連載
#17 夜廻り猫
自由な髪型って…「自然が一番」ですか?「夜廻り猫」が描く個性
「自分に足りないものや表したいものができたら、きっと分かる」。奇抜な髪形やファッションで、寒さに耐えても示したいことは……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが、「個性」を描きました。
泣く子はいねが~。一人泣く子はいねが~。
涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵は、きょうも子猫の重郎とともに夜回りに出かけます。
ふと重郎が「へんなかたちのひとがおる」と前を歩く人に気づきました。
細身のパンツとジャケットに身を包み、頭の半分は刈り上げて、横に流した長い髪の毛を整髪料でかためています。
遠藤は、重郎に「あれは毛をかためて作るらしい 丁寧に作ったものが誰かを幸せにすることもある」と伝え、
「寒いだろうなぁ 我慢してでも表したいものがあるのだろう」とおもんぱかります。
「つよいな」「そうだなぁ」。ふたりはつぶやくのでした。
そんな会話がずっと聞こえていた「へんなかたちのひと」は思わず振り返って、
「あのさ、いっそ直接 言ってくんない?」と話しかけます。遠藤たちは照れながら笑顔であいさつするのでした。
作者の深谷さんは、生まれつき茶髪の高校生が、学校の先生から黒く染めるよう何度も指導されたニュースを目にしていました。
深谷さんは「みづくろいについては、好きな格好をするのがいいなと思うんです。
こだわりがあっても、なくてもいい。男装でも女装でもいい。
『こうしたい』という気持ちは認めたいし、そんな『思い』以前の自然の姿は、それ以上に認めなければならないと思います」と話します。
この黒染め強要問題がとても気になっていたそうです。
「人が生きていけるようにすることが教育で、自分や他人の多様性を受け入れられるようになるのが成長だと思います。
自分に自信を持って、他人のことも認められるように。そんな方向を目指していってほしいです」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
11月22日から12月5日まで、三越日本橋本店で「夜廻り猫のクリスマス」展が開かれました。
夜の公園で開かれる「野良猫たちのクリスマスパーティー」をイメージした展示。マンガに登場するキャラクターにあわせ、ワカルはプリン、ニィはおにぎりなど、カラフルなオーナメントでツリーが飾り付けられました。てっぺんに猫たちのあこがれの「サンマ」が飾られたクリスマスケーキもありました。
自動販売機に並ぶドリンクにもキャラクターが描かれていたり、その下には10円玉が落ちていたり……。あちこちに思わずほほえんでしまう演出がたくさんありました。
会場はおおにぎわい。深谷さんが連日、中央に飾られていた絵でライブペインティングを披露しました。
初日には、遠藤平蔵ひとりだった絵。どんどん仲間が増えていきました。まるで絵をみている自分に向かって、遠藤たちが駆けてきてくれているようです。
深谷さんは「こんなにたくさんの人に来て頂けるとは思ってもみませんでした。本当にありがたくて、夢のようです」と話していました。
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