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「FF」最新版に導入された人工知能の実力 ゲームのAIから見える未来
人工知能(AI)は今年も大きな話題になりそうです。実は、ゲームの世界でもAIの導入は進んでいます。人気ゲーム「ファイナルファンタジーⅩⅤ」(FFⅩⅤ)では、「3種類のAIが使われている」といいます。開発者は今後「プレイヤーの感情を読み取る」時代が訪れると予測します。そして、それはゲーム外の世界へも……。ゲームのAIから見える未来について聞きました。
主人公と3人の仲間が広大な世界を旅する構成となっているFFⅩⅤ。スクウェア・エニックスの三宅陽一郎リードAIリサーチャー(42)=FFXV リードAIアーキテクト=は「3種類のAIが使われている」と説明します。
一つは、仲間や敵が自分自身で意思決定をして行動するための頭脳となる「キャラクターAI」、もう一つは、地形や位置情報をつかさどる「ナビゲーションAI」。そして、ゲーム全体の流れを把握し、状況にふさわしい展開になるように進行を導く「メタAI」です。
例えば、戦闘中に主人公がピンチになった際、3人の仲間全員が主人公を助けようとすると、無駄が生じるわけです。その際、一番手が空いている仲間だけに助けに行かせて、その他の仲間たちからは「任せたぞ」というセリフが飛ぶ。
また、多数の強い敵との戦闘シーンでは、仲間の誰かが「油断するな」と声を掛けてきたり。様々な台本の中から状況に即した台本を選び、映画監督のように各キャラクターに指示を飛ばすことで、プレイヤーが自然な流れでゲームの世界に没入できるようにしています。
このようにゲームにAIが使われるようになった理由の一つとして、内容の高度化があります。
「主人公がある場所に来たら、敵はこう動く」というルールを作る際、単純なゲームであれば、そうするためのプログラミングをすれば実現できます。ただ、クリアするのに何十日間も掛かるような複雑なゲームとなると、開発途中で仕様も次々と変わっていくし、そのたびごとにプログラミングをし直すと、とてもじゃないですが、対応しきれません。
三宅さんは「最初の開発の段階だとAIの方が手間取るのですが、知能を入れた方が後になって全部対応できるので結果として作業が速くなるし、メンテナンスも楽なんです」と語ります。
三宅さんによると、こうしたゲーム内部のコンテンツ作成に関わるAIとともに昨今注目を集めているのは、「ゲームの外のAI」だそうです。
これまでは人間が行っていた不具合の確認作業を代わりにやってもらったり、プレイヤーの操作情報をずっと記録してデータ化し、開発者に提供したりと、開発工程を助けるためのAIのこと。
まだ研究途上な面がありますが、この部分を同業他社や大学などと共同研究することで業界全体の事業費の削減につなげ、本来勝負すべき「ゲームの中身」でより戦いやすくなることが期待されているそうです。
三宅さんはゲーム業界内外の様々なイベントに登壇していますが、その理由もそこにあり、情報共有できる部分は情報共有することで業界全体の底上げに貢献したい、という思いがあるそうです。
ゲームに関するAIがさらに進化すると、どうなるのでしょうか。
三宅さんは、ゲームの中身も、プレイヤーの感情などを読み取って、同じゲームなのに内容が変わっていく形になるのでは、と予測します。
「友達関係に悩んでいる人には友情の物語など、ユーザーが必要な物語を作っていく形になるのでは。YouTubeにアップされるゲームのプレー動画も、みんなが同じ体験をする場合は、誰かが一度アップすれば、他の人がアップする意味がなくなります。しかし、それぞれの人がそれぞれのゲーム体験をする場合、自分自身の思い出や表現としてYouTubeにアップしたくなると思います」
三宅さんは、こうした利用者ごとのカスタマイズはゲーム業界の外でも起こるのでは、と考えています。
自分のスケジュール管理をしてくれたり、弁護士だったら扱っている事件に必要な文章をまとめてくれたり。「それぞれの職業ごとに必要なAIがあると思います。現在のスマホのアプリがAIに変わるようなものなので、ベンチャー企業などのビジネスチャンスになるのではないでしょうか」と指摘します。
ゲームに限らず、AIに関して数々の著作を出している三宅さん。昨今聞かれる「AI脅威論」についてはどう考えているのでしょうか。
まず、「人が来たら銃を発射するためのAI」など軍事面に使われるAIについては、「AIを悪意で使おうとすれば、それはAIが、というよりは人間が悪い、という話だと思います」と指摘します。
「AIは自分で問題や目的を作り出したりすることはできない、というフレーム問題があります。AIは自律性があるために見えにくくなっていますが、AIが何をするにせよ、目的や問題を最初に設定する人間に責任があるのです」。
仕事が奪われる、という点については「実際に自分の仕事が対象になっている人たちからすれば妥当な点もあるにせよ、少子高齢化が進む日本においては人口が減って1人当たりで処理しなくてはいけない仕事は増えるわけなので、AIで補える部分は補うことが必要」と考えています。
最近では、街に住む人全員の顔を認識し、それ以外の人が入ってきたら役所に通報が入る「衆人環視システム」のようなものが実現する可能性もあります。
自動運転技術が進化すれば車に乗って街に入ってきた人が誰なのかも分かります。そこに電子通貨が組み合わさると「この人は危険な可能性があるから、この街ではお金を使えなくさせよう」ということもできてしまいます。
それはある意味、ディストピア(ユートピアの反対)なのかもしれませんが、三宅さんは日本でこそAIと人間の共存がしやすい、と考えます。
欧米では、神は自分が作った人間より偉く、人間は自分が作った人工知能よりも偉い、という上下関係が生じがちです。一方、日本では鉄腕アトムやドラえもんなど人間とともに生きるキャラクターが数多く生まれてきました。
音声合成技術「ボーカロイド」によるバーチャルシンガーの「初音ミク」の楽曲をファンが次々と作ったり、曲に合わせてミクが踊る動画をアップしたり、とそうしたキャラクターを「育てる」文化もあります。
そのような日本特有の土壌を踏まえ、三宅さんは、AIとの向き合い方について、次のように語ります。
「20年前はコンピューターを使いこなした人が勝つと言われ、10年前はインターネットを使いこなした人が勝つと言われたように、今はAIを使いこなした人が勝つ、という話。だから、こうした発想を持っている日本にとってはチャンスなんです。人工知能とは何かを理解して、何に使えて何に使えないかをはっきりさせること。そして、人工知能をいかに使いこなせるか、という立場の方向を目指すことが重要だと思います」
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