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中国の百科事典が「ウィキ」に宣戦布告 動員した学者は…2万人!
中国で2万人の研究者を動員した百科事典『中国大百科全書』の最新版の作業が進んでいます。ライバルは、ユーザー参加型のネット上の百科事典「ウィキペディア」です。あくまで専門家の情報にこだわる『中国大百科全書』。「文化の万里の長城」を目指す意気込みについて聞きました。
中国では歴史上、『太平御覧』(宋)、『永楽大典』(明)、『古今図書集成』(清)など百科全書に近い書物が作られてきました。
しかし、それらは科学技術の項目が少なく、古来の書籍を要約した内容がメインだったため、『ブリタニカ百科事典』のような存在の百科事典はありませんでした。
1978年の改革開放政策が確立した後、「中国大百科全書プロジェクト」が発足。『中国大百科全書』は鄧小平氏の指導の下、「中国大百科全書出版社」という出版社まで作られました。
第一版が出版されたのは1993年です。2万人を超える専門家が執筆し、74巻、1.2億字、8万項目、5万枚の絵が掲載されました。
第一版が出版された後、当時の総書記、江沢民氏が人民大会堂で執筆者の代表と会見しました。2009年の第二版が完成した際にも、人民大会堂で表彰大会が開催されました。
現在、主に流通しているのは、2009年に出版された紙の書籍の第二版です。全部で32巻、6万項目です。重量は全部で69キロあります。定価は8000元(約13万円)ですが、アマゾンでは割引が適用され、5277元(約10万円)で購入できます。
「中国大百科全書出版社」によると、中国では現在もまだ紙版のニーズがあり、第二版が出版されて以来、2.4万セットが売れたそうです。主な購読者は図書館、研究機関、政府機関、企業法人などで、個人では、大学教員らが購入しているといいます。
一方、インターネットの出現によって、辞書や百科事典は、オンライン版に移っています。
2012年に、250年以上の歴史を持つ『ブリタニカ百科事典』が紙版の出版を廃止し、オンライン版しか出版しないことを発表しました。
中国のネット上にも多くのオンライン百科事典が存在しています。百度(バイドゥ)の「百度百科」や奇虎の「360百科」があります。
そして、中国でもウィキペディアは大きな存在になっています。中国語版では2017年5月現在、92万を超える項目があります。ちなみに、現在中国ではウィキペディアのアクセスに制限がかかっています。一部の項目、例えば「ダライラマ」「習近平」「六四事件」などは見られません。また最近ではウィキペディアが見られないという情報もあります。
『中国大百科全書』では、第二版が出版されてから2年後の2011年、第三版の出版が決まりました。国務院(日本の内閣府相当)が許可書を出し、経費は、すべて税金から出されます。第三版ではオンライン版を公開し、無料になる予定です。
『中国大百科全書』第三版の狙いについて、執行総編集長の楊牧之(ヤン・ムズー)氏は2017年4月に北京であった編集座談会で次のように述べています。
「『中国大百科全書』は単なる本ではない。『文化の万里長城』だ」
『中国大百科全書』には、一項目の記事に平均1000文字の記述があり、その文字数は『ブリタニカ百科事典』の2倍にあたり、ウィキペディアに相当すると報道されています。執行総編集長の楊牧之氏も「ウィキペディアに追いつくだけでなく、追い越す」のを意識しているそうです。
「第三版自身が一つの知識のサービス体系です。全国民の科学文化リテラシーのレベルアップを目標としている公共知識のサービスのプラットフォームです」と、出版社も力を入れています。
ネット上に出現する「文化の万里長城」。いったいどんな内容になるのでしょう?
『中国大百科全書』の特徴は、専門家が自ら執筆していることです。
出版社は「編集には、100以上の学問分野の専門家が参加しています。執筆された文章は、別の専門家が査読した上で、編集者が再確認し内容を保証しています」と自信を見せています。
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