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衆院選の「区割り変更」を部活に例えると…突然、隣の県の予選に!?
次の衆議院選挙で「選挙制度」が変わります。それって政治家の問題? いえいえ、わりと身近な問題なんです。なぜなら、「選挙制度」は私たちの意思、時には不満を国会の議論に反映させる「ルール」だから。「選挙制度改革」「区割り変更」。取っつきにくい政治用語を超解説します。
まず最初に、今回の変更を、とある県のA高校の運動部に例えてみます。
強豪校として知られるA高。毎年、全国大会を目指して練習を重ねてきました。
そして予選大会が開幕。と思ったら、A高は、いきなり隣の県の予選大会に入れられることに。
理由は、隣の県の学校数が少ないから。
隣の県は、A高の県の半分しか学校がありません。なので、競争率を近づけるための変更が実施されてしまったのです。
自分の県の予選大会のため、ライバル高校の対策を練ってきただけにショックは小さくありません。しかも、隣の県。予選の出場校は少ないものの、カリスマ指導者のいる全国大会常連のB高がいます。
A高にとっては「聞いてないよー」という状態です。今からB高対策の練習をして間に合うのだろうか……。
A高の悲鳴。これに近いのが「区割り」の変更です。
衆議院の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制。つまり、衆院議員は「小選挙区」で選ばれた295人と、全国11ブロックごとの「比例区」で選ばれた180人がいます。
このうち小選挙区とは、全国に295ある選挙区から地域代表1人を選ぶ仕組み。この選挙区の線引きが6月に見直されました。対象は19都道府県の97選挙区。全体の3割ほどにあたり、過去最多の規模です。
議員の数も、小選挙区が6人減り289人に、比例区が4人減り176人になりました。
選挙区は、住所地によって決まります。区割りが変わるということは、政治家にとって、投票をお願いする相手が変わり、これまでとは違う場所で、違う有権者に選挙活動をするということ。
候補者は多くの有権者に投票用紙に名前を書いてもらわないと当選できないので、まさに死活問題なのです。
そうした選挙区の一つを見てみました。
東京7区(渋谷区、中野区)は、中野区の半分が10区に移り、代わりに目黒、杉並、品川区の一部が編入されました。
7区を地盤とする自民党の松本文明氏の自宅は新10区にあり、次の衆院選に新7区で立候補した場合、自分に投票できないという事態になりました。
「せっかく名前を覚えてもらったのに困った」と長年の支持者は当惑しています。
より複雑なのは、小選挙区が1ずつ減る青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県です。
自分が立候補していた選挙区がなくなってしまうわけですから、現職の議員や候補者は「どこで立候補すればいいのだろう!?」と混迷しているのです。
とくに競合が激しいのが、前回2014年の衆院選で大勝し、多くの現職議員をかかえる自民党です。
たとえば熊本県の場合、5つの小選挙区が4つに減ります。現在5つの小選挙区すべてを自民党議員が独占していますが、このうち熊本4区が分割されて隣り合う選挙区に吸収されることに。
現職議員5人のうちあふれてしまう1人を比例区から立候補させることで全員が立候補できるようにできないかと調整しているようです。
なぜこうした「区割り」の変更を行うことになったのか。都市部の選挙区と地方の選挙区の間の「格差」を近づけるためです。
現在の選挙制度になって以降、有権者数が少ない過疎地の選挙区に比べ、都市部の選挙区は有権者一人の「一票の価値」が軽く、不平等だ――。
こんな訴えが各地の裁判所にたびたび提起され、最高裁からこうした状態が「違憲状態」だと指摘されてきました。
司法の判断を無視して見直しをしないまま次の選挙を行うと、選挙結果自体が憲法上、有効なものにならないおそれがあるため、国会自らが、自分たちの「選ばれかた」を見直す必要に迫られたのです。
そのためには、選挙区どうしの「一票の価値」を近づけなくてはいけない。選挙区の有権者数を調整するため、「区割り」の変更が行われることになりました。
区割りをする限り、一つの選挙区内の有権者の数をぴったり一致させることはできないので、ある程度の不均衡はしかたないとして、「違憲」な状態にあるかどうかを判断する目安としてきたのが「格差2倍未満」でした。
2倍未満におさえるには、都会の選挙区をよりこまかく分割して定数を増やすか、地方の選挙区を今よりもっと広くするしかない……。区割りを決める担当者たちは相当頭を悩ませたに違いありません。
選挙の投票や開票が自治体ごとに行われることを考えれば、同じ自治体のなかで選挙区を分けるのは現実的ではありません。
それでも、選挙区ごとの「格差」を縮めることを優先してつぎはぎした結果、市町村の境界を無視して別々の選挙区に分かれることになった自治体が全国で過去最多の105に上りました。
さらに、選挙区を1減らした岩手や熊本などでは超巨大な選挙区がうまれました。選挙区の端から端まで、一人の候補者が選挙期間中にとうていまわりきれる距離ではなさそうです。
地方の候補者からは「人口比だけにこだわれば、都会の代表ばかり国会に増え、地方の声が届きにくくなる」という悲痛な声も聞かれます。
もう一つ、問題があります。
今回せっかく新しい選挙区を決めても、有権者になじむ暇もなく、数年先の衆院選ではまた、区割りの見直しが行われる可能性があるということです。
2015年の国勢調査をもとに、将来の有権者数を推計して「2倍未満」になんとかおさえたのが今回の区割り。
ですが、2022年以降の見直しでは、人口比に応じて都道府県に議席を配分する「アダムズ方式」の導入が決まっているのです。
選挙のたびに、候補者の顔ぶれがまったく変わるのでは有権者はたまったものではありません。
また、次の衆議院選挙では、衆院議員のリストラともいえる「定数削減」も実施されます。
小選挙区で6人、比例区で4人が減ります。
現在の制度のもとで議員の数が見直されるのは3回目です。
理由は厳しい財政状況、つまり国のお財布事情です。この10年ほどの間に衆院議員の人数にあたる「定数」は500人から 475人に減り、次の選挙でさらに465人に減ります。
このように様々な変化が起きている選挙制度。「区割り」については、そもそも「2倍」の是正にこだわることが妥当なのかどうか。人口比で切り離したりくっつけたりという小手先の区割りの見直しが議員の選びかたとしていったいどうなのか――。
私たちの代表である議員の選び方は、民主主義の根っこ。議員の働きぶりをチェックするだけでなく、その選び方の土台についてもしっかり考えていきたいです。