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PKO、注目は危険な時だけ? 自衛隊・国連の元幹部がガチンコ議論
冷戦後の世界への「国際貢献」を掲げた日本で国連平和維持活動(PKO)協力法が成立し、自衛隊が初めてPKOで海外に派遣されてから25年。東京都内で記念シンポジウムがありました。北朝鮮が弾道ミサイルを繰り返し発射したり、中国が軍事力を増強したり、日本周辺も物騒になる中、世界の平和にどう関わるか。熱い議論が交わされました。
6月28日、東京・渋谷の青山学院大学。政府と同大学の共催で、シンポジウムは開かれました。25年前には生まれていなかった若い世代にも関心を持ってもらおうと、入り口には「PKO法協力法が成立」と1面トップで伝える当時の新聞が展示されていました。
これまでPKO協力法により20カ国に1万2500人を派遣してきた活動の写真パネルも並んでいました。憲法9条との関係で海外での活動地域や武器使用に制約がある自衛隊が、主に施設や道路などのインフラ整備にあたり、現地に溶け込もうと住民との交流にも努めてきた様子がよくわかります。
シンポが始まり、冒頭のビデオメッセージで安倍晋三首相が登場。冷戦終結直後の湾岸戦争で日本が人的貢献に踏み切れずにあまり評価されなかったことや、PKO協力法が世論が割れる中で成立したこと、最初の自衛隊派遣先となったカンボジアで日本人の国連ボランティアや文民警察官が武装勢力に殺害されたことをなどを振り返りました。
そして、直近の南スーダンPKOへの自衛隊派遣に触れ、「駆けつけ警護など(安全保障法制による)新たな任務も担ったことは大きな意義を持つ」と強調。「25年の取り組みは国際社会から高い評価を得てきた。積極的平和主義の旗を高く掲げ、より一層貢献していく強い決意です」と語りました。
その後に登壇したのは、カンボジア暫定行政機構(UNTAC)特別代表として25年前に現地で自衛隊と協力した明石康・元国連事務次長です。
「本来は停戦監視のため設立されたPKOだが、今や一国内や国をまたぐ民族、部族、宗教間の対立解消に懸命な努力を続けています」と述べ、21世紀に入っての「強力なPKO」への変化を説明しました。
そのうえで、「国連加盟国の共同活動であり、侵略行為に発展して憲法に抵触することは考えられない。あつものに懲りてなますを吹くことがないよう祈りたい」と語りました。
南スーダンの首都ジュバで大規模戦闘があった昨年以来、日本では自衛隊の派遣は憲法違反ではないのか、危険で活動どころではないのではといったことが議論になりました。施設部隊は今年5月に撤収を終え、日本はいま、PKOに部隊を派遣していません。明石氏はそんな日本の現状を案じているようでした。
シンポジウムでは、明石氏をはじめ日本のPKOに深く関わってきた6人のパネリストが語り合いました。
主な発言は次の通りです。
明石氏 南スーダンでの活動が終わり、日本は岐路にある。チャンスを生かし、グローバルな国として活躍するには国民の理解が不可欠だ。PKOの可能性と限界をもっともっと知ってもらい、危険に必要以上におびえる内向きな平和主義を克服することが大事だ。
折木良一氏(自衛隊制服組トップの防衛省統合幕僚長を務め2012年退官) 日本周辺の安全保障環境は非常に厳しく、優先順位が重要だ。PKOに300人の部隊を出すなら交代部隊の準備を含め3倍の900人はかかりきりになる。
むしろ人材育成などの平和構築能力支援で、相手国の立場で焦点を絞り、継続的にやるべきだ。警察やNGOと連携し、OBも使わないと。
長谷川祐弘氏(元国連東ティモール支援団事務総長特別代表) 南スーダンへの関与を施設部隊撤収で終わらせず、現地の政治指導者らが協力して治安を安定させれば、日本がカンボジアや東ティモール、アフガニスタンでやったような支援国際会議を主催すると促すべきだ。
日本のPKOから派遣先の国々が学ぶことは多い。国連の訓練センターを日本に設立してほしい。
岡村善文氏(アフリカ開発会議・国連安保理改革・人権担当大使) 世界の和平プロセスにどんどん口を出すべきだ。日本はアジアではカンボジアやスリランカ、ミャンマーなどでやってきた。
積極的平和主義を言うなら中東やアフリカにも関与を。海外で人道支援やビジネスをする自国民と特に情報面で連携するため、他の先進国のようにPKOの座布団を借りる発想も大事だ。
星野俊也氏(大阪大大学院国際公共政策研究科教授) 紛争に関する的確な情報と背景分析なしに現地で活動するのは無謀で、研究者と実務家、現地の人たちで協力できる。理念や哲学を提供するのも重要だ。
日本は人間の安全保障というアイデアを地道に主張し、SDGs(国連の持続可能な開発目標)での、誰ひとり取り残されるべきではないといった活動につながった。
主催者でPKOを担当する内閣府国際平和協力本部の宮島昭夫事務局長は「大変刺激的なコメントをいただいた」。
外交官としてカンボジア以来のPKOに関わる経験もふまえ、「南スーダンPKOでは6割の要員がアジアからで、アフリカへの支援がアジアの平和能力構築支援にもなる。日本の強みを生かすよう今後の取り組みを考えていきたい」と述べました。
3時間半にわたるシンポは、拍手で終わりました。
自衛隊が海外へ派遣される時や、現地が危険になった時にはPKOに注目が集まるけれど、それ以外はさほどで、国際貢献をめぐる国内の議論はなかなか深まらない――。そんな状況は、報道に携わる者として何とかしたいと思っています。PKOの現状に悩みつつ将来像を熱く語るこの日の議論に接し、思いを強くしました。
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