お金と仕事
「最低な会社の辞め方」1年のブランク、覚悟できてる?
転職や自分で会社を起業することが珍しくない時代です。三菱商事からアサツーディ・ケイ(ADK)など複数の広告会社を経て、ベンチャー企業を立ち上げた加藤公一レオさんは、社長として何人もの転職者を「送り出して」きました。そんな加藤さん、自分自身の経験も踏まえ、転職や起業には注意点があると言います。11月23日は勤労感謝の日。加藤さんに「転職や起業を考えるときに必要な四つの視点」について語ってもらいました。
お世話になった会社を去る場合は、誠実に話し合い、会社や同じ部署の仲間の状況を踏まえて、双方納得のいく形で退職時期や“引き継ぎ期間”を折り合うべきである。“引き継ぎ期間”を十分に設けて後任にしっかり仕事を託すこと、そしてお世話になった仲間への恩返しする姿勢がない人は、その後のビジネスライフで大成功するはずがないからである。今まで一緒に働いた仲間を強引に捨てる人に、次の仲間を大事にできるわけがないからだ。
本コラムの前編で、残された仲間への“仁義”を通さない「最低な辞め方」だけはするな!とお伝えした。
私自身は“夢や目標”を求めて何度か転職をしたし、起業をした人間だが、「最低な辞め方」は絶対にせず、残された仲間への“仁義”を通してきた。そのかい甲斐があってか、今でも前職の会社の人たちとは仲良くさせてもらっているし、それが現在の仕事につながっていることもかなり多い。
きちんと後任をたててしっかりと引き継ぐ“立つ鳥後を濁さず”であることが大切だ。ちゃんと筋道をつけて、今まで一緒にやってきた仲間に対して仁義を通した方が、転職や起業後のビジネスライフにおいて一番大切な人脈・信用・成長につながる。繰り返しになるが、「会社の辞め方」において一番重要なことは“仁義”を通すことなのだ。
それを踏まえた上で、今回は、転職や起業を決めたあなたが、さらに考慮すべき四つの視点についてお伝えしよう。
まず、大前提として、転職や起業したことによって得たかったものを必ず手に入れないとキャリアアップとしては大失敗である。
普段の仕事をしながら、普段の仕事以上に頭をフル回転させて、業界全体のことや、自分の今までやってきたこと、今度やりたいこと、自分自身の市場性など調べたり、試したり、考えて抜いて会社を去らなければ、その選択は“失敗”に終わる。
転職や起業がしやすい社会になったため、それ自体のハードルは下がっているのだが、安易に転職を繰り返して泥沼にハマっていく人や、新しい環境になじめず「うつ」になる、ジョブホッパー化してキャリア形成が全くできない、給料が長期的に上がっていかないという人をこれまでたくさん見てきた。起業となればなおさらだ。最初はとにかく金がかかるし、何が何でも成功するという気合がないのであれば、会社を去るべきではない。その意思決定が、自分自身を本当に成長させるのか、自分自身の名前で仕事が取れるような本当の“安定”につながるのかを考えるべきである。
転職をすると、当然ながら「人間関係」「キャリア」「業務内容」が変わる。これまで習得していたスキルや仕事のやり方、会社のルールやうまく仕事をやるためのコツなどが、少なくても4割、多ければ8、9割は覚え直しになる。起業であれば、それまでスタッフに任せっきりだったことも、最初は全部自分でやり切らないといけない状況が発生する。
つまりは、会社を去る前と後では必ず「つなぎ目」が生じる。“引き継ぎ期間”を十分に半年設けて、仲間から応援されるような円満退職がかなったとして、新たな職場に慣れていくための時間が半年かかるとすると、その「つなぎ目」は“1年以上”、人によってはそれ以上のブランクとなるのだ。
この前後1年くらいの低パフォーマンス期がキャリア形成にどう影響するのかをしっかり考えて転職や起業を検討すべきである。ブランクが明けたとしても、すぐに絶好調とは行かないだろうし、転職先、起業後の業務内容を覚えたからといって、前職と同じように腕が振るえる保証はどこにもないのである。
もしあなたが、今いる会社にそのままいた方が継続的にキャリア形成できるのであれば、転職や起業に踏み切るタイミングとして適切ではない可能性がある。
仕事で突き当たるネガティブ要素は、会社が変わっても解決しないことが多い。なぜなら、会社を移っただけでは、自分自身のスキルや価値、問題解決能力は変わらないからである。
例えば、「仕事がキツイから辞める」という理由で会社を変えようとしても、根本的な経験値や才能が変わるわけでもないので、結局は同じ問題に突き当たる。「上司がムカつく」という理由で会社を去ったとしても、上司をコントロールするスキルがなければ、その問題は解決しない。嫌な上司はどの会社にもいる可能性があるわけだから、結局は同じ理由で会社を辞めるということになる。
ネガティブ要因については、いつか乗り越えないといけないのだ。ちゃんと向き合わないと逃げ続けることになるし、一度逃げ癖がついてしまうと、転職や起業をしても成功することはできない。目の前にある仕事に全力で打ち込めないような人は、結局どの職場に変わっても決していい仕事はできないのだ。会社への愚痴・悪口、不平不満をもらすぐらいなら、どうすればその状況を打開できるかをしっかり考えて、会社をよくするための改善を図るべきだ。
「つなぎ目」の話とも関係するが、新しい会社に入社、もしくは起業をして、新しい人間関係ができて、基本的な仕事やルールを覚えて組織内で認められるには、どれだけ早くても“半年以上”はかかる。仕事に慣れてきて初めて、新しい挑戦を始めたり、その組織のコンセプトや価値観を自分の身につけると考えると、ミドルプレーヤーとしてバリバリ活躍している30代のプレーヤーであっても2年はかかるし、新人や20代の若手プレーヤーであれば、もっと時間がかかる。
石の上にも3年という言葉があるが、少なくとも2年、できれば3年以上はひとつの仕事を続けるべきだ。仕事に慣れないし自分には合っていない、という理由で転職を図る人間もたくさんいるのだが、しっかりとスキルを身に付けるに十分な時間があったのかどうかを考えるべきである。継続して初めて見える世界もあるし、仕事の楽しさもある。1、2年でどんどん職場・仕事内容を変えていく人に、本当の実力はつかない。
最後になるが、私が言いたいことは結局、残された仲間へ“仁義”を通してかっこよく去ること、そしてその転職や起業が“夢や目標”に向けたポジティブな理由であること、この2つである。それが、あなたの新しいビジネスライフを絶対に豊かにするし、成長するし、大成功するし、みんなから応援される人になるために絶対に必要なことなのだ。
自分はどうせ退職するから…といって、面倒くさそうな様子を見せたり、自分はもう関係ないから…というような態度を出すと、誰も応援してくれない。ましてや、会社の悪口なんてもっての外である。そうした行動はあとになって絶対に自分に返ってくる。これは経験側上、絶対にそうなると断言できる。
多くの人が様々な理由で転職や起業を志す時代だ。その人の人生を決めるのはその人だから、起業だろうがなんだろうが、何をしても構わない。自分の責任で決められる時代だからこそ、転職や起業志望者に以下の言葉を贈りたい。
転職や起業に対してポジティブな社会的後押しがある中で、せっかくならばやりたいことを全力でやるべきだし、最強のビジネスマンになってほしい。そういう思いをもって、今回、勤労感謝の日に合わせて「会社の辞め方」についてお伝えした。
会社を去ろうとする理由、それって「逃げてないか?」ということ、これまで育ててくれた上司や仲間が自分のことを応援してくれるような“仁義”を通したものであったかどうかを、自分の心に再度問いかけてみてほしい。あなた自身の“夢と目標”を心から応援してくれる人へ、その夢の実現を報告できるようなビジネスマンになってほしいと願っている。
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加藤公一レオ(かとう・こういちれお)1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、大手総合商社の三菱商事入社。大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立。
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