連載
#20 ことばマガジン
「バイビー」死語じゃなかった? スマホ新機能に登場、ドコモに聞く
死語だと思っていたこの語がなぜ?
【ことばをフカボリ:3】
スマートフォンで電話していて「じゃあね~」と言って耳から離すと、自動で通話が切れる。そんなサービスを、NTTドコモが新たに始めています。「じゃあね」のほかにも、いくつかの「終話ワード」が設定されていますが、その中に異質な一語が……。「バイビー」。死語だと思っていたこの語がなぜ? ドコモに尋ねました。(朝日新聞校閲センター・広瀬隆之/ことばマガジン)
この春にドコモが始めた、終了の合図のことばで通話が切れる新サービス。耳に当てるだけで通話が始められるなどの機能と合わせ、「スグ電」の名が付いています。「基本操作を、画面操作せずにタップレスで操作できる機能」だそうです。
通話中のことばを認識して、終話ワードとなる「じゃあね」「バイバイ」「しつれいします」などと言ってスマホを耳から離したのを覚知して切ります。プリインストール段階ではこの3語だけでしたが、5月のアップデートで一気に27個増やし、対応機種でサービスが始まりました。
増やしたうちの多くは「方言終話ワード」。例えば、北海道なら「したっけ」、東北は「せばな」、関西は「ほなね」、九州なら「ならね」といったものです。
そして、「標準語終話ワード」も五つ追加。「おやすみなさい」「おやすみ」「またね」「しつれいいたします」、そして異彩を放つのが「バイビー」です。
筆者は45歳。少年時代にハマっていたテレビのお笑い番組の一つが、フジテレビ「オレたちひょうきん族」(1981~89年)。ビートたけしや明石家さんまといった、今もときめくお笑いレジェンドたちがそろった人気番組でした。
その番組などで「バイビー」という別れのあいさつが使われ、流行語となっていました。筆者の同年代の妻は、30年ほど経った今でも日常的に「バイビー」と言っています。
当時はほかにも、「バイナラ」(お笑い番組「欽ちゃんのどこまでやるの!」で斎藤清六が使用)、「バイちゃ」(アニメ「Dr.スランプ アラレちゃん」でアラレちゃんが使用)などもはやっていました。
でも、バブルも崩壊した頃からか、これらは見聞きしなくなり、死語の世界に入ったと思っていました。今、いくつかの国語辞書を見ても「バイビー」を挙げているものは見当たりません。
なのになぜ、最新の機能に採用されたのか。NTTドコモ広報部を通じて、企画者のプロダクト部・川村哲さん(41)にうかがいました。
――「スグ電」サービスを企画した経緯は?
フィーチャーフォン(ガラケー)との2台持ちをやめてスマホで電話するようになった私が、電話機能が使いにくいと思ったのがきっかけです。使いづらい理由が「ステップ数(電話をする際の作業数)」であることに着目し、減らすアイデアを練りました。
――「終話ワード」を選んだ基準や経緯は?
普段の生活でよく使うワードを列挙してみて、実際どのくらい使われているかユーザー調査をしました。トップ2は「じゃあね」(58%)と「しつれいします」(46%)でした。
――終話ワードに「バイビー」が入った理由やきっかけは?
バブル時代にはやっていたワードですが、その時代によく電話をしていた人たちにもスグ電を使ってもらいたいと思って入れました。ところが調査結果では、バイビーを使う世代は年配の方よりも10~20代が一番高くて驚きました。調べてみると、今もギャル語・若者言葉として使われていると分かりました。居住区でみますと圧倒的に関東の方が多いです。
――バイビーを入れたことへのユーザーの反応は?
「ドコモっぽくなくていい」「バイビーは使わない」など賛否両論ですが、よく話題にはしてもらっています。社内でも「死語ではないか」という話も当然出ましたが、年配の社員のウケはよかったです。
――バイビー以外に「バイナラ」「バイちゃ」といった死語的なことばも候補に?
挙がりましたが、死語ばかり入れてしまうとサービス自体に支障が出かねないので、バイビーだけにしました。今後は、こんな言葉にも対応して欲しいという強い要望が多ければアップデートでの対応も検討しようと思っています。
◇ ◇ ◇
なんとバイビーが、死語どころか今の若者たちにまた使われているとは……。埼玉の中学校に通う筆者の娘に聞いたら、同級生でよく使っている女子がいるそうです。
これは、世代を超えての大復活につながるかも。ことばの命って分からないものですね。それでは皆さまこのへんで、バイビ~!
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