連載
#3 おじいちゃんの方眼ノート
町工場の『奇跡のノート』、大手が量産化して発売 社長の夢が現実に
下町が生んだ「奇跡のノート」。ショウワノートが量産化した商品が発売されました。
昨年の正月に話題になった「おじいちゃんの方眼ノート」。特許をとったものの数千冊の在庫を抱えていた小さな印刷所の手作り商品が、ツイッター上で拡散。在庫が一掃して新たな注文が続々寄せられました。そんな商品の「量産化版」が大手文具メーカーから発売されました。「この技術を受け継いでくれる会社が現れてくれたら」と話していた印刷所社長の夢が実現したのです。
元祖である「方眼ノート」を作っているのは、東京都北区にある中村印刷所です。
社長は中村輝雄さん(74)。近くで製本業を営んでいた男性が店をたたんだのをきっかけに、見開いたときにきれいに水平に開くノートの開発に2人で取り組みました。
2年間かけて完成させたのは、コピーやスキャンした時に真ん中に黒塗り部分が入らず、見開きのギリギリまで書き込むことができるノート。この製造方法に関して特許もとりました。
性能は評価されましたが、なかなか売れません。大量発注の話があって作ったものの、実際の注文には結びつかず、数千冊の在庫を抱えていました。
「使ってもらえば、良さがわかってもらえるのに」。自分が作った在庫を見て罪悪感を感じていた男性は、「これ、学校の友達にあげてくれ」と孫娘にノートをまとめて渡しました。
受け取った孫娘は「学校じゃ、あんまりノート使う人いないしなー。そうだ、ツイッターでやりとりしてる絵描きさんとか喜ぶかも」と思い、軽い気持ちでツイッターにノートのことを投稿。
すると、使い方を指南してくれたり、今すぐ買える量販店を教えてくれたり、多くの人たちがコメントを寄せてくれて拡散し、ネットメディアや新聞、テレビに取り上げられて在庫は一掃。一気に人気商品になり、銀行からは融資の申し出まで来ました。
当時、中村さんはこう話していました。
「私たち2人の目が黒いうちは作り続けます、でも限界があります。この技術を受け継いでくれる会社が現れて、一人でも多くの人にノートを使ってもらえたら、というのが私の願いです」
ショウワノートの開発部で「ジャポニカ学習帳」を担当している小原崇さん(38)は、思わずこの記事に見入りました。「ぜひショウワノートにお手伝いさせていただきたい」。
中村印刷所に何度も通い、ときにはショウワノートの工場長も連れて、提携に向けて話し合いを重ねました。そして昨年6月、中村印刷の技術を採り入れたノートをコラボ商品として作ることが決まり、開発が始まりました。
完成した商品は「水平開きノート」と命名されました。
見開きできるメリットを最大限に生かそうと、子ども向け学習帳に。きれいに開いて使いやすい点に加えて、「黒板の板書をそのまま写せる」「見開きで図や表が大きく書ける」「定規が使いやすい」といった点を前面に押し出しています。
小原さんは「中村印刷所の技術と思い、ショウワノートの持つ製造と販売のインフラを活かして、勉強のやる気が出てくるノートとして、広めていきたいと思います」と話します。
大量生産するにあたって、きれいに見開けるノートを安定して作れる技術を確立するのに時間がかかったというこのノート。中村さんはこう話します。
「待ちに待って、ついに完成しました。ショウワノートさんが作ってきてくれた試作品にも2度ほどNGを出して、納得できるものができました。一人でも多くの子どもが『ノートを開くのが楽しい』『勉強が好きになった』と思ってくれたら、うれしいです」
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