MENU CLOSE

連載

#10 みぢかなイスラム

改宗を決めた日、トンカツ屋へ でも今は…日本人イスラム教徒の日常

改宗を決めた日にトンカツを食べたものの…今も「ジロリアン」という日本人男性
改宗を決めた日にトンカツを食べたものの…今も「ジロリアン」という日本人男性

目次

 2017年5月27日、全世界で始まったラマダン。イスラム教徒の食生活を知る機会はなかなかありません。イスラム教シーア派に改宗した20代の日本人男性がいます。吉田隆さん(仮名)。イスラム教について学ぶうちに、改宗を決断したそうです。改宗すると決めた日、向かったのはトンカツ屋。そう、イスラム教は聖典コーランの中で、豚肉を食べてはいけないと定めています。ところが「今もジロリアンです」と言います。なぜ?

【PR】盲ろう者向け学習機器を開発。畑違いの挑戦に取り組んだ技術者の願い
【関連記事】
イランに小便器がない!厳格なその理由 「最も完全なかたちで排出」

イスラム教に改宗した日本人 なんで?結婚は?「1分で完了」の儀式
イランにもいるギャル系・おしゃれ女子 風紀警察と駆け引き

 

豚肉を食べられる最後の日

 

神田(聞き手)

やっぱり、豚肉は食べられないんですか。

 

吉田隆さん(仮名)

ええ、改宗をすると決めた日、親に電話をしたあとすぐ、トンカツ屋に行きました。もう豚肉は食べられないと思ったんです。

 

吉田さん

でも、数日後には食べてましたね。実はぼく、ジロリアン(ボリュームの多さで有名な『ラーメン二郎』のファン)で、チャーシューはやめられない。酒も飲みます。

 

神田(聞き手)

え。イスラム教では禁じられているのでは。

 

吉田さん

そうですね。でも、僕は実践にはあまり興味がないんです。毎日の礼拝もしていませんし。

 

吉田さん

そもそも、最近までお祈りのやり方自体を知りませんでした。自分で学ぼうとするまで、誰かが手取り足取り教えてくれるものではないんです。

 

神田(聞き手)

そ、そういうものなんですか…。
中東の定番料理、ケバブ。羊肉か鶏肉を焼いたものですが、やっぱり豚肉も食べたいよね
中東の定番料理、ケバブ。羊肉か鶏肉を焼いたものですが、やっぱり豚肉も食べたいよね 出典: 神田大介撮影

 朝日新聞テヘラン支局長としてイランに3年7カ月住んだ経験で言うと、豚肉や酒は絶対ダメというイスラム教徒はもちろんたくさんいますが、柔軟に対処するひとというのも案外います。

 人目のある場所と家の中ではルールを変える人も多いです。

 あるイラン人女性(もちろんイスラム教徒)は、「何を食べる食べないなんて、イスラムの信仰の中ではいちばんささいなこと。もっと本質的で、大事なことがたくさんあるのよ」と言っていました。

断食はどうする?

 

神田

ラマダンの断食(年に1回1カ月間、日の出から日没まで一切の飲み食いをしない)はしますか?

 

吉田さん

去年はじめて、1カ月通してやってみました。きつかったですね。衰弱して、生産性がものすごく落ちる。

 

吉田さん

邪道なんですが、夜明け前にたくさん食べた後にしばらく寝て体力を温存し、なんとか日没までやり過ごしました。

 

神田

イスラム教では、断食をすることで神に近付けるといって、神聖な行為だそうですね。

 

吉田さん

いやあ、早くメシが食いたいということばかり考えていました。

 

神田

うっ。えーっと、では断食後に何か自分の中で変化したことは?

 

吉田さん

あまりないですね。むしろ、そんなに大したことではないということがわかりました。

 

神田

吉田さんをマジメな人と言っていいのか、だんだん確信が持てなくなってきました。
断食=苦行ととらえられがちですが、イスラム圏でのラマダンはむしろお祝いごと。エジプトではランタンを飾ります=2017年5月25日
断食=苦行ととらえられがちですが、イスラム圏でのラマダンはむしろお祝いごと。エジプトではランタンを飾ります=2017年5月25日 出典: ロイター

イスラム教徒のほとんどは「生まれつき」

 

神田

ここまでのお話しを聞く限り、『イスラム教への改宗』という言葉の仰々しいイメージと、ずいぶん違いますね。

 

吉田さん

ほとんどのイスラム教徒って、生まれつきイスラム教徒なんですよ。親がイスラム教徒だったというだけで、自分で選んでイスラム教になったわけではない。あまり堅苦しく考えることじゃないんだと思います。

 

神田

イスラム教と言えば戒律の厳しいイメージがあります。

 

吉田さん

規範通りにすることももちろんあるけど、『ああ、守れなかった』ということもある。それは自分と神の関係の中での問題であって、他人がとやかく言ったり、強制したりすることではないんです。

 

吉田さん

もちろん、日本人のイスラム教徒の中には、もっと敬虔な人もいますよ。彼は会社員なので、上司に話を通していて、日々の礼拝は職場の空いた部屋でする。でも、忙しくてできないこともある。普段は酒は飲まないけれど、友だちに誘われたら断るのは悪いので付き合う。そんな葛藤を抱えていると話していました。
イランの首都テヘランのモスクの外で、神に祈りを捧げる男性たち=2016年9月9日
イランの首都テヘランのモスクの外で、神に祈りを捧げる男性たち=2016年9月9日 出典: 神田大介撮影

 そんな吉田さんにとって、神とは何か。神の存在を身近に感じるのはどんな時か。

 また、イスラム教徒になったことで、警察の目が気になることはないのか。

 次回はそんなことを尋ねていきます。

連載 みぢかなイスラム

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます