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#3 ざんねんじゃない!マンボウの世界

マンボウ 最弱伝説より衝撃「骨格の謎」お腹スカスカ 尾びれもない!

マンボウの骨格の図(左:資料提供 海遊館)とマンボウ(PIXTA)
マンボウの骨格の図(左:資料提供 海遊館)とマンボウ(PIXTA)

目次

 ネット上で定期的に出現するマンボウ談義ですが、その中でも衝撃的だと話題になるのが「マンボウの骨格」。お腹や背中まわりには骨がなく、いわゆる普通の魚の尾びれがありません。「弱そう」「実在する動物と思えない」「鳥っぽい」、さまざまなコメントが集まります。どうしてこんな骨格なのでしょうか? 魚類の骨格に詳しい専門家に聞いてみました。
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【関連記事】マンボウ最弱伝説はウソ 「ジャンプで衝撃死」「太陽光で死ぬ」 素早く泳ぐ姿も

マンボウを探して

 訪ねたのは、国立科学博物館の筑波研究施設。国立科学博物館といえば上野、ですが、動物や地学などの研究部や標本・資料を収蔵する施設がつくば市にあるのです。

 マンボウを中身まで知りたい! 動物研究部・脊椎動物研究グループの研究主幹、篠原現人先生に、マンボウの骨格の謎について伺いました。
国立科学博物館の篠原現人先生。マンボウの液浸標本を見せてくださいました=茨城県つくば市、野口みな子撮影
国立科学博物館の篠原現人先生。マンボウの液浸標本を見せてくださいました=茨城県つくば市、野口みな子撮影 出典: 撮影協力 国立科学博物館
 マンボウとは、マンボウ科マンボウ属の魚類のことで、魚の体が半分なくなったような、不思議な形が特徴的です。

 日本や世界の幅広い地域に生息しており、水族館でも人気の魚なのですが、食べることもできます。以前、三重県の道の駅でマンボウの串焼きを食べたことがあるのですが、白身魚より弾力があって、鶏肉に近い感じがしました。

衝撃の骨格はこちら

 成長すると3m近くにもなるというマンボウは、標本にするにはスペースも費用も必要で、あまり多くの標本は作られていないそうです。書籍の骨格図を紹介してもらいました。
マンボウの骨格図
マンボウの骨格図 出典: 資料提供 海遊館
 顔の周りに骨があるだけで、お腹や頭の後ろにはありません。上下に伸びた「ひれ」はまるで鳥の羽よう。

 いわゆる一般的な魚が持つ、後方に長細く伸びた「尾びれ」がないことも、不思議さをふくらまします。

 一体どうしてこんな姿になったのでしょうか。

マンボウの進化、フグから影響

 自然界の生物は、他の生物に食べられないように、さまざまな進化を遂げてきました。毒を持ったり、周囲と同化できる外見になったり、生き残るために時間をかけて姿を変えてきました。

 マンボウはマンボウ科マンボウ属と紹介しましたが、これは「フグ目」という上位の分類単位に属しています。マンボウは実はフグの仲間で、その中でも進化している魚なのです。

 簡単にいうとマンボウは「進化したフグ」。マンボウの骨格は、祖先であるフグの進化に大きく影響を受けていました。
水玉模様のウシマンボウ =2006年6月17日
水玉模様のウシマンボウ =2006年6月17日 出典: 朝日新聞
 ではフグはどのように進化してきたのでしょうか?

 体の小さな魚は、口の大きな魚に「丸のみ」という形で捕食されてしまいます。

 丸のみされないために、フグは捕食者の口よりも大きくなれるように進化を遂げます。そう、水を吸い込んで自分の体をふくらます能力を得たのです。

 この時、ポイントになるのは骨です。骨があるとふくらむ時に邪魔なため、フグには腹びれやそれを支える骨など、お腹まわりには骨がありません。
マンボウの腹部。骨がありません
マンボウの腹部。骨がありません 出典: 資料提供 海遊館
 篠原先生は「マンボウは『体が大きく成長する』という才能を持ったため、ふくらむ必要はありません。しかし骨格はフグの姿を受け継いで、お腹まわりには骨がないのです」と説明します。

 マンボウのお腹には内臓、背中には筋肉が詰まっているのですが、骨がないとその部位がなんだか弱そうです。

 「マンボウは皮膚が強くはありません。特別硬いウロコやトゲなど、武器を持っている訳ではないので、かじられたりするのには弱いかもしれません。ただし、生き残るため、丸のみされないように進化したことの方が重要だとみています」

マンボウの骨格「かなり変わっている」

 「マンボウの骨格は、魚の中でもかなり変わっている」と話す篠原先生。「他の魚と大きく異なるのは、『尾びれがないこと』です」。

 いわゆる普通の魚は尾びれの付け根をくねらせることで泳ぎますが、マンボウの祖先にあたるフグは、尾びれだけではなく、背びれと臀(しり)びれも使って泳ぐことができます。これらのひれを使って、ヘリコプターのホバリングのように、方向転換ができるようになりました。

 マンボウで、尾びれのように見える部分は「舵(かじ)びれ」と呼ばれ、最近の研究で、背びれと臀びれが延長した構造であることがわかってきたそうです。マンボウが前に進むために使っているのは背びれと臀びれで、「舵びれ」は方向転換するために使用します。
ヤリマンボウの子ども。属は「マンボウ」と異なりますが、成魚の形はマンボウによく似ています。子どもは体の周りがトゲトゲしています。いわゆる「マンボウらしさ」はまだありません
ヤリマンボウの子ども。属は「マンボウ」と異なりますが、成魚の形はマンボウによく似ています。子どもは体の周りがトゲトゲしています。いわゆる「マンボウらしさ」はまだありません 出典: 撮影協力 国立科学博物館
 マンボウにどうして尾びれがないのかはわかっていないといいます。フグ目からの進化の過程を知りたくても、間にあたる魚の存在が不明です。

 言えることは、背びれと臀びれで泳げるのはフグの子孫ゆえ。篠原先生は「尾びれがなくなっても泳ぐことができる、という進化を遂げたと考えた方が自然」と話します。
やや成長したヤリマンボウの子ども。形はマンボウに近くなってきましたが、背びれや臀びれがまだ小さいです
やや成長したヤリマンボウの子ども。形はマンボウに近くなってきましたが、背びれや臀びれがまだ小さいです 出典: 撮影協力 国立科学博物館

ジャンプする理由も…

 マンボウについて「わからないことの方が多い」と話す篠原先生。産卵する卵の数など、繁殖に関することなどはまだ不明だといいます。

 マンボウと言えば、海面からジャンプするという特技を持つことが有名です。体の寄生虫を落とすためという見方が強いそうですが、ジャンプする理由はよくわかっていません。

 今年7月には、日本とオーストラリアなどの国際共同研究チームによって新種のマンボウが発見されました。DNA分析で新種の存在が示唆されていたものの、実物を探し出すのにおよそ10年かかったそうです。
【関連記事】新種「カクレマンボウ」見つけた 日豪、捜索10年(朝日新聞デジタル)
 「マンボウのように、有名な割にわからないことが多い魚はまだまだたくさんいます」という篠原先生。

 見た目と中身にギャップがあるマンボウですが、より進化した魚だったとは驚きでした。謎の多い生き物の世界、更なる発見が楽しみです。

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