話題
安倍政権「1強の秘密」は選挙制度に? 「六つの言葉」で超解説
高い支持率を背景に、安倍晋三首相率いる自民党は国政選挙で連勝し、衆院でも参院でも「安倍1強」の状況が続いています。実は、1994年に見直された現在の選挙制度が、「1強」を形づくっている一つの要因なのです。「3バン」「刺客」「身を切る改革」「新しい判断」「鬼門」「事業仕分け」。六つの言葉で、そのカラクリを超解説します。
選挙に勝つための要素としてよく言われる「地盤」「看板(知名度)」「カバン(資金力)」の「3バン」。このうち「地盤」が選挙区です。
1993年の衆院選までは、衆院の選挙制度は「中選挙区制」、つまり一つの大きな選挙区の中から複数の候補者が当選できる仕組みでした。
政党にとって、衆院で過半数を得るためには一つの選挙区で複数の候補者を立てて当選させなければいけない。同じ政党のなかで競い合いが起こり、政党ではなく、個人の地元後援会に頼る選挙が定着したのです。
ですが、この「3バン」のうち、特に「地盤」の要素を突き崩したのが、のちの「安倍1強」につながる選挙制度改革でした。
1994年の選挙制度改革で、定数1の小選挙区制が導入されると、一つの政党から立候補できるのは一人だけ。政党に公認してもらわないと当選が難しくなるため、選挙の公認権を持つ党総裁の権限が強まりました。
この公認権をフルに活用したのが、2001年から05年まで自民党総裁を務めた小泉純一郎首相でした。
郵政民営化を国民に問うため衆院選を決断し、衆院を解散。すると、郵政民営化に反対する自民党の候補者たちを離党に追い込み、さらに、自民党の候補者を「刺客」としてその選挙区に送り込み、落選させようとはかったのです。
そして、この党総裁の強い権限は、現在の安倍政権でも大きな存在感をもっています。
2012年に政権に返り咲いた安倍首相。党総裁として戦った2度の衆院選、2度の参院選にいずれも勝ち、衆院でも参院でも全勢力の3分の2をおさえるという「1強」を築きました。
その就任は、もう一つの選挙制度改革である定数削減の議論と無関係ではありません。
国会は法律をつくる立法の役割。消費税率アップなど国民に負担を強いる法律変更が続くなか、国会自体が「議員の数を減らして、国の負担を少しでも減らそう」と、議員の数を減らす議論が続いてきました。
2012年秋、野党の党首だった安倍さんは当時首相だった野田佳彦・民主党代表から「議員定数の削減と消費増税はセットだ」と「身を切る改革」を求められ、自分が首相になったら約束通りに定数の削減と消費増税をすると約束。
その約束のもとで行われた衆院選で安倍さんの自民党が勝ち、政権に復帰したのです。
でも、2014年4月に消費税率8%への引き上げは約束通りに実現しましたが、15年10月に10%にさらに引き上げるという約束は守られないまま。
安倍首相は一度は2017年4月に10%に税率を上げると約束しましたが、再度19年10月への先送りを表明しました。先送りを表明した2016年6月の会見で、安倍首相は「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」と述べました。
参院選で安倍首相は勝利。8%から10%への引き上げは、当初の約束から4年遅れることになりました。
なぜか先送りしたいのかといえば、もちろん、増税はもっとも「不人気」な政策だから。
誰だって税金は安いほうがいい。歴史を振り返れば、消費税がいかに歴代政権にとって「鬼門」だったかわかります。
1989年4月に消費税3%を導入した竹下登内閣。リクルート事件の影響などもあって6月に退陣します。
1997年4月の橋本龍太郎内閣のときに消費税率が5%に引き上げられましたが、その後15年間にわたり、税率アップの議論は膠着します。
所得に応じて課税される所得税などと違って、大人から子どもまで国民が買い物をするたびに薄く広く負担する消費税は、負担感が強い。
買い物を手控えるようになるため、景気が冷え込む大きな要因になるとされます。「消費税を上げて選挙に勝った首相はいない」と言われるゆえんです。
でも、子どもの数がなかなか増えず、将来少ない働き手で多くの高齢者の福祉をまかなっていかないといけない。
そうしたときに、国が不要な支出を減らしていくことは必要。民主党政権では「事業仕分け」で財源をつくる、と言って結局できませんでした。
国会議員の「身を切る改革」は、5人や6人の定数削減では不十分だと多くの人に指摘されています。
国会議員の人数はどのくらいが適正なのか、健全な民主主義のためにはどんな選びかたがいいのか、政治を今のような独占市場のままにしていていいのか――。「一票」を投じる前に、あわせて考えたいポイントです。