けられた肉でできたケーキは、サプライズの際に喜ばれます。誕生日といったらケーキというアイデアを覆す、一枚が撮れるでしょう。
【4】ムービージェニックな「DAVID MYERS CAFE」
コットンキャンディーパンケーキは、綿アメにソースを上からかけて溶かして食べるメニューで、溶ける前と溶かした後の2回シャッターチャンスがあります。溶けていく瞬間を動画に撮影するのも効果的です。
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