話題
「モンゴルで背骨抜いてきた」達人が語る美しき「ぐにゃぐにゃ文化」
柔軟力の限界に挑戦するサーカス芸「コントーション」。本場モンゴルに22歳でひとり修行にいき、ぐにゃぐにゃを習得してきた女性が東京にいます。もーこさん(32)。現在、日本で唯一のコントーションスタジオの主宰を務め日本にコントーション文化を広めています。
北海道出身。高校生の時に2週間ほどの留学でモンゴルに行きました。そこで、伝統芸能として披露されたコントーションに度肝抜かれたそうです。
「日本だとビックリ人間というイメージかもしれませんが、ここでは芸術。感動しました」。またモンゴルに来ることを誓いました。
大学では、モンゴル語学科を専攻。就職活動に疲れた時に「あの草原に行きたい!」と、休学し、2年間の留学を決意します。
友人・知人に頼み、大人からでも学べる教室を探しますが、本気にされないか、「そんな場所あるわけない」と教えてもらうかのどちらかでした。
それもそのはず、モンゴルでは5歳から始めるのが普通で、10歳でも遅いそうです。
大人のもーこさんが「教えてください」と頼んでも、どこの教室も「冗談でしょう?」という返事。娘のために教室を探しにきたと勘違いされ「本人を連れてきなさい」と言われたこともあったそうです。
そのくらい、大人からコントーションを学ぶ、ということが「ありえない」ことだったと言います。なんとか頼み込み、学校を見つけることができたそうですが、修行はここから始まります。
もーこさんが留学した、10年前のモンゴルでは、コントーションは身近な習い事。日本でいうピアノと同じような感覚だそうです。
ただ、違うのは趣味の習い事、ではなく「将来の仕事」として真剣に考えている子どもたちが多いということ。
8人兄弟で親は無職。収入は自分のパフォーマンスで得たお金だけ…という子もいたそうです。
練習にはステージの上のような華やかさはなく、地味で苦しい、腕立てふせや倒立などの筋トレが中心。
「壁倒立5分!」と言われると「まじかよーやめたいなー」と思ったこともあったそうです。だけど、隣を見ると5歳の女の子が目に涙をためながら歯を食いしばって堪えている。
「私ってなんて甘いんだろう」。コントーションに向き合うしかなかったといいます。
子どもたちに囲まれながら、平日の2~3時間、練習場に通う日々が始まりました。
特につらいのは「シャハハ」(モンゴル語。圧迫の意味)。「3回本気で背骨が折れると思って、1回失神しました。ああ、私ゴビ砂漠に骨埋めるんだろうな…と(笑)」。
半年くらいでやっと慣れてきたといいます。「痛いのは痛いのですが、痛さの上限が見えてきたというか(笑)」。
1年を過ぎるころには「私が日本でコントーションを広めて、お世話になった人たちにお返ししたい」と思うようになりました。
帰国後は、海外のサーカスやパフォーマーなどを招く会社に就職。もーこさんの経験を聞きつけたポールダンサーらが「モンゴル仕込みの柔軟を学びたい」と集まってきました。
自宅をスタジオがわりに、個人的にレッスンを開いてたそうです。自宅も手狭になった、2年前に「スタジオ・ノガラ」を開校します。
スタジオ名の「ノガラ」とはモンゴル語の「オラン・ノガラルト」(芸術的な曲がり)に由来しています。英語でいうと「コントーション」ですが、「オラン・ノガラルト」はもっと「芸術的」な部分を強調しています。
ただ柔らかければ良い、というものではなく、美しく。ビックリ人間ではなく、芸術として高めていく…というモンゴル人の思いを大事にしたいという思いが込められているそうです。
大人から始めるコントーションを教えているところは、世界でも少なく、ニュージーランドやアメリカなどから教わりたいとくる人もいるそうです。
「ダンサーなど、柔軟を必要として始める人が多いですね。ですが、一般の人でも来て下さる方はたくさんいますよ。柔らかさへの挑戦、憧れ、畏怖みたいなものがあるのですかね」。
最年長は65歳。「ぺたーとついているのを見て、できなくても誰も年齢のせいにしなくなりましたね(笑)。どれくらい時間がかかるかは人によると思いますが、立ったままからブリッジになるのは誰でもできると思います」。