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エンタメ

芸人泣かせ「食レポ」の舞台裏“一発屋”芸人、髭男爵を襲った肉爆弾

有難く、そして厄介な仕事でもある『食レポ』。“一発屋”髭男爵の山田ルイ53世さんは、六軒回り七品の肉料理のうち四品が豚肉という日もあったという
有難く、そして厄介な仕事でもある『食レポ』。“一発屋”髭男爵の山田ルイ53世さんは、六軒回り七品の肉料理のうち四品が豚肉という日もあったという 出典: サンミュージック提供

目次

 “一発屋”芸人には、有難く、そして厄介な仕事でもある『食レポ』。料理を口にした瞬間、周囲の注目が集中する。その緊張感は、もはや『大喜利』。「思ったよりしつこくない!」「あっさりしてるけどコクも!」。必殺“逆張り”メソッドで切り抜ける。駄目押しで「俺……買ってかえろ―!」。噓ではない。念のため。(髭男爵 山田ルイ53世)

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“甘味ブワ―っと”水道水

週に一度、甲府を訪れる。
山梨放送(YBS)の昼のラジオ番組、そのパーソナリティーを担当しているからである。
三時間半の生放送と大役だが、仰せ付かって早五年……有難い。

その日の中継コーナーは、“利き水”企画。
水道水と地元の名水が満たされた二つのコップを飲み比べ、名水の方を当てるという趣向である。

中継先のリポーター の若い女性が、最初のコップに口を付けると、
「うわー……これ凄いですー!甘味がブワ―ッと広がってー……」
彼女のコメントをスタジオで聞く僕の頭を、
(“甘味がブワ―っと”は流石に言い過ぎなんじゃ……)
と一抹の不安が過ぎった。

万が一、感想が本当なら、それはもはや水ではない。
砂糖水かシロップの類である。

続いて二つ目のコップ。
「あー、此方は仄(ほの)かな 甘みが!あと酸味もありますね―」
最初が名水と目星を付け、コメントの差別化を図ったプロ意識は天晴れだが、とにかく、甘味は外せない模様。

少し考えた後、彼女は、
「名水は一つ目のコップです!」
と自信満々に回答するも、正解は二つ目。

“甘味ブワ―っと”のコップの正体は、水道水という結果になった。
いずれにせよ、周辺住民の健康状態が気掛りである。
 恐らく、全員、糖尿病を患っているに違いない。

“利き水”企画で「甘味がブワ―ッ」と広がった水道水
“利き水”企画で「甘味がブワ―ッ」と広がった水道水 出典:https://pixta.jp/

「本当に、味判ってんの?」漂う緊張感

昼のワイドショーのお料理コーナーや、人気タレントが“街ぶら”するロケ企画。
日本全国の名物料理を紹介するバラエティー番組。
夕方のニュースの箸休め、行列のできる飲食店特集……全てに付き物なのが、食事シーンである。

有名人やリポーター が、様々な料理に舌鼓を打ち、
「週末のデートは、あの店に行こう!」
「今度の旅行は○○県で決まりだな!!」
お茶の間の皆様の食欲を刺激すべく、味の感想を述べる。

所謂、『食レポ』と言うやつ。

かくいう僕も、体重100キロ超の太った外見のおかげか、“一発屋”となった今でも、年に数回その手の仕事が舞い込む。
有難いのだが、正直、別段得意でもない。

食レポのロケは、美味しそうに食べる姿とコメントが肝。
よって、カメラに映っていない時に食べたり、全員が口々に感想を述べたりする 行為は御法度である。
原則、一人ずつ。

自然、料理を口にした瞬間、演者、スタッフ共に声を潜め 、皆の注目が一人に集中する。
漲る緊張感、漂う雰囲気は、『大喜利』のそれに近い。
実際、的外れなコメントをすれば、如実に“スベッた”空気に包まれる。

着地点を見失い、長々とコメントしている時の心境たるや、リポートというより、もはや、言い訳。
(うわー、何か尤もらしいこと言って!ホントに味判ってるの!?)
そんな周囲の心の声が聴こえてきそう……勿論僕の妄想だが、あながち間違いでもない。

食レポのロケ、漂う緊張感は、もはや『大喜利』
食レポのロケ、漂う緊張感は、もはや『大喜利』 出典: 朝日新聞

コメントの説得力は、タレントの格に比例

味覚も人様並みだし、食べ歩きの道楽もない。
美味い不味いくらいの判断は付くが、まあ、それだけ。
何より、食レポで重要な、説得力の部分に不安がある。

と言うのも、自他共に認める食通キャラ、あるいは、卓越したリポート技術と、『宝石箱』、『まいう―』等の必殺技を併せ持つ、レジェンドの先人達を除けば、コメントの説得力は大抵の場合、タレントの格に比例するからである。

単純な話、
「○○一押し!激ウマふぐ料理!」
「△△が絶賛!松阪牛のハンバーグ!」
煽り文句の○○や△△部分に入るのが、コウメ太夫や髭男爵ではネガティブキャンペーンになりかねないということ。
やはり、“売れっ子”や“大御所”の名が相応しい。

大体、“一発屋”が、
「おー!舌の上で脂がサラリと溶けて、肉がホロリと……」
唐突に、海原雄山気取りで食を語っても、ギャグにしか聞こえぬ。
結果、僕の食レポは見よう見まねの無難なものに終始することが多い。

『レジェンド』石塚英彦さんの笑顔
『レジェンド』石塚英彦さんの笑顔 出典: 朝日新聞

「ウマッサ―ンス!」叫んでも虚しいだけ

まず一口食べると、
「お―――!!」
「うんうん!!」
などと頷いてみせ、次の瞬間、目を大きく“カッと”見開き、
「旨い!」
「おいしい―――――!」
と満面の笑みと共に第一声を言い放つ。

旬の“売れっ子”なら、自分のギャグやフレーズを絡め場を盛り上げることも可能だが、当方一発屋である。
今さら、
「ウマッサ―ンス!」
などと、叫んでも虚しいだけ。
新鮮な食材を前に、賞味期限切れの言葉を撒き散らすのも申し訳ない。

とにかく、ディレクター氏のオッケーを頂けるまで何かしらゴチャゴチャと喋り続ける。
詰まる所、食レポでは、下っ端ほど口数が多い傾向にあるようだ。

今さら、「ウマッサ―ンス!」などと叫んでも虚しいだけ…
今さら、「ウマッサ―ンス!」などと叫んでも虚しいだけ… 出典: サンミュージック提供

“ギャップ萌え”食の世界でも上策

スイーツ系なら、
「女性が大好きなヤツですね―!」
甘いものは女性の領分……些(いささ)か時代錯誤の認識にも思えるが、食の世界では未だ現役。
十分通用するが、反対に、
「甘さ控えめで、男性でもぺロリといけますね―!」
と言ってみるのも良い。

漫画やドラマで散見される、“不良が子犬を助けた”的筋書きは、食の世界でも大人気である。
今風に言うと、ギャップ萌え……要するに、“見た目によらず”というやつ。

いかにも脂っこい、濃厚コッテリな料理の場合は、
「あーでも、思ったよりしつこくない!」
「いや、見た目と違って、全然あっさりしてますー!!」
豚骨ラ―メンなどは、大体これでケリが付く。

逆に、あっさりが売りの料理なら、
「あーでも、結構コクもありますね―!!」
といった具合。
基本、“逆張り”すれば、大きく外すことはない。

大人向けの一品には、
「お子様でも大喜び!」
子供向けなら、
「大人も十分満足出来る!」
でオッケー。
『見た目と違って』、『思ってたより』……食レポで頻繁に耳にする枕詞。

よく考えれば、自分の目の節穴ぶりと、思い込みの激しさを露呈しているだけのように思えるが、大丈夫。
有効である。
「今まで○○苦手で食べれなかったんですけど、これはいけますー!!」
長年の偏食が突如改善される……そんな奇跡を演出するのもウケが良い。

基本、“逆張り”すれば、大きく外すことはない?
基本、“逆張り”すれば、大きく外すことはない? 出典: サンミュージック提供

“鼻からスッと抜けて、後から追いかけ”れば問題ない

地方ロケでは、珍味の類を食し、コメントを求められることも少なくない。
一言では表現し難い独特の風味が特徴だが、恐れることはない。
「うわー!これは、白いご飯が欲しくなります―!」
「ちょっと、お酒が飲みたくなりますね―!」
米か酒に“丸投げ”すれば何とかなる。

サービスエリアや道の駅では、ご当地ソフトクリームが立ちはだかる。
「地元に名物を作らねば……」
ある種の強迫観念、もとい、郷土愛の名の元、土地土地の名産品を練り込んだ奇抜な商品。
醤油、山葵、イカ墨、昆布、海老……一見、ソフトと相性が悪そうだが、心配御無用。
僕の経験上、どんな食材も、ソフトクリーム化すると、甘さと冷たさが圧勝し、大概食える仕上がりとなる。

一応、
「えーーー!?これ合います―?」
食べる前に、眉を顰(ひそ)めるが、
「あっ……あーー、全然いけるーー!!」
とジワジワと感激した後、
「△△の香りが、鼻からスッと抜けて!」
「おー、仄かに△△の風味が後から追っかけて来てー!!」
とにかく、“鼻からスッと抜けて、後から追いかけ”れば問題ない。

5匹のイナゴの甘露煮がのせてある「バッタソフト」=長野県諏訪市
5匹のイナゴの甘露煮がのせてある「バッタソフト」=長野県諏訪市 出典: 朝日新聞

カットの後の「いや、マジで美味しかったなー……」

カットの声が掛かり、カメラが止まった後も、
「いや、マジで美味しかったなー……」
と後ろ髪を引かれるように、ブツブツ呟く。
武道で言う処の“残心”。
陸上競技ならばクールダウン、あるいは、ウィニングランか。

とにかく、急には止めず、余韻を演出し、
「撮影終わったのに、まだ言ってるってことは余程……」
と、店の方にも気分良くなって頂く。

駄目押しで、
「俺……買ってかえろ―!」
と低いトーンで購入宣言すれば上出来。
くれぐれも言っておくが、嘘を吐いているわけではない。
念のため。

カットの後の余韻を演、それはまさに武道…
カットの後の余韻を演、それはまさに武道… 出典:https://pixta.jp/

一日で六軒、計十数食

数年前。
一日で六軒の飲食店を訪れ、計十数食を僕一人で食レポする仕事を頂いた。
少々無茶だが、仕方がない。

まずは、一軒目。
三品程並べられた中に、黒豚の料理が。
「全然臭みがないですね―!」
いつも通り、無難なコメントを残す。
繰り返すが、偽りではない。
実際、美味しかった。

二軒目。
(……マジか!)
今度は牛肉料理が登場。
一軒目で、“臭みカード”は使っていたので、ソースの味や肉質の柔らかさに言及し難を逃れる。

三軒目。
何の悪夢か、再び豚肉の御登場。
豚の登板間隔の短さに戸惑いつつ、
「……全然臭みがないですね―!」
早くも二枚目の臭みカードを切った。

先に言っておくと、その日六軒の飲食店を回り、供された肉料理は計七品。
内、四品が豚肉であった。

結果、自棄になり、
「臭みがないですね―!」
を連発する僕は、傍から見れば、
(余程、飯の臭いにトラウマがあるのだろう……)
ムショ帰りの元囚人と同じに映ったに違いない。

肉料理七品の内、四品が豚肉の日も
肉料理七品の内、四品が豚肉の日も 出典:https://pixta.jp/

妻の手料理、コメント無しが一番旨い

帰宅し妻の手料理に箸を付ける。
「どうかな?」
聞かれるままに、
「おー……旨いよ」
と僕が返すと機嫌が良くなる妻。
後は、食い終るまでお互い黙っている。
コメント無しが、一番旨い。

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