話題
辛酸なめ子さんが見た選挙「その時まで日本があれば…」募る不安
選挙カーからは、国の安全や将来への安心を訴える声が聞こえてきます。コラムニストの辛酸なめ子さん(43)は、そんな選挙の風景を「その時まで日本があれば……」と、ドキッとするような視線で眺めているそうです。20代、30代、40代の女性が抱える不安って何か、つづってもらいました。
将来には、漠然とした不安が立ち込めています。先日、20代、30代の女性と話していて、10年後も今の仕事を続けていきたいかという話になりました。思わず「その時まで日本があれば……」と答えたら、「将来、見えないですよね」と若い女性たちに同意されました。フリーで働いている人はその時に応じて、仕事が終わったり、また依頼が来たりしますが、安定的なはずの就職をしている人も、終身雇用という考えがなくなりつつあるので油断できません。
欧米のように自分をスキルアップしてキャリアを変えていく、という方向になっています。一見華やかですが、戦い続ける戦士のような人生です。ライバルとしてAIが台頭してくるかもしれないし、いつ仕事がなくなるかわかりません。一部の、向上心にあふれて体力のある人だけが勝ち残り、格差が広がっていくのでしょうか。うわべだけでも成功している体を装いたい人は、ますますインスタ映えを目指していくのかもしれません(そしてそれをやっかむ人がSNSを炎上させ、さらに窮屈な監視社会に……)。
さらに、女性は活躍しろとか、出生率を上げろとか、国からのプレッシャーもあります。朝日新聞が「わたしの未来」をテーマに読者から募集した投書にも、活躍して出産して保育の環境は自分で何とかしろなんて、勝手が過ぎる、という20代女子大学生の意見があり、共感しました。
全て手に入れている人は本当に一部の運や体力やチャンスに恵まれている人なのですが、あまりにもそういう人にスポットが当たりすぎているように思います。独身だったり、子どもがいなくて人口増加に貢献できなかったりしても、少しでも世の中に役に立とうと地道に働いている人が認められる世の中になって欲しいです。
自分を含めて、フリーや契約社員という比較的不安定な立場の人が周りに多いので、意見を聞いてみました。
出版社の契約社員の30代女性は「非正規雇用なので常に心配です。上がすり替わったら首が飛んでしまいます。仕事をセーブして良いと言われていますが、セーブしたらさぼっているように思われて他の人に仕事を取られるかもしれず、怖くてできません。夫婦合わせた収入で生活費がギリギリなので、もし離婚にでもなったらやっていけません」と、不安だらけの心情を語ってくれました。
彼女は「選挙は誰に入れればいいかわからない」とも言っていました。朝日新聞の「声」欄の投書でも「空虚なスローガン」だという言葉があり、たしかに、どの政党も目の前にエサをぶらさげているような公約が多くて、実現率は低そうです。
「花粉症ゼロなんてどうでもいいです」と言うのは、20代の音楽関係の仕事をしている女性。収入が安定していないため、親族の持つ家に引っ越したそうです。夢をかなえるためには、自力で何とか日常の不安を解消させていくしかありません。彼女は理想の未来について「大学時代、こうあるべきみたいな常識がつらかったので、根本的な考え方が変わったら良いです。就職活動していないだけで変人扱いされ、肩身が狭かったです」と話してくれました。
最近、世の中の風潮がまた保守的になっているので、個性が強いと生きづらくなってしまっています。周りの目を気にして歩調を合わせ、少しでもはみ出したり目立つことをしたりすると、バッシングされる世の中になりつつあるのでしょう。メディア関係の人と話していると「昔はこんなことで炎上しなかった」と遠い目になったりして、年寄りのぼやきという一面もあるかもしれませんが、実際に昔の方がのどかでした。やはり先行き不安な人が多くなり、精神的な余裕がなくなってしまったのでしょうか。自分の内面をまず穏やかにして、その平和な波動が外界に放射され、外の世界も変化していく、というのが理想です。
とはいえ、老後のことを考えるとどうしても不安になってしまいます。10月16日の朝日新聞に掲載された「わたしの未来」のアンケートの途中経過を見ると、自分の暮らしに満足している人が過半数という結果でした。でもそれが30代、40代になると前述のように不安が増大し、私のようにお守りや神社仏閣などスピリチュアルに頼る女性も少なくありません。国が頼りにならないので神様に頼る、というとプリミティブですが……。
1/20枚