地元
「オタなめんな」と言われた鴨川 「聖地失敗例」の誤解と成功
アニメの舞台に大勢のファンが訪れ、経済効果も期待される聖地巡礼。聖地は全国各地に広がっています。その一つ、千葉県鴨川市は、かつてネットで「あざとい」とたたかれ、一部のネット民に「オタなめんな」と言われ続けました。そんなうわさとは裏腹に、2012年に放送されたアニメ作品が地元に根付いていました。冬のコミケがスタートした今、「聖地失敗例」の真相を探りました。
鴨川といえばシーワールド……ですが、実は2012年に放送されたロボットアニメ「輪廻のラグランジェ」の舞台でもあります。アニメをざっくり説明すると、女子高生がロボットに乗って、宇宙から来た敵と戦い、地球を守る青春ストーリーです。
今年の夏にアニメツーリズム協会が発表した「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2018年版)」の一つにも選ばれました。
そんな鴨川が、なぜたたかれていたのでしょうか?
地元でラグランジェのイベントに携わる「輪廻のラグランジェ鴨川推進委員会」の岡野大和委員長は、「『鴨川が聖地を狙っている』と報道され、『鴨川がストーリーに介入した』という誤解が生まれた」と分析します。
というのも、鴨川は2011年の製作発表のときから、アニメの舞台として名前が出ていました。すでに聖地巡礼で話題になっていた「らき☆すた」の埼玉県鷲宮町(現・久喜市)や「けいおん!」の滋賀県豊郷町は、ファンの間で「ここが舞台のモデルでは?」と盛り上がった地域。当時は製作委員会や地域側が公式にロケーションを明かすことは珍しかったといいます。
「鴨川が『取り上げて下さい』とアプローチしたという声もありますが、全くの錯誤です。知らないところで、鴨川を舞台にしたアニメの制作が進んでいました。介入する余地は全くありません」と岡野さんは話します。
ただ、アニメの各話タイトルに毎回「鴨川」と入ったり、名所が取り上げていたりしたために誤解が広がり、ネットでは「あざとい」「オタなめんな」とたたかれる始末。2012年3月、聖地巡礼を取り上げたNHK「クローズアップ現代」で、鴨川が「アニメの内容に自治体・住民が関わる」事例として紹介されたこともあり、マイナスイメージが定着したようです。
「作品性やストーリー性以前に、一部の人たちにレッテルを貼られ、当時は『あざとい』『オタなめんな』というのが一人歩きしてしまいました」(岡野さん)
それにしても、「あざとい」「オタなめんな」とはすごいインパクトです。
推進委員会が意図しない評価に、一時ショックが広がりました。
でも、ネットの声は一部の人の声。地元は、実際に来てくれるファンを大切にしようと割り切って活動に力を入れました。
「自分の好きな作品がネットでいろいろ言われちゃうので、我々とファンと製作委員会の結束力がだんだん強くなるわけですよ。今、製作、地域、ファンの三位一体で、すごく強い関係ができています。ほかの作品と比較しても、こういう事例は稀有」と胸を張ります。
しかも、逆風にさらされてできた関係から、聖地の新しいスタイルも作られました。
イベントで登壇する監督にファンが質問する光景はよくありますが、その後が鴨川スタイル。懇親会で監督とファンが同じテーブルを囲み、お酒を飲んで語ることもあります。
「ファンは『どういう思いで描いたんですか』とか、『このシーン、僕はこう思っているんです』というようなトークが監督と直でできちゃうわけです」と岡野さん。筆者も一度参加しましたが、周りには監督、地域の人、コアなファンたち……と関係者ばかり。こんなに嬉しいことはないだろうなと思いました。
岡野さんは、ファンから「こういうイベントを求めていた」「よくやってくれました」と言われ、自信がついたそうです。
ラグランジェのファンは、ほかの聖地も訪れている人がほとんどです。鴨川はほかの聖地と比べ、「地域との密着度がすごい」「キャラ立ちしている」と評価します。
鴨川を失敗と位置づける人の基準は、DVDの売上やイベントの集客数。確かに爆発的にヒットしたわけではありません。でも、ファンの一人は、「数字だけを見て失敗と決めつけちゃう人がいっぱいいる。(「ガールズ&パンツァー」の聖地・茨城県)大洗とはキャパシティが違うんです。メートルとマイルで計っちゃダメなんです。成功の基準は一つじゃない」と話します。
アニメの放送が終わっても続く三位一体の関係、ファンの満足度をみると、本当にここが失敗例とたたかれた場所なのか? と思います。
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